ラビリンス

ラビリンス

last update最終更新日 : 2025-11-11
作家:  空蝉ゆあん完了
言語: Japanese
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概要

ラブコメ

ハッピーエンド

お嬢様

貴族

契約結婚

三角関係

王族

礼儀作法も姫としての立ち振舞もしないーー お転婆姫と呼ばれるラビリンスは一人の王子と出会っていく。 男性に抗体がない彼女からしたら彼の存在は型破りだった。 二人の課せられた契約の先には何が待っているのかーー

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第1話

第一話 出会い

私はこの国が好きだ。宮殿の中からその光景を見つめながら、そう思った。空からは三日月が顔を出し、黒い海を照らしている。現実離れした空間の中に沢山の想いが隠れている。私は瞼を閉じ、自然の音に耳を傾けながら、全ての感覚を楽しみ続けた。

2つの視線が同じ光景を見続けている。それは運命が引き起こす小さな物語だったのかもしれない。ミハエルは白い制服に身を包み、敵国の中に隠れている。2つの国は手を取り合い、彼らの想いを組んでいく。裏で動いている共鳴に気付く事なく、真っ直ぐと見つめている。

その先にいる私に言葉を投げかけるようにーー

第一話 出会い

バタバタと走る私は父から呼び出されて、周囲の瞳にどんなふうに見られているかを忘れてドアを突き破っていく。怒号にも似た音はその場にいた人達の興味を攫い、思った以上に目立つ結果となっていく。

「ラビリンス……お客人が来ているのだぞ? あれほど落ち着けと……」

私を呼ぶ父はいつもよりも緊張感を纏っている。いつもの父ならここまで怒る事はないのだが、今日に限っては違っていた。客人が来ていると言った父の顔色は真っ青になっている。もしかしてとんでもないタイミングで激突してしまったのかもしれない。

父は普段とは違い余所行きの服に着替えていた。小さな国と言っても一刻の王である。この国は西洋と呼ばれている文化が発達している。私達の中でその名称は全ての歴史を繋ぎ、未来を作る光の名称ーー貴族達は自分の存在価値を示すように、自分の立ち位置と作法を熟知していた。そんな周囲と比べると私は逆の方向性を突き進んでいる。最初は異国のサムライに憧れて剣を振り回したり、沢山の行動で父は頭を抱える結果となってきた。

私の父であり、国王でもあるゲリア・メルゲル。長い髪を一括りにしているがその風貌は力強さと優しさを併せ持っている。その父がここまで顔色を変えるなんて、相当の人物が来訪しているのだろう。ヒョコッと興味本位で父の後ろに姿を隠した来客に視線を注いでいくーー

私が揺れると反対方向に揺れる人物は「くくくっ」と笑いを堪えながら楽しんでいる様子。十回くらい繰り返している私達に気づいた父は、ため息を吐いた。

「ラリア王子……私の娘をからかうのは止めていただきたい」

「ああ。悪い、悪い。このお転婆姫が面白くて、つい」

王子と呼ばれる人は父の背中から顔を出し、私の前へと歩いてくる。その姿は周囲を圧倒させる美貌を持っている。呆気を取られた私の顔を見るたびに、笑いが堪えて仕方ないらしい。その様子をぼんやり見ていた私は、彼の笑い声に引き戻された。

どれだけ美男子でも、やっていい事と悪い事があるーー

本当は口にしてしまいたい。言いたい放題言ってすっきりしたい気持ちが膨れ上がっていく。それだけラリアは私にとって腹立つ相手だった。内心に抱えている感情が表情に浮き上がると、機嫌がよさそうに私の前に跪くと、宙ぶらりんな右手に手を添え、キスを落とした。

ちゅっと手の甲に広がる甘い香りを受け入れる事が出来ない。私は初めての経験にフリーズしながら全てを手放していった。男性に対しての抗体を持たない私にとって、これは刺激が強すぎる。姉達はこういう空間に慣れているのだが、私には無理だった。

「ラビリンス!!」

遠くから父の叫び声が聞こえてくる。目の前で微笑むラリアの姿が歪んで見えるのだが、気のせいだろうか。揺れる脳を庇うように思考がシャットダウンしていくとパタリと倒れてしまった。

