「ふざけないで……!浮気なんて許さないから……!」
「ふざけてないけど?なら別れる?
俺は別にいいよ。どっちでも。 お前といるより浮気相手といる方がずっと楽だし。結婚してから地味になったお前には、もう何の興味も湧かない。」特に反省した様子もなく、冷めた目をして部屋を出て行く翔を見て私は悟った。
もう……翔の気持ちは私にないんだ。
「うっ……っ、くっ、ううっ……」
崩れ落ちる様にその場にしゃがんだ。
震えと涙が止まらない。 どうしたらいいのか分からない。 離婚……?裁判……?だけど翔と別れたくない。
こんなにも愛してるのに、今別れたら本当に辛い。……耐えるしかないのかな。
◇
《ねえ、まだ別れないの?いつまで奥さんと一緒にいるの?》
《もうちょっと我慢してよ
結婚した手前、世間体とかあるからさ 後一年…いや半年したら絶対別れるから》 《もう、いつもそればっかり!》《ごめん、ごめん、怒るなよ
愛してるのは麗、お前だけだからさ》 バレたらバレたで、むしろ翔と麗は堂々と不倫するようになった。 バカみたいに毎日メールや電話でやり取りをし。 デートや不倫旅行も隠そうともしない。お陰で私とはレスだった。
彼の呆れた言い分はこう。 「不倫を許すなら離婚だけはしないでやる。 有り難いと思え。」◇ 財務大臣のタウゼントフュースラーは、財務庁の業務のことで色々と指摘をされて、アデリナ王妃をかなり嫌っているらしい。 そんな人ほど私の力に簡単に魅了された。 これはチャンスだわ。 「ねえ。タウゼントフュースラー様ぁ。 私、ローランド王に恋をしてしまったのです。 どうか私タウゼントフュースラー様の養女にお迎えくださいませ。 そうして、どうか私をローランド様の側室として推して下さぁい。」 甘えた声を出し、大臣の肩に手を添えて畳み掛ける。 大臣もまんざらではない様子。 「よ、よし…!私がお前をローランド王の側室にしてやろう!」 鼻の下を伸ばす馬鹿な男…なんて操りやすいのかしら? そうして私はまんまとローランド王の側室候補に収まった。 侍従長を魅了し、鍵を手に入れ、ローランド王の私室で彼が来るのをこっそり待っていた。 いざとなれば、体で落とせばいい。 アデリナ王妃とは違う、可憐で可哀想な私を抱いたらローランド王だって心変わりするに決まっているわ……! なのに。……どうしてなの? 「私に触れるな……!それに私に許可もなく勝手に部屋に入ってきて、覚悟はできてるんだろうな? 侍医も侍従長も厳しい罰が必要だな……!」 いざローランド王に触れようとしたら、すごい目で睨まれて、おまけに手まで振り払われて拒絶された。 何よ。何なのよ? あなたは私の物なのよ? そうか。やっぱりあの王妃…… あの女も何らかの理由で未来を知っているのかも知れないわ。 だから阻止したのよ。 自分が贅沢するために。 やはり噂通り。ローランド王を都合の良い財布代わりにして、一生遊んで暮らすつもりなのね……!! 許せない。
ふうん。何だ。じゃあやっぱり今だけ? なら別に愛されてるわけじゃないのね? だったらいずれはローランド王も、あのランドルフとかいう補佐官も私の魅力に落ちるはずよ。 それから体調不良を理由に診察に行かず、アデリナ王妃にいじめられているという噂だけを流し続けた。 だけど何人かの城仕えのメイドや官僚達は、なぜかあの王妃の味方で、噂を信じてないようだった。 「アデリナ様が……?」 「そんなはずないわ。あんなにお優しい人だもの。その噂こそおかしいわよね。」 「あんなに素晴らしい大義を達成された方だぞ。絶対ありえない。」 ……何なの?こいつら。 私の力が全く効かないわ。何であの王妃に味方がいるわけ? ちっとも面白くないわ………!! それにあれからローランド王に何度か接触したけれど、当の本人は私を見ても知らんぷり。 