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復讐の影は教室に潜む

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-03 03:13:53

「……それ、なんなんだよ」

朝の通学路。並んで歩く総一が、隣の小柄な少女を見て眉をひそめた。

リリムは、まるでファッション雑誌から抜け出したような制服姿に身を包んでいた。スカートの丈は校則ギリギリ、胸元のリボンは大きく揺れている。そして何より、表情が。

「ふふ……“人間らしい善良な生活”を送るためには、まず服装からよね。善良女子高生スタイル、いってみよー♡」

「いや、お前それ“善良”って言わねぇから。むしろ狙ってるから」

「はぁ? なんでよ! こういうのが“清楚”ってやつじゃないの?」

「どの雑誌で学んだんだよ……」

その後ろを歩くヴェルダは、腕を組みながらつぶやいた。

「契約違反者・リリムの罰ゲーム項目、“善良に人間社会で過ごす”。その達成状況を本日から定量評価する」

「定量評価……」

「“清楚演技ポイント”、“倫理的発言率”、“暴力自粛加減”など十項目でチェックして、合格ラインを下回ると“再審査”」

「地獄ってそういうとこなんだな……」

登校しながらも、総一の脳裏には昨日のヴェルダの言葉が残っていた。

──次の標的は、“血と鉄”を代償に願いを叶える復讐者。

「なあリリム。昨日の“復讐の契約”って、どんな仕組みなんだ」

彼女は足を止め、急に真面目な声色になる。

「……復讐者の契約はね、自分の痛みを他人に投げつけるものよ。罪悪感、後悔、恐怖……そういう感情に直接リンクする」

「ってことは、直接ぶん殴られなくても、心が壊れるってことか」

「そう。殴らずに壊す。自分が壊れていくことにも気づかないまま」

「クソだな」

「クソよ。でも、その“クソ”が、たいていの場合……人の心には、一番刺さるの」

校門をくぐると、いつもより重い空気が漂っていた。教師たちの間では、昨日生徒の一人が“原因不明の発作”で倒れたという話題で持ちきりだった。

総一は思わず、周囲を見回す。

──この中にいる。確実に、契約者が。

そして、それが誰かを突き止めた時、自分はまた“戦う”ことになるのだと、胸の奥で感じていた。

「国枝シンゴって知ってるか?」

昼休み。教室の隅に座った総一が、隣の席の男子にそっと訊ねた。

「ああ……あいつか。最近やたら静かでさ。前はちょっと話すやつだったのに、急に人が変わったみたいになって……」

その言葉に、総一は眉をひそめた。

「あとな、昨日聞いたんだけど――」

「なに?」

「国枝にちょっかい出してたやつが、昨日の“発作事件”の当事者らしいって」

その瞬間、教室の空気がひんやりと冷たく感じた。

リリムは窓際の席で脚を組みながら、じっと観察していた。

「国枝、あいつ……妙な匂いがする。普通の人間とはちょっと違う。呼吸のリズムとか、視線の流れとか」

「悪魔センサーか」

「そう。しかも、気配が“潜ってる”のよ。完全に自覚してるタイプの契約者だわ。無自覚じゃない」

その国枝シンゴは、まるで周囲の話など意に介さないかのように、ひとりでノートに何かを黙々と書き続けていた。

教室内の喧騒の中で、彼だけが“静止画”のように浮いている。

昼休み、総一とリリムは彼のもとへ歩み寄った。

「よ、国枝。ちょっと話せるか?」

声をかけた瞬間、彼の手が止まった。

が――顔を上げることもなく、国枝は無言でノートのページを破り、総一の机にそっと置いた。

そこには、赤黒いペンで書かれた謎の式が並んでいた。

「……これは」

「魔術式よ。契約の枠を応用した呪術的構造。つまり、こいつは“練習”してる」

「契約を練習?」

「そう。人を壊す手段を、ね」

そのとき、国枝がゆっくりと顔を上げた。

その瞳――赤い。だが、感情のない、死んだ魚のような光。

「もう、止まらないよ」

その一言だけを残して、彼は席を立った。

教室のざわめきが、遠く感じた。

総一が小さく呟いた。

「……あいつ、もう自分じゃない何かになってる」

放課後。校舎の屋上にて。

