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第3話
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愛さなくなっただけ 第9話
「自分が間違ってたと分かってる。心から後悔してる。だけど清里、俺たち結婚して7年だ。諦めたくないんだ。これからは二度と君を傷つけないと約束する。だからもう一度、チャンスをくれないか？」隆樹は一言一句、心からの後悔を口にし、声と涙を絞り出し、何度か言葉に詰まった。隣にいた若い看護師も、彼の言葉に感動して瞳を潤ませ、私に隆樹の言葉にきちんと応えてあげてほしいと、切なげな視線を送ってきた。しかし、私は、最初から最後まで冷たい目で彼を見つめていた。その言葉には、心から諦めた後の静けさがあった。「もうチャンスはないの、隆樹」「いやだ！清里、お願いだから！」隆樹は感情が高ぶりすぎて、口から鮮血を吐き出し、見るも無惨な姿になった。そんな彼を見ても、私には何の心配や悲しみも感じなかった。ただ、無関心だった。神経修復手術を受けていたあの期間、私はもう絵が描けない悲しみに沈んでいたが、彼は一度も気遣う言葉をかけてこなかった。病院でリハビリ中に彼と偶然会った時、彼は私が彼をつけ回していると思い込み、卑劣な行為だと決めつけ、回復途中の私の手首を再び傷つけた。今になって、彼は軽々しい言葉で私の心を変えようとしている。馬鹿げているにもほどがある。「隆樹、あなたと一緒にいると、こんなにもたくさんの代償を払うことになるのなら、あの時、あなたを助けなければよかったわ」この言葉を残し、私は隆樹に背を向け、その場を去った。彼の顔から血の気が一気に失われ、鮮血を吐き出し、そのまままっすぐ倒れてしまった。病院の廊下には、看護師と医師が彼を救命する声が響いた。私は冷静に一瞥し、足を止めることなく、まっすぐに立ち去った。……その後、隆樹はもう私の心を取り戻せないと悟ったのだろう。裁判が始まる前に、彼は離婚協議書にサインした。財産分与の割合はそれぞれ二分の一ずつ、会社の株式も同様だ。彼と最後に会ったのは、役所で離婚届を提出した時だった。彼はまだ諦めていなかった。「君は、本当に俺に何の感情もないのか？」私は少し沈黙した後、頷いた。もはや形骸化したこの結婚生活を続けるために、これ以上無駄な労力を使いたくなかった。私は、ただ自分のために生きたいと願った。役所の外に出ると、先輩の車がドアの前に停まっていた。彼は
愛さなくなっただけ 第8話
捨てられた匂い袋が、隆樹によってすべてここに集められて吊るされていた。彼は、これらが私から彼への愛の証拠だと言っていた。長い年月が経ち、匂い袋は元々の色を失っていた。それは、まるで私から隆樹への感情が、歳月の侵食によって傷つき、色あせてしまったかのようだった。隆樹は庭に立ち、枯れ果てたクスノキをじっと見つめ、その目は驚きに満ちていた。私は冷淡に口を開いた。「匂い袋が欲しいんでしょ？だったら、まずこの木を生き返らせてみて」「なぜだ？どうしてこうなったんだ？」私は彼の驚きを無視して言った。「どうしてこうならないの？林社長、煙が出るのはお湯だけじゃなくて硫酸でもあり得るわ。そのくらいの化学の原理はご存知でしょ」皮肉めいた言葉は、まるで青天の霹靂のようだった。隆樹は長い間、声が出なかった。「今でも、私があなたに離婚を切り出したのが、たかが一本の木のせいだと思ってる？」隆樹は俯いて黙り込み、やがて、低く抑えた彼のすすり泣きが聞こえてきた。7年間捧げた心からの愛情は、あのパーティ―の夜に言われた彼からの一言に置き換えられてしまった。――君が勝手にやったことだ。俺は強要していない。彼は許される価値などない。私も、あのクスノキの代わりに彼を許すつもりはなかった。「恩知らずの人は、苦痛に苛まれて当然よ」この言葉を残し、私はその場を後にした。それから隆樹は二度と私の生活に現れることはなかった。半月後、私は見知らぬ電話番号からの着信を受けた。電話の向こうでは、隆樹の友人の焦った声がした。「もしもし、もしかして、奥さんですか？隆樹がひどく酔っ払ってしまって。早く迎えに来てください。俺たちが何を言っても帰ろうとしないんです。あなたの名前を繰り返し呼んで、待ってるって」電話を握りしめ、私は一年前のことを思い出さずにはいられなかった。彼が酔っぱらったという電話を受け、すぐにタクシーを飛ばして迎えに行った。しかし、個室に駆けつけると、隆樹が早月の膝を枕にして、彼女の手を何度もキスしているのが見えたのだ。その光景は美しく、私の目に突き刺さるようだった。目がひどく痛み、涙でぼやけた。今でも隆樹が言った言葉を覚えている。「何しに来たんだ？浮気現場を押さえに来たのか？それとも俺と早月の関係に口出しに来た
