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第94話

Author: こいのはな
「どこへ連れて行くつもり?」知佳は眉をひそめて問いかけた。

拓海は何も言わず、静かにハンドルを握り続けた。「着いたら分かるよ」その声だけが、妙に穏やかだった。

「行かない!おばあちゃんの家に行きたい。あなただけ行けばいい。ここで降ろして!」知佳はドアノブに手をかけた。

「知佳!」拓海は彼女が飛び出すと思って、急ブレーキを踏んだ。

ドアを開けようとする知佳の手を、拓海が身を乗り出して押さえ込む。「知佳、どうしてそんなに俺を警戒する?まだ俺を信じられないのか?」

知佳は冷たく笑った。「まだあなたを信じられると思う?」

あなたの会社で、命を落としかけたのは誰だった?どうして信じられると思う?

拓海の手が止まり、眉間に深い皺が寄る。「知佳、君が今何を考えてるか分かってる。でも、俺がどんなに最低でも……君を傷つけたりしない」

自分がクズだって、分かってるんだ……

狭い車内で拓海の手が知佳の手を押さえつけ、その体が覆いかぶさるように近づいてくる。息をするたび、吸い込む空気は拓海の匂いばかりだ。

抵抗したい。拓海の髪から漂う見知らぬシャンプーの匂いが、ただ嫌だった。

知佳は息を止め、左手で彼の胸を強く押した。

その瞬間、拓海が動きを止め、知佳を見つめた。

「拓海、あなた……」

言葉を最後まで言う前に、拓海の顔が傾き、頬に唇が触れた。知佳は反射的に顔をそらしたため、唇を奪われずに済んだ。

「拓海、狂ってるの!」二人の体がより密着しているのを感じた知佳は体を押し返そうとするが、右手を取られて助手席に押さえつけられる。

「狂ってなんかいない」拓海の声が低く響く。そして、彼の唇が知佳の首筋をなぞった。「もう結婚して五年だろ。そろそろ、子どもがいてもいい頃じゃないか?」

知佳は息を呑んだ。

五年間、触れようともしなかった人が、今になってそんな話を?

もし、半月前に同じことを言われていたらどれほど嬉しかっただろう。きっと泣きながら抱きしめていたに違いない。

けれど、もう遅い。

あまりにも、遅すぎた。

「拓海、子どもはいらない。婚姻中の無理強いだって、立派なレイプよ」知佳は冷たく言い放つ。「やめなさい」

それでも拓海は止まらず、頬に軽くキスを落とした。けれどそれ以上は続けず、耳元に口を寄せて囁いた。「もちろん、ここではしないさ。俺たちの子どもが、車
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