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第48話:忍び寄る影

Author: 秦江湖
last update publish date: 2026-09-20 17:34:10

大呉服展の前夜、午後十時。

銀座の街が静まり返る頃、東城デパート本館の地下搬入口には、緊迫した空気が張り詰めていた。シャッターの向こうから、重厚な大型美術品輸送トラックのアイドリング音が低く響いてくる。

「慎重に運んでくれ。万が一にも桐箱に衝撃を与えるなよ」

渋沢マネージャーが白い手袋を嵌め、作業員たちに指示を飛ばしている。

トラックの荷台から運び出されたのは、人間国宝・佐竹宗雲氏が手掛けた友禅染の最高峰『雪月花』。門外不出と謳われ、保険評価額だけでも数億円を下らない幻の振袖だった。東友会の老舗旦那衆が東城デパートの再生を信じ、総会での議決権十五パーセントを賭けて託してくれた、この催事の生命線だ。

「佐倉さん、外回りの巡回はどうだ」

駆け寄ってきた渋沢に、私は黒縁眼鏡の位置を直しながら頷いた。

「正面口、裏口ともに異常ありません。ただ、警備会社の配置員に三人、宗一側の息がかかった人間が紛れ込んでいましたので、先ほどアリアンツ社から派遣された外部セキュリティと交代させました」

「手回しが早いな。助かる」

渋沢が安堵の息を漏らしたその時、私のスマートフォンのバイブレーションが短く震えた。
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