愛さなくなっただけ 第7話
隆樹はまるで彫刻のように、そこに立ち尽くしていた。私に積極的に話しかけることはなかったが、その場を去ることもなかった。懲役を避けるため、隆樹は早月を連れて、自ら謝罪に赴いた。会社の資金の半分を賠償して、ようやくこの件は収まった。先輩が電話をかけてきて、冗談めかして、このお金で私の結婚式を挙げろと言った。「まだ気が晴れないか？最初からあの犬畜生どもを簡単に許すべきじゃなかったな」先輩は憤慨して言った。「あの時、君が海外留学を諦めなければ、今の林隆樹なんてなかったんだ。まさか、あのろくでなしが、君を裏切るなんてな！」私は笑ったが、口からは思わずため息が出た。あの頃、私と隆樹は確かに深く愛し合っていた。彼の為ならすべてを捨てられるほどに。しかし、数年が経ち、すべては変わってしまったのだ。彼は私の尽力に慣れ、私の苦痛を無視することに慣れてしまった。当時、私を愛していると言ってくれた人は、ただ思い出の中にだけ存在していた。私は来月からZ市で新しい仕事に就くという先輩の誘いを受け入れた。私は営業から始めることにしたのだ。新しい仕事が始まる前に、先輩の指導のもと、地獄のような芸術の補習を受け始めた。ある夜、ちょうど先輩とのビデオ通話を終えたところで、ドアを叩く音がした。ドアを開けると、隆樹がひどく酔っぱらった様子で立っていた。その目には、言いようのない感情が渦巻いていた。「清里、いつになったら家に帰ってきてくれるんだ？もう早月には会社を辞めさせた。彼女とは一生関わらないと誓う。俺はまだ君を愛してるんだ。もう一度チャンスをくれないか？きっと、償うから」実は、早月の件は少し耳にしていた。私と隆樹が離婚話でもめていると知ってから、早月はさらに大胆になり、なんと会社で隆樹と関係を持とうとしたらしい。早月は社長夫人の地位を早く手に入れたいと焦っていたのだろう。隆樹がドアを開けた瞬間、彼女はセクシーなランジェリー姿で抱きついたという。その場にいた大口取引先や中小提携会社の担当者たちは、皆、あっけにとられてしまった。隆樹は人々の目の前で早月を追い出した。社内では陰口が広まり、中には写真を撮ってネットに流出させる者まで現れた。それ以来、早月は二度と会社に姿を見せなくなった。しかし、大手取引先は
愛さなくなっただけ 第6話
「昔、私が彼女に自分の作品を使うように強要した？私が彼女に名前を自分に変えるよう強要したかしら？それが今、著作権侵害で訴えられたら、彼女の身代わりになれっていうの？お二人は前世がコンピューターだったのかな？計算がうまいわね」隆樹は一瞬呆然とし、深く息を吸い込むと、決心したように口を開いた。「清里、この作品は君から出たものだ。もし早月に何かあったら、君も無関係ではいられないぞ！」彼の独りよがりに、私は感服した。もしかして、私が彼をあまりにも高みに持ち上げすぎたのだろうか？いったいどこからこの自信が湧いてくるというのだ？「林社長、昔はそんなことをおっしゃってなかったよね。社員のデザイン成果はすべて会社のものだとおっしゃったじゃない？退職したデザイナーとは一切関係ない、と」「お前！」隆樹は怒りに震え、何も言い返せなかった。「清里、君の中に怒りがあるのは分かっている。だが、今は事の大小を区別するべきだ。この難関を乗り越えたら、ルリ島に連れて行って、きちんと埋め合わせをするから」またしても、そんな見え透いた騙しの手口だ。ルリ島は、一年前のハネムーンで私が行きたかった場所だ。私が旅行計画をすべて隆樹に送った後、彼は出張を口実に、早月と私の作った計画で7日間を過ごした。この7日間、私は毎日早月のSNSで、二人がいかにイチャついているかを見せつけられたのだ。私はため息をついた。「離婚したら、助けてあげるわ」一度著作権侵害の罪が確定すれば、会社のすべての資金が凍結されてしまう。このことが、離婚後の私の財産に影響を与えることは避けなければならない。隆樹の顔に、想像していたような喜びの色はなく、むしろさらに険しくなっていった。「清里、こんな時にいじけてる場合じゃないだろう。君はもうずいぶんこの業界を離れてる。この件は君には何の影響もない。だが、早月は違う。彼女は今、キャリアの絶頂期だ。もし何かあれば、彼女の今後のキャリアは台無しになるんだぞ！」私の夫は、なんて良い人なのだろう。自分ですら身を守るのが精一杯の状況で、言葉の端々に自分の秘書のことを案じているのだから。「隆樹、あなたは本当に良い経営者ね。最初は秘書のために私の手を使い物にならなくし、今度は彼女の身代わりになれというのね。前世で何か極
