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第4話

Author: こいのはな
結衣は空気を読んで、適切なところで口を挟んだ。「拓海、みんなが知佳のことを悪く言ったからって、不機嫌にならないでよ。ほんとにみんな、あなたのことを心配してるんだから。長い付き合いでしょ?言い方がちょっときつくても流しなさい。真に受けちゃダメ!」

「怒ってないよ」拓海はスマホをしまい、淡々と言った。

「もういい。知佳はどこにも行かない。さあ、続けよう」

結局この五年間、知佳は拓海の家以外、どこにも行き場がなかった。

文男が結衣を見て、ぼそっとつぶやく。「やっぱ結衣は大人だな。もしあのとき別れてなかったら……」

「何言ってんの?」結衣は眉をひそめて睨んだ。

「一晩中無神経なことばかり言って!拓海はもう結婚してるんだから、そういうこと言うのは失礼でしょ」

そう言いながらも、どこか未練をにじませるように拓海を見つめる。「私が戻ってきても、何も望まない。ただ、みんながまだ受け入れてくれて、そばにいてくれるなら、それで十分……」

「バカなこと言うなよ。お前はずっと俺たちのアイドルだ。誰かがいじめるなら、俺たちが黙ってない!なあ、拓海?」文男は胸を叩き、大げさに笑った。

拓海は言葉少なに、ただワイングラスをくるくる回しているだけだった。

その光景は、どこか懐かしかった。

昔から拓海は、こうして仲間たちと結衣がはしゃぐのを静かに見守り、度が過ぎたら最後に判断を下していた。

今回も同じように視線が拓海へ集まる。彼は口元に笑みを浮かべ、短く答えた。

「もちろんだ」

……

知佳は家に戻らなかった。

予約していたホテルに泊まった。

ドアを閉めた瞬間、胸に溜め込んできた屈辱と痛みが一気にあふれ出す。

文男が足を引きずる真似をした光景が何度も脳裏によみがえり、笑い声が呪いのように耳から離れない。

仲間たちが陰で自分のことをどう言っているか、知佳はずっと前から知っていた。けれど拓海には一度も口にしたことがなかった。

彼らは拓海の長年の親友だから。拓海が外でどれだけ苦労しているかも分かっていた。

だから余計な問題を起こして迷惑をかけたくなかったし、ましてや自分のせいで拓海と仲間との間に亀裂を作ることなんて望まなかった。

でも今思えば、それは思い上がりだった。

拓海が自分のために仲間と対立するわけがない。

あれは彼の大事な仲間たちだから。

じゃあ私は何?

拓海が恩返しで仕方なく結婚した「負債」で、足手まといで、私がいなければ彼の人生はもっと楽だったんじゃないの?

「知佳はただの足の悪い女だ。お前が結婚してくれなければ誰ももらわない」

「足が悪いくせに拓海みたいな男と結婚できて、何が不満なんだ?」

「もし俺が拓海だったら、車に轢かれて足を悪くした女なんて絶対に家に迎えない。笑いものになるだけだ」

「他の社長はみんな上品な奥さんを連れてるのに、うちの拓海だけは人前に出せる妻がいない」

……

五年間で耳にした数々の陰口が、一気に押し寄せて心をかき乱す。

息ができなくなるほど胸が痛み、肺が裂けそうに苦しかった。

震える手で、五年間一度も開けなかったスマホのアルバムをタップする。学生時代の練習や公演の映像が詰まっていた。

舞台に立てなくなってから、全部そこに封印して、パスワードをかけて二度と見なかった。

知佳は震える指で動画を一つ開く。

音楽に合わせて回転し、宙返りし、宙を舞う自分。

あの頃の私は輝いていて、軽やかで、雷鳴のような拍手を浴びていた。

あの時、人を助けたのは間違いだったの?

でもあの瞬間は、拓海と結婚するなんて考えもしなかった。

結婚したいと言い出したのは拓海の方で、盛大なプロポーズまでして、指輪を持って膝をつき、自分に希望をくれたのに。

知佳は力いっぱいスマホの電源を切り、ベッドに倒れ込んで大声で泣いた。

どれだけ泣いたのか、自分でも分からない。

涙が枯れ果てるまで泣き、残ったのは胸の痛みだけ。それは炎のように焼き付く痛みだった。

けれど、その痛みのおかげでようやく少し冷静さを取り戻す。

痛みが強ければ強いほど、目が覚める。

知佳はバスルームに行き、顔を洗って気持ちを落ち着けた。

鏡の中の、輝きを失った自分を見つめて、小さくつぶやく。「知佳、泣くのは一度で十分。もう泣かない。ちゃんと食べて、ちゃんと休んで、明日はちゃんと試験を受けるの」

唯一の救いは、この五年間、退屈を紛らわせるために毎日勉強を続けていたことだった。

大きな夢があったわけじゃない。ただ、時間がありすぎて退屈だったから。

生活の中心は、拓海の帰りを待つことだけだった。

けれど彼はいつも帰りが遅い。

最初は仕事が忙しいのだと思っていた。でも本当は、彼女と顔を合わせたくなくて帰らなかったのだと後で知った。

それは知佳の耳で聞いてしまったから。

知佳は以前仕事に集中する拓海を心配して、勇気を出して愛妻弁当を作り、会社に届けに行った。そして聞いてはいけない話を聞いてしまった。

それは拓海と親友の会話だった

「なんでまだ帰らないんだ?こんな時間、もう社員も残ってないのに。社長が残業してるのか?」

そう聞かれた拓海は、自分の口で言った。「知佳の気持ちにどう向き合えばいいか分からない」

当時の単純な彼女には意味が分からなかった。でも親友はすぐに察した。

「まさか……拓海、お前らまだ夫婦らしいことしてないって言うなよ?」

拓海は黙っていた。

それが答えだった。

彼は一度も知佳に触れたことがなかった。

彼女はそれとなく示したことも、自分から積極的になったこともあった。

でもそのたびに「体調が良くないだろ」「最近疲れてる」など理由をつけて避けられた。

バカじゃない。分かっていた。愛していないから触れたくないんだって。

でも拓海の口から直接聞いた瞬間、心臓が万本の針で貫かれたように苦しかった。

その後、親友は半分冗談、半分本気で尋ねた。「拓海、まさか知佳を見ても全く反応がないってことはないよな?だって知佳はすごく綺麗じゃないか」

その時の拓海の答えは、今も知佳の心に刺さったままだ。「普通の夫婦になりたいって思って試したこともある。けど、知佳の足を見ると……すぐに気持ちが冷めてしまうんだ」

そういうことだったのか。

あの足は、人を助けた代償で傷跡だらけになり、筋肉が萎縮してしまった。

その足が、拓海の目には気持ち悪く映り、興味を失わせるものだった。

彼女はその時、ドアを叩くこともできず、せっかく作った弁当を会社のゴミ箱に捨てた。

それ以来、二度と拓海の会社へは行かなかった。

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