「ラビリンス、君には刺激が強すぎたのかな?」

「……やりすぎですよ、ラリア様」

「ん? 私は挨拶をしただけだ。何がやりすぎなのだ? ミハエル」

「貴方って人は」

ラリアはいつも以上の怪しさを纏いながらミハエルとの会話を楽しんでいる。その腕には私がすっぽりと守られるように彼に抱かれていた。苦しそうな表情を浮かべながら、ブツブツと何かを言っている事に気づいたラリアは、聞き取りやすいように私の口元に耳を忍ばせていく。

「……あり、え」

「ん?」

「だーかーら……」

「ほう」

「ありえない、あの王子、ありえない」

「……」

拒絶された事実を突きつけられると、作っていた表情が一気に崩れていく。彼にとって今まで出会った事のないタイプのお転婆姫に興味を惹かれた瞬間だったーー

「面白い姫だな」

ゲリアが見ている事も忘れて、いつもの彼へと変化していく。その姿は王子と呼ぶには程遠い。美しい顔から溢れたのは悪魔の微笑みだった。彼の背中しか見ていないゲリアは気付く事なく、ラビリンスを受け止めた姿に逞しさを覚えた。彼になら娘を預ける事が出来ると確信を得る事が出来たのだから。

口調が変わっているラリアに忠告をするように咳を一つ出していくミハエルがいる。二人の間で決められている暗号はすぐにラリアに伝わると、何事もなかったように元の表情へと切り替えていった。くるりと振り向くとゲリアに救護室の場所を聞き、ラビリンスを運んでいく。

どんな事があっても側から離れる事のないミハエルをその場へ留まらせ、城の内部を観察するきっかけを掴めた事に安堵していた。ふと見下ろすと子供のように眠りこくるラビリンスの姿が視界に満ちていく。今まで感じた事のない感情と噂通りの姿に笑みが溢れてしまう。

「眠り姫みたいだなーー今だけは」

起きている時と眠っている時のギャップは天と地の差。自分の立場を目的に近づいてくる女性は沢山存在した。しかしラビリンスは彼女達とは違う生物。日常に飽きていたラリアはこの出会いを心の中で噛み締めながら、歩いていく。

