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第5話

Author: 福まみれ
凛音は不意に階段から転げ落ち、踊り場でなんとか止まった。

驚きと恐怖で全身が痛み、息も絶え絶えだった。

そして、両脚の間に広がる血を目にした瞬間、彼女の顔色は一気に青ざめた。

「お願い、私と赤ちゃんを助けて!」スマホは壊れて使えず、凛音は震える体で芽衣に助けを求めた。

だが芽衣は自分の頬を叩き、床に座り込んだ。

「きゃっ!吉永先生、もう叩かないで!そんなことしても、私、拓斗君にあなたを好きになってもらう方法なんてないよ、ううっ!」

その騒ぎを聞きつけて、拓斗が駆け寄ってきた。

「芽衣、大丈夫か!?」

彼は焦った様子で彼女を抱きかかえ、そのまま行こうとした。階段の下にいる凛音の存在には全く気づかない。

「拓斗、助けて!」凛音は慌てて呼び止めた。

彼女の体から流れる血を見て、彼の表情が一変する。

だが、彼が動く前に芽衣が彼の胸にすがりつき、涙をぽろぽろと流した。

「拓斗君、吉永先生、私を陥れるために自分で階段から落ちたの。ほら、血糊まで準備してたんだよ?最初から私を悪者に仕立てるつもりだったんだ。私、彼女に何かしたのかな」

その言葉を聞いた拓斗は、凛音を見下ろし、顔に嫌悪の色を浮かべた。「お前、本当に気持ち悪い」

「違うの!拓斗、私じゃない、芽衣が私を……」

凛音の言葉は最後まで届かず、彼は芽衣を抱いたまま去っていった。

彼女は震える声で何度も彼を呼び止めたが、彼は一度も振り返らなかった。

階段の角で彼の姿が見えなくなるまで見送った凛音の胸には、震えるほどの絶望と、やがて強烈な憎しみがこみ上げてきた。

まさか八年も付き合ってきた彼が、こんなにもあっさりと芽衣の嘘を信じ、彼女を見捨てるなんて。

結局、彼女はただの代用品だったのだ。彼の中では、きっと犬以下の存在だったのだろう。

あの「一途な彼氏」とか「ヒーロー」なんて、全部、嘘だった。

拓斗は、この世で一番最低な詐欺師だ!

凛音は自力で立ち上がることさえできず、全身の激痛に耐えながら、這うように階段を上った。

血が床に滲み、意識が遠のきそうになるが、倒れるわけにはいかなかった。

こんなところで死んでも、誰にも気づかれない気がしたから。

彼女が声を枯らして助けを呼び続けた結果、ようやくホテルのスタッフが気づき、急いで病院に運んでくれた。そこから先は記憶がなく、病院に着いたときにはすでに意識を失っていた。

26日の朝、凛音はようやく目を覚ました。

軽い脳震とうと極度の疲労はあったが、命に別状はなかった。

だが、赤ちゃんはもういなかった。

手術室から出てきたとき、彼女は現実感もなく、ただ呆然としていた。

あとたった四日で全てが終わるはずだったのに、なぜ今こんなことに?

お腹の中に宿っていた命が、永遠に消えたのを感じた。

「ちょうどよかった、芽衣に謝ってこい」

背後から拓斗の声がして、凛音の手を引いた。

彼女は彼を見上げ、胸が張り裂けそうになった。「私、何もしてない。芽衣が私を突き落として私たちの赤ちゃんを殺したのよ!」

「芽衣は、お前が流産したと嘘をつくだろうって言ってたんだ。まさか本当にその通りになるとはな」彼の目は、完全に失望で満ちていた。

「嘘なんかじゃない。私は妊娠3ヶ月だったの。信じられないなら、医者に聞いてよ」

「もういい。言い訳は聞きたくない。今すぐ芽衣に謝れ。でないとお前のしたこと、全部ご両親に話すぞ」

彼の冷酷さは知っていたつもりだった。

けれど、まさか、その冷たさが自分に向けられる日が来るなんて。

母は乳がんの手術を数年前に受けていて、精神的なショックは禁物だった。

父は心臓病を抱えていて、強い刺激には耐えられない。

凛音は力を失い、かすれた声で言った。「わかった。謝る。だから、お願い、親には言わないで」

「最初からそうすればよかったんだよ」

体調の悪い凛音は早く歩けず、拓斗は苛立ち、彼女を無理やり芽衣の病室へ引きずっていった。「ほら、芽衣に謝れ!」

「ごめんなさい」凛音は拳を握りしめ、か細い声で謝った。

芽衣は「声が小さいよ。聞こえなかったな」と言った。

「ごめんなさい」

「なんか誠意がないって感じ?」

凛音は、彼女が求めているのが屈辱だとすぐにわかった。

彼女は父と母の顔を思い浮かべ、深く息を吸い、声を震わせながら言った。「私が卑しくて、最低で、草野さんが志賀さんに優しいのが羨ましくて、だからあんなことをしてしまった。全部私が悪い、ごめんなさい」

「ふふ、まあ今回はギリ誠意が感じられたかな。でもね、私、二発もビンタされたんだよ?謝るだけじゃ割に合わないでしょ?私、優しいからあんたを叩けない。自分で二発ビンタしてよ」

芽衣は拓斗の腕の中で、純真そうに目をパチパチさせながら言った。

凛音は、これほどまでに無恥な人間が存在するとは思わなかった。赤ちゃんを死なせておいて、さらに彼女にビンタさせようとするなんて!

彼女は悲しみと怒りを押し殺しながら、無意識に拓斗を見た。

けれど彼は目をそらし、ただ哀れむように言った。「やれよ。終わったら、もうこれで帳消しだ」
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