「陛下……あの、今夜一緒に」 「何だ?私には愛する妻がいるのに、王である私を誘うつもりか? 残念だが、お前の相手をする気は微塵もないぞ。リジー。」 まるで氷みたいに冷たい瞳で、ローランド王は私をギロっと睨んでくる。 あのランドルフもやっぱり同じだった。 「なん……で?あの性悪の王妃が愛されてるなんて、おかしいでしょう? あの女、よくも……私のローランド王を!」 気に食わないことはまだある。 それはアデリナ王妃がローランド王との子を妊娠していることだ。 それもまた面白くない!まさか、そのせい? 本当にムカつく女だわ………!! そんな時にタイミングよく、あの女の方からお声がかかったの。私ってばやっぱり世界に愛されてるわね。 そして迎えたお茶会。 アデリナ王妃はなぜか懸命に私に笑いかけ、友達に接するみたいに優しくする。 イライラするわ。悪役として振る舞えばいいのに、何で良い人ぶるわけ……? あんたがいい人だと私が困るのよ!! もっと悪役らしく、
何これ、ヒロインの力ってこんなにもすごいの? 出会う人出会う人にベタ惚れされるなんてこんな快感味わったら、もう元には戻れないわ! そうして私はついに[男主人公《ヒーロー》]であるあの人と出会う。 「リジー。こちらがクブルクの国王陛下だ。」 気品よく一本に束ねた、薄水色にも見える美しい銀の髪。切れ長の目。きれいな瞳。口元の色気のある黒子。 高身長。威厳のある、豪華な風貌。 これが、私と恋に落ちるクブルク国の王。 ローランド・フォン・クブルク……!! 何てイケメンなの!!? ああ、この人が私の運命の相手なのね! 私にたくさんの愛と贅沢を与え、私に一生楽をさせてくれる人………!! 「陛下………!」 いつもの調子で喜んでローランド王に近づいたら、なぜか側にいた眼鏡の男に阻まれる。 ……何よこいつ。誰よ? 「たかが一介の看護師が、王にその様に接近してはなりません。 下手すれば王族への無礼で処罰されることもありますので、どうかお気をつけ下さい。」 真面目そうなその男は後にローランド王の補佐官、ランドルフ侯爵だということが分かる。 だがなぜこの男に私のヒロインの力が通じないのか、分からなかった。 「は……?」 何でこの男には私の力が通じないわけ? それによく見たら、肝心のローランド王さえもまるで私に関心がないような冷え切った瞳をしていた。 怖…!何よその瞳。まるで氷みたい。 あなたの運命のヒロインがわざわざ会いに来てあげたのよ!? あなたは、もっと喜ぶべきでしょう!!? わけが分からないわ。 何でローランド王とあのランドルフ侯爵には、ヒロインの力が効かないわけ!? こっちは屈辱に震えているのに、お構いなしにローランド王とランドルフ侯爵は何か内緒話をしていた。 「陛下。今日は王妃陛下の調子も良く、夕食をご一緒にされるとのことです。」 「……そう
私、リジー。 この世界の愛されヒロイン。 何でそう思うかって? うふふ。それは私が神の天啓を受けたから。 [お前には今から〇年後に、サディーク国とクブルク国の戦争で運命の出会いが訪れる そこでお前は、瀕死のクブルク国王の命を救い、彼に熱烈に愛される だがクブルク王には邪悪で強欲な妻、アデリナがいる 彼との愛を引き裂こうと、アデリナはあらゆる卑怯な手を使うだろう だが臆することはない 何故ならお前はこの世界のヒロインだから 必ずお前はクブルク王との愛を貫けるはずだ] 親が早死にして天涯孤独。 そんな私は孤児として教会で暮らし、大人になってからは看護師として貧しい人々に奉仕作業をする日々を送っていた。 ……ぶっちゃけ、こんな生活嫌だと思っていたの。 