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ピンク頭エリオット・クレイン

Author: をち。
last update Last Updated: 2025-06-11 10:54:10
ほだされるな、か……。

俺は背にジワリと滲む汗を感じながら苦笑した。

「……もう遅いようだ」

エリオットの視線が明らかに固定されている。

あえて視線が合わぬよう微妙にずらしているのだが……目を合わせるまでそうしているつもりか?

クラスメートもそれに気づき、ざわつき始めた。

「エリオット様、アスカ様とお知り合いなのかしら?」

「いや、田舎に居たっていうし接点はないのではないか?」

「アスカ様に見惚れる気持ちは分かるがな」

なにかを期待するかのような視線が、俺に集中してしまった。

いや、どうしろと?

ゲームの中で知っているだけで、今世では初対面なのだぞ?

それに好印象を持ちはしたが、積極的に関わりたいわけでもない。

「遅かったか………」

アスナが大げさにため息をついた。

「仕方ねえなあ貸し一つな?」

すっくと立ちあがるアスナ。

俺に向いていた視線は一気に隣のアスナへと向かう。

「先生!よろしければ俺が彼に校内を案内しましょうか?

同じ中途入学した仲間として」

キラキラスマイルを披露して、ダメ押しにウインク!

「きゃああああ!アスナ様、お優しいっ」

「さすが面倒見がいいよなあ」

クラスメートの声を後押しに、エリオットに向かって微笑みかける。

「エリオット、どうだ?君さえよければ、だが……」

みんなこいつの外面に騙されているようだが、よく見ろ。

目の奥が全く笑っていないだろうが!

これは明らかにエリオットに対する挑発だ。果たして彼はそれに気づくか……?

驚いたように目を丸くしていたエリオットが、クスリと笑みを零した。

「あはは。……うん、分かりました。

………アスナ様、でしたか?ええ。よろしくお願いいたします。貴方さえよろしければ」

浮かべる笑みは無邪気なものだが……一瞬その目がキラリと光ったのを俺は見逃さなかった。

どうやら彼は無邪気なだけの人ではないようだ。さすがに公爵家と渡り合うだけのことはある。

能力と努力する力、そして状況を素早く判断し行動するだけのしたたかさも持ち合わせていた。

ゲームの中のアスカはそれに気づかなかった。

悪役で好き勝手していたアスカこそが、恵まれた家族と環境に育ち、「自分は無敵なのだ」と信じて疑わない無邪気な人だったのだから。

エリオットを「顔だけのやつ」と見くびったのがゲームのアスカの敗因だ。

俺は違う。自分で言うのはなんだが、あの家族の中で
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  • 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈   エックスデー

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