総一、リリム、ヴェルダの三人が柵にもたれながら、夕暮れの空を見ていた。

「国枝の反応、完全にアウトだったな」

「ええ。あれはもう、“契約が成立している状態”……それも高位。下手すると、代償に魂の一部を削ってるかも」

リリムの顔には、いつものふざけた調子はない。真剣な眼差しのまま、ぽつりと続ける。

「でも、変なのよ」

「何が?」

「契約してるのに、“暴走してない”」

総一が視線を上げる。

「昨日の発作事件も、計算ずくだったってことか?」

「そう。あいつ、自分の意思で契約を“操作”してる。普通の人間なら感情が膨張してコントロール不能になるはずなのに……」

「契約熟練型……?」

「ありえないとは言わない。でも“契約核”に直接触れた痕跡がある。たぶん、あいつ……誰かに“渡された”」

「契約を……渡された?」

ヴェルダがゆっくり頷いた。

「おそらく“リーパー”か“契約屋”の手口だ。契約核の一部を砕き、ターゲットに“植え込む”ことで擬似契約状態にする」

「つまり、黒幕がいる」

総一の声が低くなる。

屋上の鉄柵に手をかけながら、彼は目を閉じた。

「……一番やっかいなのは、自分の意思で壊すやつじゃない。“壊されてることに気づかない”まま壊すやつだ」

「そういうのを、“契約者”って呼ぶのよ」

リリムの言葉に、しばし風が吹く。

夕焼けの赤に染まった空の下、三人の影が長く伸びる。

ヴェルダが言った。

「契約核の残留魔力は、国枝の机の裏から検出された。“継続リンク式”だった。破壊には儀式解除が必要だ」

「それって……」

「相手の“本音”を引きずり出すか、魔術的に相殺するしかない。でも今の彼に、何を言っても届かないと思う」

総一は少しだけ歯を噛みしめた。

「それでも……言うだけ言う。殴るのは、それでも届かなかったときだ」

リリムがふっと笑う。

「その“真っ直ぐさ”、たまには使い道あるのね」

「毎日使い道あるわ!」

日が落ち、街灯が灯る頃。住宅街の路地裏。

国枝シンゴの背後に、影がついていた。

彼は振り返らず、足を止める。

「……来るのは、わかってたよ」

そこにいたのは、同じクラスの男子・葉山だった。数日前まで、国枝を執拗にからかっていた男。

「なんだよ、急に呼び出して。ビビって謝るつもりか?」

「ううん。終わらせに来たんだ」

その言葉と同時に、空気が変わった。

葉山の周囲に、微細な魔力の震えが走る。目には見えないが、確かに“空間”が歪んだ。

そして──葉山の足元がぐらりと崩れた。

「うわっ!? なに……っ」

縁石が砕け、路面が傾いたように錯覚する。彼の体が地面に引き寄せられるように転倒し、背中を強打した。

「ぐっ……!?」

「契約は、願いを叶えてくれる。でも……代償もある」

国枝は無表情のまま、葉山を見下ろす。

「俺の願いは、“あいつらを後悔させること”。それだけだったのに、気づいたら……止まらなくなってた」

葉山の手が震えた。足元から“契約紋”がうっすらと浮かび上がる。

「お、おい……お前、何を──」

そのとき。

「ストップッ!!! そこまでぇぇぇっ!!」

空から、奇声とともに飛び降りてきたのは──リリムだった。

しかも制服のまま。スカートが風でめくれ上がり、総一が「いやまずそこ直せ!」と怒鳴る。

「へっ? あっ……やだ、ちょっと見た?」

「見えたわ! 全部見えたわ! お前もアイツも! いろんな意味で終わってる!」

葉山「な、なにこの状況……」

リリムが地面に着地し、指をぱちんと鳴らす。

「契約術式、《暴走遮断》! 暴走する核、沈黙ッ!!」

地面に浮かんでいた契約紋が、淡く光を放ち、弾けるように霧散する。

葉山はその場で気を失い、崩れ落ちた。

そして――残された国枝が、ぽつりと呟いた。

「俺は……止めてほしかったのかもな」

リリムと総一が、そっと彼を見つめた。

「止まれてよかったじゃん」

「……ありがとな」

それだけ言って、彼はその場を去った。

しばらくの沈黙のあと。

「……やっぱ私、制服似合ってたよね?」

「話の流れ台無しだわ」

夜の空に、風が優しく吹いた。

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