レーヴェン一味は残虐で、ローランドの側近達は前もって色々準備した方がいいとか言っていたが、私にはそうしなくても十分にルナールを説得する自信があった。
だから下手に小細工せずに真正面から堂々と行ってやろうと思っている。
ただその交渉に必要な、とある事は現在調査中だけど。「アデリナ。せめて交渉が無事に終わるまでは身分は隠しておけ。
これは命令だ。分かったな?」ローランドが気難しい顔をしながら、しつこくそう言ってきた。
◇
私達は、二名の側近以外の騎兵達を、万が一の時の為に周辺にこっそりと待機させておくことにした。
山間にあるルナール達のアジトは狭い入り口以外厳重に鉄柵で囲ってあり、また所々にいかにも山賊といった感じの見張りが立っていた。 山賊達は、堂々と正面からきた私達をすぐに取り囲んだ。 彼らは小説で出てきた、闘剣と呼ばれていた野太い剣をちらつかせる。 両手を上げて無抵抗だとアピールすれば、意外と紳士的な男達は私達を中へと連行した。門を潜れば城の要塞のような建物が見えてきた。
遂に目的のルナール達がいるアジトに突入成功である。「頭領、変な男女が頭領に会いてえと。」
「あ?………誰だお前ら。」その人物は中の一番豪華な部屋の椅子に座っていた。
ついにルナール登場!白に近く、不思議な魅力を感じさせる、横に束ねた肩までの髪。
少し優し毛な印象の垂れ目。 鼻筋が綺麗で唇の形も綺麗。 顔は凄く若々しい。今は私達を警戒して睨んでるから雰囲気は怖く感じるけど。 小説ではルナールの確かな年齢は登場しなかったが、若いという描写はあった。 今は男のふりをしているが、綺麗さが全然違う。うわあ。本当に美人すぎない!?
男の格好してるけど、女だって事は分かってる! ルナール!アデリナに続く、ローランドに泣かされる不憫第二号!つまり私とルナールは同志……!
上手く友達に◇ 「罪状、看護師リジーは国王陛下に横恋慕し、王妃陛下に毒殺未遂の罪を着せた上にタウゼントフュースラー伯爵と共謀し、王妃陛下を武力によって抑えつけた。 なおその毒は自ら服毒し、また始めから解毒剤を用意しておくという周到ぶり。 王妃陛下の髪飾りを盗み、証拠品であるかのように偽装した。 それ以前にも王妃陛下のよからぬ噂を広め、王妃陛下の尊厳を踏み躙った。 これにより看護師リジーは……」 あれから私は多くの人々の前で断罪されていた。 何でよ?私はヒロインなのよ? こんなの何かの間違いよ。 ねえ、ローランド王。 私のこと、愛してるわよね? 私に一生楽させてくれるんでしょう? 何でもう誰にもヒロインの力が効かないの? 罪人として裁判所の法廷に立たされ、辛辣な人々の視線を浴びながら、奥の特等席に座るローランド王を見上げた。 有罪判決が下ると、ローランド王がやっぱり氷のように冷たい瞳をして言った。 「私の妻に手を出した。 本来なら死刑にしたいが…… 私の妻はどこかの女と違って心が清らかなのでな。殺せば嫌がるだろうから…… よって看護師リジー。 お前を今すぐサディーク国に強制送還する。 その後は規律に厳しいことで有名な修道院に入ってもらうことにした。そこで一生、貧しい民や、病人達のために尽くすんだな。」 「はい〜。そんなリジーを、このサディーク国の王太子オデュロンが特別監視役となって国に連れ帰る事にしましたよー。 逃げたくても逃げれないからね? 一生、頑張って働いてもらうよう、見てるからね。」 その場に出廷していたオディロン王太子が軽い感じで恐ろしいことをケロッと言う。 それに加えてタウゼントフュースラー伯爵とセイディ達までもが断罪されていた。 「わ、私達は何かの魔法にかかって…!」 伯爵に至ってはアデリナ王妃を捕ま
だが、すぐに今の状況を察したみたいで、アデリナ王妃は青白い顔をした。 本当に笑いを堪えるのに必死だったわ。 残念だったわね。 ローランド王はもうすっかり私の虜よ。 あなたの役目はもう終わったの……!! 「王妃陛下……いえ、アデリナ様。 ご自分の立場を忘れないで下さいね。 あなたは所詮は性悪妻。 私とローランド王の恋を盛り上げるための、いわゆる《悪役》。脇役なんですよ。 だからもう、あなたは完全に用済みなんです。 悪役は悪役らしく、潔く退場してくださいね。 それではご機嫌よう。さようなら。」 そうして私は、絶望したような顔をするアデリナ王妃の前で扉を閉めた。 