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仮契約と、めんどくさい同居生活

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-07-28 02:52:56

──戦いは、あっけなく終わった。

地面には黒焦げのクレーター。暴走者・灯村トオルは気絶し、周囲の建物も燃え残る匂いを漂わせていた。

「……ふぅ。ギリギリだったね」

リリムが額の汗を拭いながら、ふにゃりと笑う。その身体はまだ黒革のまま。むしろ、蒸気で濡れて少し透けていた。

「おい、なんでそんな格好のまましゃべってんだよ……」

「だって、これが“指定衣装”なんだもん♡ 文句はバビロンコードに言って?」

総一は顔を背けつつも、しっかり横目で確認していた。肌にぴっちりと貼りついた黒革スーツ。腰回りのラインが妙に生々しい。

「なあ、それ透けてるってわかってんのか」

「うん、わかってる。ふふ、もしかして見て興奮してる? あ、魔力がまた共鳴しちゃうかも♡」

「……やかましい。帰るぞ」

リリムはしれっと彼の隣に並ぶと、腕にぴとっと体を寄せた。

「やっぱり、まだアタシの力……アンタの中に残ってたね」

「さっきの力か。……勝手に動いた。意識してたわけじゃねぇ」

「でも確かに反応してた。ってことは、これはもう“仮契約”ってことでいいよね?」

そう言って、リリムがいきなり総一の胸元に手を突っ込んできた。

「うお!? なにしてんだお前!!」

「契約報酬♡ 魂の味、ちょっとだけ確認♡」

彼女の舌が、喉元にぴたりと触れた。ひんやりした感触と、ぞくりとする刺激。

「ひゃっ……!? おまっ、やめろッ!」

「んふふ……昔よりずっと、おいしくなってる♡」

「バカかお前はああああああああッ!」

リリムはケラケラ笑いながら、黒革の胸元を押し上げ、無駄に揺らして挑発した。

「──で? なんでお前が俺んちにいるわけ?」

「ん? だってホテル代ないし。魔力ないし。帰る地獄も封印中だし。つまり……ここしかない♡」

総一の家、築四十年のボロアパートにて。玄関を開けた瞬間、リリムがすでにソファでゴロ寝していた。

「帰るぞって言った意味、理解してなかったなお前……」

「だって“お持ち帰り”でしょ? 女の子にこういうのさせといて、責任取らない男は最低よ?」

「いや誰がだよ!? てかその格好やめろ、視界が死ぬ!」

「えー? でもアタシ、黒革気に入ってるんだけど。ほら、こうすると──」

リリムは腰をくいっと突き出し、わざと胸元のチャックを一段階下げた。

「うわああああ!? やめろ、隣人に見られたら終わるッ!」

「大丈夫♡ 見せても魔力の契約にはならないから安心して?」

「そういう問題じゃねえんだよ!!」

半ば強引にリビングへ引きずり込み、毛布をかけて視界からリリムを排除する。

「ふぅ……落ち着け、俺……これは幻覚じゃない。現実だ」

リリムはケタケタ笑いながら、スマホを手に取って叫んだ。

「えっ、なにこれ!? この黒い板、しゃべる!? わあっ、勝手に画面光った!?」

「おいそれスマホ! 投げるな! 壊れたらマジで困るって!」

「スマホ? これが人間界の情報端末……ふむふむ……お、おにゃのこがいっぱい出てきた♡」

「それ広告だバカァ!!」

スマホを指でスワイプするたび、リリムはにやにや笑う。

「ねえ、この“ギャルゲーム”ってやつ、なんか契約の匂いがする……♡」

「するわけねえだろ! っていうか課金するなよ!?」

深夜、リリムは一人でスマホをいじりながらソファに寝転がっていた。

「うーん、この“ねっとふりっくす”ってやつ、悪魔の誘惑よりヤバいわね……♡」

画面の中で人間たちが恋愛したり裏切ったりキスしたりするたびに、彼女の尻尾がぴこぴこと揺れる。

一方、総一は台所でコーヒーを淹れていた。

「……騒がしすぎる。静かにできないのか、あの悪魔」

カップを片手に戻ってくると、リリムがふと振り返る。

「ねえ、総一。ちょっとこっち来て」

「は? なに急に」

「いいから。契約の痕跡、ちょっと見たいのよ」

リリムはスマホを操作し、“契約痕索アプリ”を起動する。彼女の手のひらに魔法陣のような光が浮かび上がった。

「暴走者・灯村の魔力、分析できた。これ、人間由来じゃない」

「人間じゃない……つまり?」

「誰かが“本物の悪魔じゃない存在”として、契約をばら撒いてる可能性があるのよ。かなり厄介なやつがね」

「なるほどな。最悪だ」

「ふふっ、そうやってすぐ顔をしかめるところ、変わってないわね」

リリムはにやりと笑うと、総一の隣に腰かけた。

「ねえ、怖がってくれる? アタシ、守ってもらう側って初めてなのよ?」

「……はぁ。どっちが守られてんだか」

リリムはくすりと笑って、そっと総一の肩に頭を預けた。尻尾がふにふにと揺れる。

「ねぇ、これ……新婚っぽくない?」

「寝ろ。今すぐ寝ろ」

「じゃあ、膝枕してくれたら寝る♡」

「お前、ほんとに寝る気ねえだろ」

翌朝。目覚ましのけたたましい音で、総一は目を覚ました。

「……うるせぇ……って、おい」

布団の中から見えるのは、黒革。隣には当然のようにリリムが寝ていた。しかも足が絡まってる。

「ちょ、なんでお前まで布団に入ってんだよ!?」

「んふぅ……だって寒かったんだもん♡ ぬくぬくしたくて」

「着ろよ布団じゃなくて服を! お前、そのままの格好で寝たのか!?」

「うん。脱いだらもっとヤバいでしょ? アタシに理性なんて期待しないでね?」

「お前なあああ……!」

騒ぎながら朝の支度。リリムは総一のシャツを勝手に着て、「これが“彼シャツ”ってやつ?」とノリノリで鏡の前に立つ。

「やば、私、彼女みたいじゃない?」

「違ぇよ! 一ミリもそんな関係じゃねえからな!」

「でも、ちょっとはドキッとしたでしょ?」

「……してねえよ!」

そんなやりとりを繰り返しつつ、二人は登校へ。

学校では、総一の親友・星川カイが登場。

「Yo! そうちゃん今日も眠そうだな~……って、誰!?」

リリムを見た瞬間、目を見開いて硬直。

「え、まって、あの、その黒革の方、地獄から来た契約悪魔的なアレっすか!? 俺、知ってる! アニメで見た!」

「いや落ち着け。こいつはただの居候だ」

「ただの!? このビジュアルで!?」

リリムはニコッと笑って、カイに手を振る。

「はじめまして♡ この人の“元”契約者、いまはちょっとだけ、寄生中♡」

「寄生……っ!? なんて素敵な響きッ!!」

総一は爆発した。

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