愛さなくなっただけ 第5話
「何を言ってるんだ!?」隆樹は携帯を持つ指先をわずかに白くさせた。「本当に間違いないのか？」隆樹の顔に、驚きと疑念が交互に浮かぶのを見て、私はこの男が哀れで滑稽だと感じた。この期に及んでも、彼は私が医師と結託して、彼に芝居を打っていると疑っているのだ。隆樹は口調を柔らかくした。「この件は一旦置いておこう。後ではっきりと調べがついたら、君にきちんと償いをする。だから、まずはこの件を解決してくれ。そうしたら、これから先、君を大切にするから」男の約束なんて口から出まかせにすぎない。信じた者が馬鹿を見て騙されるだけだ。私は身につけていた服を整え、腕を組んで目の前の男を見つめ、自分の人を見る目を疑い始めた。一年前、早月が帰国し、隆樹の会社のパーソナル秘書として入社した。私が反対するのを恐れたのか、二人は電光石火の勢いで、私の会社での役職から外し、私の仕事の成果をすべて早月に譲り渡した。「会社のことを思ってのことだ。早月は海外で長年勉強してきた。彼女の助けがあれば、会社は必ずもう一段階上へ行ける。君も長年忙しくしてきたんだ。ちょうどいい機会だから、俺が君に約束したように、安心して奥さんの生活をエンジョイすればいい」当時、私は頭の中が真っ白になり、喉に何かがつかえて、息ができなかった。隆樹は本当にいい算段を立てるものだ。用がある時には私を利用し、用がなくなれば顔すら見たがらない。そして今、彼は再び同じ手を使おうとしている。私が困難を解決したら、また私を蹴り飛ばすつもりなのだ。私は冷笑した。「早月は海外帰りの高学歴者でしょ。彼女が著作権侵害問題を解決できないなら、私にはもっと無理よ。それに、今の私はただの専業主婦。会社の経営なんて何も分からないわ」以前、隆樹と早月が仕事の話をするとき、私を煙に巻くために最もよく使ったのがこのセリフだった。今、ようやくお返しすることができた。「清里、助けてくれ。この会社には君の心血も注がれてるだろう。このまま会社が訴えられるのを黙って見てるつもりか？今回の危機を乗り越えさせてくれたら、君が望むものは何でも叶える」この男は、感情に訴えかけて、早月のために道を開こうとしている。残念ながら、彼に対する私の愛情は、あのクスノキの死と共に、完全に消え去ってしまったのだ。
愛さなくなっただけ 第4話
隆樹をブロックする前に、私は一度だけ電話に出ることにした。電話の向こうから、突然騒がしい音が聞こえ、その後、隆樹の少し驚いたような声が響いた。「もう騒ぐのは十分か？匂い袋がなくなった。新しいのを作ってくれ」「ただの匂い袋でしょ？買えないなら早月に作ってもらいなさいよ。香辛料の農園一つで、満足できないの？」「君はな、嫌味ばかり言わないでくれないか？それはもうずいぶん前の話だろう、いつまで引きずるつもりだ？どうすれば気が済むんだ？」私はもう彼と口論する気力さえ失っていた。私たちは問題が起きるたびに、隆樹が直接向き合おうとすることはなく、代わりに物で私への埋め合わせと慰めを与えてきた。隆樹の心の中では、私が恩恵を受ければ、素直に水に流し、二度と口にしてはいけないことになっていた。私は思わず嘲笑した。「隆樹、すべてがお金で解決できるわけじゃないのよ。あの木はあなたを7年間も助けてくれた。7年よ。犬だって7年飼えば恩を知るのに、あなたはどうして、これほどまでに無関心でいられるの？」男は一瞬黙り込み、嵐の前の静けさのような沈黙が流れた。「清里、俺に対する態度に気をつけろ！」彼の怒りを無視して、私は独り言のように言った。「隆樹、私もあなたに7年間寄り添ったのに、あの日は早月のために怒ることしか考えてなかったのね。あなたの心の中で、私は一体何だったの？」私の冷静な言葉を聞き、男の声に少しの動揺が混じった。「君は俺の妻だ。あの時は衝動的だった。素直に帰ってきてくれ。家出のことももう不問にする。この二つのことはチャラだ」私は笑った。「チャラ？私たち二人の関係もチャラにしてもらえないかしら？」男の忍耐は再び尽きた。「清里、君は良い生活に慣れすぎて、少し苦労しないと自分を認識できないのか？この俺がいなければ、君なんて何者でもない。よくも離婚を突きつけられるもんだ。本当に離婚したら、一ヶ月も経たないうちに泣いて復縁を懇願してくるだろうな」私はわざと嘲笑し、電話を切ってブロックした。隆樹の自信は、私のデザイン特許が市場で非常に競争力があることに起因していた。しかし、彼を破滅させることも、私には簡単だった。Z市のカフェで、私は大学の先輩の頼みを受け入れ、自分の最新のデザインと特許をすべて移
