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第6話

Author: 福まみれ
「は……」

凛音は思わず笑ってしまった。涙がつっとこぼれる。

あんな男を、どれほどいい人だと思い込んで、どれだけ愛してきたのか。自分の目が節穴だったことが、ただただ滑稽でしかなかった。

芽衣はからかうように目を細めた。「吉永先生、まさか被害者ヅラしてるの?」

拓斗は苛立ちを隠せず眉をひそめた。「早くやれ。芽衣は休まなきゃいけないんだ!」

「わかったわ」凛音は深く息を吸い、思いきり自分の頬を叩いた。

ぱしん。続けてもう一発。

彼女は燃えるような痛みを顔に感じながら、虚ろな目でふたりを見つめた。「これで満足?」

芽衣は唇を尖らせて首を傾けた。「なんか……ちょっと弱くない?」

拓斗は視線をそらしながら、吐き捨てるように言った。「続けろ」

ぱしん、ぱしん。

口元から血がにじむ頃になって、ようやく芽衣は満足げに笑った。

「吉永先生、これ撮っておいたから、グループチャットに送っておいたわ。あなたのためを思ってのことよ?恨まないでね」

凛音の顔は腫れあがり、ひりひりと痛む。もうここから早く立ち去りたい一心だった。「もう帰っていい?」

「いいよ。ただし、二度と流産したフリとかやめてよね。演技が下手すぎて、まるで道化師みたいだったわ」

死んだ我が子を思い出し、胸がぎゅっと締めつけられた。凛音は黙って踵を返し、ふらふらと歩き出した。

このどうしようもない恋愛の中で、自分は本当に道化師だったのかもしれない。

「夜はちゃんと飯作れよ。芽衣、カニラーメンが食べたいって。蟹味噌たっぷりな!」拓斗が追いかけてきて、まるで何事もなかったかのように命じてくる。

凛音はどうしてこの男が、何事もなかったかのように振る舞えるのか理解できなかった。

本来なら悲しみでいっぱいなはずなのに、心はもう、何の感情も浮かばない。ただ、吐き気がするだけだった。

「芽衣が私を階段から突き落として、子どもを殺したのよ。そんな人に料理なんて、絶対に無理!拓斗、今回は警察に通報しない。でも、よく覚えておいて。これで、私たちは完全に終わりよ」

拓斗が昔、凛音や家族にしてくれた恩は忘れない。でも、それはもう返した。

これ以上、その恩で縛ることはできない。

凛音の言葉は、断ち切るように冷たかった。

拓斗は一瞬、動揺の色を見せた。だがそれもすぐ怒りに変わる。「どういう意味だ?お前が芽衣を傷つけたんだぞ!どの面下げて警察に……」

病室の中から、甘えた声が飛んできた。「拓斗君」それだけで、彼は黙って凛音を振り切り、吐き捨てるように言った。「好きにしろよ、凛音」

その直後、病室からはキス音が漏れてきた。凛音は、昔の記憶がフラッシュバックする。

出会った頃の拓斗は、いつも寂しそうだった。彼はよく彼女に聞いてきた。

「お前は他の誰とも違う。お前だけは、俺を置いていかないよね?」

何が彼をそうさせたのか知らない。でも彼が不安になるたびに、彼女は何度でも言った。「うん。私はずっとあなたのそばにいるよ」

彼は彼女の男友達の連絡先を嫌がったから、全部削除した。

男と話すだけで機嫌が悪くなるから、極力関わらないようにした。

彼が「そばにいてほしい」と言えば、彼女はキャリアのチャンスさえ諦めて、彼のそばにいた。

八年。彼はそれが「当然」だと思っていた。

でももう終わった。

スマホがひっきりなしに鳴る。

開いてみると、自分が自分の頬を叩く動画が、複数のグループチャットに晒されていた。

【まるで捨てられた野良犬みたい】

【草野様の尻尾振ってる犬だよね。草野様がうんこ食えって言ったら、喜んで食べそう】

さらにはネットでも炎上し、拓斗と芽衣のカップルファンが大盛り上がった。

【ねえ見て!不倫者が制裁されてる】

【草野様、さすが!愛妻家すぎる!自社の脚本家にも容赦なし】

【脚本家やってりゃいいのに、勘違い女乙。身の程知らずが、自業自得だわ】

SNSは罵詈雑言で埋まり、凛音は全部のグループを抜けて、アカウントも削除した。

ちょうどそのとき、礼司から電話がかかってきた。「手伝おうか?」

「ありがとう。でも大丈夫。あと4日で、ここを出ていくから」

電話を切り、街を歩けば、「あの不倫者の脚本家、凛音でしょ」という聞きたくもない噂が耳に入る。彼女はタクシーで、かつて丁寧に作り上げた家へと戻った。

せめてもの救いは、年老いた両親がネットをやらないこと。

凛音は、体の痛みに耐えながら、ふたりのカップルスリッパ、歯ブラシセット、パジャマ、部屋の飾り、そして思い出のアルバム、手紙、旅行の記念品など、彼との八年すべてを、何ひとつ残さず捨てた。

そして、カレンダーの26日に、大きなバツ印をつける。

「もう少し。凛音、あと四日だけ、我慢すればいい」

彼女は空っぽになったお腹を押さえながら、ぽっかり空いた胸を感じていた。

八年間の恋は、全部ひとりよがりの空回りだった。

ただこの残り数日は、穏やかに過ごしたかった。

だが、27日の朝、拓斗から電話が鳴った。内容は「芽衣に弁当を届けろ」

拒否すると、今度は本人が芽衣を連れて現れた。

「芽衣の代わりに、お前が水落ちのシーンを演じろ」

凛音はもう、ここまで我慢してきた。あと少し、我慢すれば終わると思ってる。

けれど彼の要求は、もはや常軌を逸していた。

彼女は怒りを抑えながら、冷静に言った。「私は彼女のスタントなんてやらない。真冬の水に浸かったら、流産したばかりの身体じゃ、命に関わるのよ!」
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