最高よ……!!私はヒロインだもの!! 最後は私が勝つに決まってるじゃない!! ————そう思ったのに。 部屋の奥に進むにつれ、やけに照明が煌々と灯っていて少し不思議に思った。 ふと、ベッドに座っているローランド王の姿が見えて一瞬喜んだ。 だが彼だけではなかった。 脇にランドルフ侯爵、それに見慣れない官僚が二人も立っていた。 え……?何これ……? 「リジー。お前がアデリナに罪を着せようと、自分で毒を飲んだという事はすでに分かっているんだ。 殺されたくなければ、素直に罪を認めるんだな。」 そこで私を待っていたのは私を愛するローランド王でも、私を優しく迎え入れてくれるランドルフ侯爵でも、私を見て鼻の下を伸ばす官僚達でもなかった。 「我々は事件の捜査官です。 嘘をつけばあなたの罪は重くなるでしょう。 さあ。白状してください。リジーさん。」 ……終わった。
他にもムカつくことがあるわ。 ローランド王とランドルフ侯爵もそうなんだけれど、この王宮にある神殿の神殿長、イグナイト様が私をすごい目で睨みつけてくるの。 金髪碧眼の男よ。 けれどかなりの美形なの。だから最初はローランド王を手に入れたらゆくゆくは彼も私のハーレムに入れてあげようかなって思ったの。 なのに。 「は………。欲まみれのゴミのような女ですね。 あなたがあの王妃陛下に勝てるとでも?」 神殿にお祈りに行った際、すれ違いざまにイグナイト様にポソっとそう言われたの。 あの目と言ったら。当初のローランド王やレェーヴと全く同じ!!嫌悪感丸出し。 しかも。私の故郷であるサディーク国のオデュロン王太子まで。 何でかは知らないけれど、彼は度々王宮を訪れていて、たまに城に滞在する事もあったわ。 女好きで有名だから、すぐ私に魅了されるだろうと思いわざわざ挨拶してあげたのに。 「え……? ローランド王は趣味が変わったのか? 悪趣味だな〜。 だけどこの女が本当に側室になるなら、俺がアデリナ王妃を自国に連れ帰って再婚してもいいけどな〜 子供も俺の子として育てるよ?」 大胆不敵な言葉をヘラヘラと吐き出したオディロン王太子を、ローランド王がキツく睨みつける。 「は……?ふざけないで頂きたい。 アデリナは私の妻です。この国の王妃。 大切な国母です! どこにもやりはしません………!」 さらに。 時々王宮を自由に出入りしているライリーという美少年まで、私を無言で睨みつけてくる。 かと思えばアデリナ王妃の前ではコロッと表情を変え、犬みたいに懐いてる。 何なの? どいつもこいつもアデリナ、アデリナって…… そのポジションは本来私の物だったのよ? ロ
だから私はある計画を思い付いた。 あの時、ローランド王の部屋で手に入れておいたアデリナ王妃の髪飾り。 いつか使えるんじゃないかと入手しておいて正解だったわ。 侍医から手に入れた軽めの毒を飲み、その場にアデリナ王妃の髪飾りを置いた。 もちろん死ぬつもりなんてない。 毒を飲んでも、私の部屋にこっそり用意している解毒剤を侍医に投与するよう指示してあるし、私が倒れたらタウゼントフュースラー伯爵にすぐに兵を引き連れ、アデリナ王妃を捕まえるようにと命令している。罪名は嫉妬による側室候補の毒殺未遂。 これで完璧よ!あの女を牢獄にでも放り込めれば、従順な兵に命じて暗殺もできる。 それが終わったらローランド王を落とすチャンスは、いくらでもあるわ………!! ◇「リジー。陛下より御命令だ。今晩寝室へ来るようにと。」 目を覚ました私を待っていたのは、ローランド王の寝室へのお誘い。 ランドルフ侯爵は事務的にそう告げ、二人の兵と同行するようにと言った。 聞いた話では、ローランド王は事件直後にアデリナ王妃を北の塔に閉じ込め、彼女ではなくすぐに私の安否を心配して部屋に来てくれたらしい。 これはヒロインの力が働いたと考えても間違いないわ。 「ふふ。ふふふふ……! 目を覚ましてすぐに、ローランド王の寝室へ来いだなんて。 もうこれは完璧に私のものになったって言う証拠ね。あははは!あーはっはっはっ!」 笑いが止まらなかった。 ローランド王の部屋前に到着すると、同行していた二人の兵は足早に去っていった。 そんなに待ち切れないのかしら?全く。ローランド王ったら。 だが。 「え……?リジー……?」 扉を閉めようとしたまさにその時、目の前にあの女が現れた。アデリナ王妃!