何で私が見ず知らずの人の命を救わなきゃいけないわけ? 死にかけたお婆さんや、病気の子供、はたまた任務中にヘマして傷を負った兵など。 みんな貧乏だし、臭いし、仕事は無報酬だし最悪。しかも病人は笑顔まで求めてくる。 私の笑顔は見せ物じゃないわよ! そうしてある日突然受けた、神の啓示。 死ぬほど大喜びしたわ。 だから早くサディークとクブルクが戦争を始めてくれないかしらって。 そこで死にかけたクブルク王に出会い、恋に落ちるのよね。 ああ、何てロマンチックなの? しかも彼はアデリナという性悪妻を捨て、最後はこの私を選ぶのよね? ステキ。ステキ過ぎるわ。 そうなれば私はやがて王妃に……! そして体験した事もない贅沢をして、見た事もないお金に埋もれながら暮らせるのね! 今から待てないわ。早く。 早く戦争になってよ……! 私の幸せのために……!! なのに。 [物語が狂った ア
え?ちょっと待って……私まで公開告白をさせる気じゃないでしょうね? 動揺する私にローランドはさらに追い打ちをかける。 そして誰にも聞き取れないほどの小さな声で囁いた。 「———アオイ」 「え?」 「お前の魂がすでにアデリナじゃないのは分かってる。 だが、その事も全て含めて愛してる。 お前はアデリナであり、アオイでもある。 そんなお前を丸ごと愛しているんだ。 だから、私をこれ以上困らせないでくれ。」 え………ちょっと……… え?えええ!!! 予想外の展開過ぎる………!!! 私が上坂葵だって、正体がバレてたの!?? 一体、いつから………??? 顔を持ち上げたローランドは私の前髪をすくい、額にそっとキスをした。 「り、リジーは?リジーはどうなったの?」 「リジーはお前の悪い噂を言いふらした証拠と、自作自演で毒を飲んだ証拠を突きつけてサディーク国に送り返した。 厳しい修道院に送ったから、もう二度と出ては来れないだろう。」 「彼女と恋に落ちて…… 愛した、はずでは………」 物語の強制力は? ヒロイン補正は? それで恋に落ちたはずでしょ? 「すでに愛する妻がいるのに……?」 そう言ってローランドが優しい微笑みを浮かべる。 その時、久しぶりにウィンドウが出現した。 ずっと見れなくなっていたローランドの親密度の文字が……レインボーカラーに。 [ローランド 現在の親密度▷▷▷ すでに【真実の愛】に到達しています
ふと兵の間にいたランドフルに目線をやると、その通りですという風に頷いた。 え…………? 「いいか、アデリナ。 よく聞け。 私が愛しているのはお前だ……! 他の誰でもない。 私はお前を愛しているんだ………!! 私はアデリナ・フリーデル・クブルクを心の底から愛している…………!!!」 「え…………?」 え? その場がシン、となる。誰もがローランドの叫んだ言葉に、理解が追いつかずに。 だってこの人「氷の王」だから。 そんな人からこんな情熱的な告白が聞けるなんて誰も思ってなかったから。 「全く。お前が居なくなったのを知った時、私がどれだけ心臓を潰されるような思いをしたか。 これ以上、私をおかしくさせないでくれ。 お前は間違いなくクブルクの王妃だ。 そして私の愛する唯一の妻。 だから、早く私達の子を連れて、私の元に戻ってきてくれ……」 私の……愛する……唯一の……妻? 「頼む。もうこれ以上、気が狂いそうなんだ。」 ローランドの掠れた声が、私の耳元で聞こえた。 なぜならローランドが私を抱き寄せ、私の肩に蹲るように顔を埋めたから。 ええええええええええええええ? 今の……公開告白!?? こんなに大勢のクブルク兵や町民達の前で? 何それ、何その潔さ。 何よりそれ、本当なの? 「ローランド?……貴方が私の事を愛してるって……それ、本当に?」 「ああ、本当だ。嘘など言って