風が悪戯をするーーふんわり香るのははちみつの匂いだった。

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第一話 出会い
私はこの国が好きだ。宮殿の中からその光景を見つめながら、そう思った。空からは三日月が顔を出し、黒い海を照らしている。現実離れした空間の中に沢山の想いが隠れている。私は瞼を閉じ、自然の音に耳を傾けながら、全ての感覚を楽しみ続けた。 2つの視線が同じ光景を見続けている。それは運命が引き起こす小さな物語だったのかもしれない。ミハエルは白い制服に身を包み、敵国の中に隠れている。2つの国は手を取り合い、彼らの想いを組んでいく。裏で動いている共鳴に気付く事なく、真っ直ぐと見つめている。 その先にいる私に言葉を投げかけるようにーー 第一話 出会い バタバタと走る私は父から呼び出されて、周囲の瞳にどんなふうに見られているかを忘れてドアを突き破っていく。怒号にも似た音はその場にいた人達の興味を攫い、思った以上に目立つ結果となっていく。 「ラビリンス……お客人が来ているのだぞ? あれほど落ち着けと……」 私を呼ぶ父はいつもよりも緊張感を纏っている。いつもの父ならここまで怒る事はないのだが、今日に限っては違っていた。客人が来ていると言った父の顔色は真っ青になっている。もしかしてとんでもないタイミングで激突してしまったのかもしれない。 父は普段とは違い余所行きの服に着替えていた。小さな国と言っても一刻の王である。この国は西洋と呼ばれている文化が発達している。私達の中でその名称は全ての歴史を繋ぎ、未来を作る光の名称ーー貴族達は自分の存在価値を示すように、自分の立ち位置と作法を熟知していた。そんな周囲と比べると私は逆の方向性を突き進んでいる。最初は異国のサムライに憧れて剣を振り回したり、沢山の行動で父は頭を抱える結果となってきた。 私の父であり、国王でもあるゲリア・メルゲル。長い髪を一括りにしているがその風貌は力強さと優しさを併せ持っている。その父がここまで顔色を変えるなんて、相当の人物が来訪しているのだろう。ヒョコッと興味本位で父の後ろに姿を隠した来客に視線を注いでいくーー 私が揺れると反対方向に揺れる人物は「くくくっ」と笑いを堪えながら楽しんでいる様子。十回くらい繰り返している私達に気づいた父は、ため息を吐いた。 「ラリア王子……私の娘をからかうのは止めていただきたい」 「ああ。悪い、悪い。このお転婆姫が面白くて、つい」 王子と呼ばれる
last update最終更新日 : 2025-10-15
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第二話 相好の戦乙女
ソッと体を労るようにラビリンスをベッドへと沈ませていく。この場所は他と違って洗礼されている雰囲気があった。救護室といってもそれは周囲がそう言っているだけに過ぎない。通常なら宮殿の中に救護室がある事は珍しかった。ここに運ばれてくる患者達の看護を行っている人々は修道院が排出している。その役目を全うする為に慈善活動の一つとして宮殿に救護室なるものを作ったのだ。専門的な医者はここにはいない。ラビリンスは第四王女だ。その立場に見合った医者でしか診察出来ないのは当たり前だった。王族には王族専属の医者がいる。何かある時は王からの呼び出しでこの宮殿に入るのが殆どだった。しかし今回は少し特殊。ラリアからしたら挨拶をした程度の事なのだが、ラビリンスからしたら意識を飛ばす程の衝撃を受けてしまった。その様子を見ていたゲリアは医者を呼ぶまでもないと判断し、救護室へ連れていく事を了承してくれた経緯がある。「ラビリンス様……一体どうされたのですか」眠り続けているラビリンスを見た修道女のミミコットは声を荒げ、顔を苦痛に歪ませる。王女がここに来る事は滅多としてない。彼女からしたらいつも通りの日常を過ごしていた所にポンと王女が運び込まれたのだ。当然と言えば当然だろう。「彼女は戦陣として出る事が多いですからね。疲れが溜まっていたのでしょう」ラリアは咄嗟に思いついた言い訳を事実のように話していく。彼の口から適当な事が出ている事に気付けないミミコットは「成る程」と納得した姿を見せる。ラビリンスがこうなった本当の経緯を知られるのはあまり良くないと感じたようだった。寝顔を見ているラリアの姿を見て、少し安心したように視線を向けた。二人の姿はミミコットから見ると夫婦のように見えて仕方ない。16の年の二人を見守りながら、自分の今出来る事を淡々とこなしていく。洗面ボウルを手にラビリンスの元へとやってきたミミコットはラリアに気を使わせないように頬笑みで語る。その姿はまるで聖母のように輝いていた。どんな立場の相手にも同じように微笑みを零す事で安心感と安定感を作り出していく。窓から溢れる太陽の光も相まって、彼女の背中に天使がいるように見えた気がした。濡れた布をラビリンスの額に当てながらゆっくりと顔を拭いていく。ミミコットはどんな場面でも対処出来るように丁寧に作られている絹糸で出来た布を使用した。肌を傷つけな
last update最終更新日 : 2025-10-15
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第三話 運命を握る二人の男性