◇ 財務大臣のタウゼントフュースラーは、財務庁の業務のことで色々と指摘をされて、アデリナ王妃をかなり嫌っているらしい。 そんな人ほど私の力に簡単に魅了された。 これはチャンスだわ。 「ねえ。タウゼントフュースラー様ぁ。 私、ローランド王に恋をしてしまったのです。 どうか私タウゼントフュースラー様の養女にお迎えくださいませ。 そうして、どうか私をローランド様の側室として推して下さぁい。」 甘えた声を出し、大臣の肩に手を添えて畳み掛ける。 大臣もまんざらではない様子。 「よ、よし…!私がお前をローランド王の側室にしてやろう!」 鼻の下を伸ばす馬鹿な男…なんて操りやすいのかしら? そうして私はまんまとローランド王の側室候補に収まった。 侍従長を魅了し、鍵を手に入れ、ローランド王の私室で彼が来るのをこっそり待っていた。 いざとなれば、体で落とせばいい。 アデリナ王妃とは違う、可憐で可哀想な私を抱いたらローランド王だって心変わりするに決まっているわ……! なのに。……どうしてなの? 「私に触れるな……!それに私に許可もなく勝手に部屋に入ってきて、覚悟はできてるんだろうな? 侍医も侍従長も厳しい罰が必要だな……!」 いざローランド王に触れようとしたら、すごい目で睨まれて、おまけに手まで振り払われて拒絶された。 何よ。何なのよ? あなたは私の物なのよ? そうか。やっぱりあの王妃…… あの女も何らかの理由で未来を知っているのかも知れないわ。 だから阻止したのよ。 自分が贅沢するために。 やはり噂通り。ローランド王を都合の良い財布代わりにして、一生遊んで暮らすつもりなのね……!! 許せない。
ふうん。何だ。じゃあやっぱり今だけ? なら別に愛されてるわけじゃないのね? だったらいずれはローランド王も、あのランドルフとかいう補佐官も私の魅力に落ちるはずよ。 それから体調不良を理由に診察に行かず、アデリナ王妃にいじめられているという噂だけを流し続けた。 だけど何人かの城仕えのメイドや官僚達は、なぜかあの王妃の味方で、噂を信じてないようだった。 「アデリナ様が……?」 「そんなはずないわ。あんなにお優しい人だもの。その噂こそおかしいわよね。」 「あんなに素晴らしい大義を達成された方だぞ。絶対ありえない。」 ……何なの?こいつら。 私の力が全く効かないわ。何であの王妃に味方がいるわけ? ちっとも面白くないわ………!! それにあれからローランド王に何度か接触したけれど、当の本人は私を見ても知らんぷり。 「陛下……あの、今夜一緒に」 「何だ?私には愛する妻がいるのに、王である私を誘うつもりか? 残念だが、お前の相手をする気は微塵もないぞ。リジー。」 まるで氷みたいに冷たい瞳で、ローランド王は私をギロっと睨んでくる。 あのランドルフもやっぱり同じだった。 「なん……で?あの性悪の王妃が愛されてるなんて、おかしいでしょう? あの女、よくも……私のローランド王を!」 気に食わないことはまだある。 それはアデリナ王妃がローランド王との子を妊娠していることだ。 それもまた面白くない!まさか、そのせい? 本当にムカつく女だわ………!! そんな時にタイミングよく、あの女の方からお声がかかったの。私ってばやっぱり世界に愛されてるわね。 そして迎えたお茶会。 アデリナ王妃はなぜか懸命に私に笑いかけ、友達に接するみたいに優しくする。 イライラするわ。悪役として振る舞えばいいのに、何で良い人ぶるわけ……? あんたがいい人だと私が困るのよ!! もっと悪役らしく、