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レザースーツの監視官は、甘くない。

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-01 00:34:42

放課後の教室は、嘘みたいに静かだった。

「……とりあえず、今回の件は“ヒステリー”ってことで教員には報告したけど」

「便利な言葉だな、ヒステリー」

総一がそう呟きながら、窓の外を見た。街の空は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。

リリムは机に腰掛けて、くるくるとペンを回している。

「ま、また一人救っちゃったわけだけど♡」

「そういうノリで言うことかよ……」

総一がため息をつきかけた、そのときだった。

リリムの表情がふと曇る。手の動きが止まり、額に手を当てて顔をしかめる。

「……っ、あー……ちょっと、魔力、回らないかも……」

「大丈夫か?」

「なに、心配してくれるの? 優しいじゃん。惚れるよ?」

「惚れなくていい。寝とけ」

「ツレないねぇ。まあ、ちょっと“共有”しすぎたかも。さすがに昨日今日で暴走者ふたりは、しんどい」

そのとき。

「リリム=アズ=ナイトメア。……貴様が“違反悪魔”か」

冷たい声とともに、教室のドアが音もなく開く。

立っていたのは、黒革ロングコートに身を包んだ長身の美女。銀髪と黒サングラス、そして全身から滲み出る“格”の違い。

空気が一瞬で凍りついた。

「ちょっ……あんた、なんでここに――」

「地獄審問官《ヴェルダ=レイナ》。お前を“監視対象”として登録しに来た」

その口調は一分の隙もなく、容赦もなかった。

リリムが珍しく、言葉を詰まらせた。

「地獄審問官……冗談でしょ、なんであんたがわざわざ人間界に……!」

リリムの声には、明確な“焦り”が混じっていた。

ヴェルダ=レイナ。その名を聞いて怯まない悪魔はほぼ存在しない。

審問官──すなわち“契約の秩序”そのものを執行する最上位階級。

「軽薄で感情に流される悪魔ほど、私の監視対象になる。それだけだ」

「つれないこと言うなよ、レイナ先輩。アタシ、けっこう真面目だったよ?」

「その口を閉じろ。あとで縫うぞ」

「うっわ、言葉のナイフきっつ……!」

総一が間に入る。

「……つまり、リリムがどれだけ危ないか確認しに来たってことか?」

「お前が彼女の契約者か。……目つきだけはマシだな」

「は?」

「だが、信用はできない。お前がリリムを制御できる保証はない」

「俺が暴走したら、あんたがぶっ飛ばすって話だろ?」

「その通り。的確な理解力だ。気に入った」

リリムが口を尖らせた。

「ちょっと! なに勝手に“後見人”ポジションで収まってんのよ!?」

「審問官として、君を“地上での監視対象”に正式登録する。よって、私も――」

「いやな予感しかしねぇ……」

「当面、同居する」

「ほら出たァ!!」

総一が叫び、リリムが頭を抱える中、ヴェルダは当然のように窓際に座った。

「光の入りが良い。朝の紅茶も淹れやすい。床のきしみも、想定内だ」

完全に引っ越す気満々だった。

夜、アパートの小さなリビング。リリムは床に座り込み、アイスをぺろぺろ舐めていた。

「ふぅ……あいつが来ると、空気がピリッとするわねぇ」

「当たり前だろ。地獄の審問官がルームシェアとか、悪夢にも程がある」

「それ、悪魔の私が言うセリフだからね?」

ソファには当然のようにヴェルダが腰掛け、優雅に紅茶を啜っていた。

「ここの紅茶は……悪くない。人間界も捨てたものではないな」

「くっそ……くつろいでやがる」

総一はキッチンからジュースを取りに来て、リリムの隣に座った。

「なに、アンタもくつろぐの?」

「お前のせいで生活リズムめちゃくちゃなんだよ」

「へぇ、文句言いながらも隣に来てくれるのね。やさし♡」

「舐めんな。ついでだ」

リリムはくすっと笑って、アイスの棒を総一の唇に押し当てた。

「はい、間接契約♡」

「は!? なんの効力があるんだよそれ!!」

「ないけど? 楽しいからやった♡」

ヴェルダが静かにため息をつく。

「……お前たち、本当にこれで契約が成立しているのか、疑わしいな」

その後、リリムはベランダに出て、一人で空を見上げた。

「ねえ……また壊れるかな、この関係も」

小さく呟いた声は、誰にも届かなかった。……はずだった。

「冷蔵庫のプリン食ったのお前だろ」

背後から聞こえた総一の声に、リリムは咄嗟にアイスの棒を口に突っ込んでごまかした。

翌朝、ヴェルダはダイニングテーブルに資料を広げていた。

「これは……地上で未処理の契約案件リストか?」

総一がパンをかじりながら覗き込む。

「そうだ。ここ三ヶ月で確認された“異常契約”の中でも、特に危険度が高いものだけを抽出している」

リリムがトーストにチョコを塗りながら首をかしげた。

「ふーん、でもこれ、ただの“願いリスト”に見えるけど?」

「その通り。だが“歪み方”を見れば異常性がすぐにわかる」

ヴェルダは一枚の紙を指で叩いた。

「これだ。“国枝シンゴ”。高校生。願いは――“復讐したい”。対象は同級生三名。すでに一人が行方不明」

「……物騒すぎるだろ」

「彼は精神干渉型。怒りをエネルギーに転換し、身体強化と攻撃衝動を強制発動させるタイプだ」

「……なんでそんな危険なやつに契約が?」

「撒いてる存在がいる。わざと狙ってやってるんだ」

リリムがぼそっと呟いた。

「それ、もしかして……“契約屋”?」

総一が眉をひそめる。

「また厄介な言葉が出てきたな」

ヴェルダは静かに立ち上がり、黒革のコートを翻した。

「準備しろ。次の標的は、血と鉄を代償に“願い”を叶える復讐者だ」

朝の光の中、静かに殺気が立ち込めていた。

風もないのに、カーテンだけが微かに揺れていた。

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