時間が経つのは早い。ラビリンスと出会ってから3年の月日が流れ、今に至る。お転婆姫と言われ続けた王女を心配していたミミコットはラリアの存在を知り、ホッと心のつかえが取れていく。自分が引き下がる事で二人の空間を守れるのなら、満足だったのだろう。布で隠された二人の気配を感じながら、嬉しそうの微笑む彼女がいた。 「姫様……心配させてはいけませんよ」 ラリアの前ではこの呼び方を控えていた。彼は救護室のもう一つの顔を知らない。だからこそ、何も言わずに教えずに、ただラビリンスに委ねていく。第四王女としての立場と相好の戦乙女としての姿、それ以上に大切にしてもらいたいのはラビリンスの気持ちそのものだった。 精神的なショックを引き起こすラビリンスを見たのは久しぶりの事だった。仕えているからこそミミコットは何でもお見通し。そこまでラリアに翻弄された証拠でもある。病気の時でもラビリンスは表情を変える事はない。弱みを見せたら自分の立場が消滅してしまう、そんな危機感を隠し持っている事実を知っていた。 ミミコットは奥の部屋に辿り着くと全ての服を脱いでいく。そして本来の彼女を示す戦闘服に身を隠した。正体を隠す為に彩られた化粧を落とし、キュッとお団子に括っていた髪を解き、一つに結わえていく。 「彼がいるのなら、ここはあれを使うしかないな」 彼女は誰の耳にも届かないよう結界を展開していく。ラリアの力がどれ程のものか分からない以上、普通に使用するのは危ないと感じた。全てを知られては上手く立ち回っている現在を棒に振る事になりかねない。それ以上にラビリンスの立場を危ういものにしてしまう。そんな事を考えていると、彼女の足元から魔法陣が広がると体を飲み込んでいく。
last update最終更新日 : 2025-11-02
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第四話 鋼鉄の花嫁と第二王子
ミハエルはラリアを起こすと強制的に連れて行く。目を覚ましたラビリンスと話したい気持ちを抱えながらも、彼の言う事を聞くしかなかった。丁寧は口調の割りには相当怒っているように見える。置いてけぼりにされたミハエルは二人が親密になる事を邪魔するように態度を荒々しく表現していった。 「ミハエル? 怒っているのか?」 「……」 「おい……」 ここまで怒っている彼を見るのは初めてだった。寝ている状態のラリアを起こす事なく抱きかかえ、ここまで来た。ラリアの知っているミハエルとは遠く違って見える。疑問を残しながらも、この空間から逃れたい気持ちが膨れ上がってくる。ラビリンスと会話の続きをしたかった、ただそれだけだった。 沢山の表情と背景を隠し持つ第四王女に興味を抱かないはずがない。ラリアは勿論、ミハエルにも言える事だろう。彼は知らない一人の女性を巡り、長年継続していたこの信頼関係が音を立てて崩れていく事実をーー 廊下は思ったよりも広く、静かだった。すれ違う人は殆どいない。そんな二人に自分の存在を見せつけるように一人の女性が前から歩いてくる。白い髪を靡かせながら楽しそうに微笑んでいる存在は美しい青色のドレスを着ている。宮殿にいると言う事は立場のある人なのだろう。そう想いながら気づかれないように隠れるように見ていた。 「ご機嫌よう」 抱きかかえられていたラリアは自分達に向けての言葉だと知ると、ミハエルから逃れるように体制を整えていく。王子と言う立場上、こんな情けない所をこれ以上、見られる訳にはいなかいと考えたのだ。 「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。私はゲルツシュタイン帝国の第二王子ラリアと申します。よければ貴女様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
last update最終更新日 : 2025-11-03
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第五話 召喚獣とラビリンス
ラリアは何が起こっているのか理解する事が出来ない。繋がりのないサイレンスとミハエルは互いの耳元で何かを話している。内容を聞きたくても聞く事が出来ない。何故なら唇を動かしているだけで言葉を発していないからだ。自分に向けられていた興味が逸れた事を知ると、安堵する。サイレンスの表情はどこか遠くを見つめて、何かに囚われているように感じていく。 「……今日はこの辺で。ラリア様、女性をたらし込まないようにお気をつけください」 「ああ……」 本人からしたらたらし込んでいる意識は全く無い。その事を見抜いていたサイレンスは思い出し笑いをすると、何事もなかったかのようにスタスタと歩いていく。その背中から忠告を下す言葉が聞こえてくるような気がして、心が波打つ。 「私達も行きましょうか。ラリア様」 「そうだな」 予想外の人物との出会いはラリアにとって最悪な未来を奏でるきっかけとなっていく。サイレンスの微笑みは彼の心に恐怖を植え付け、離す事はない。こんな時にラビリンスがいれば、嫌な予感も全て払い除けてくれるだろう。興味を抱いていたのは事実だが、どうしてこんな時にラビリンスの事を考えているのか分からない。 簡単に終わるはずの対面も、複数の物事が関与したせいでゲルツシュタインに戻る事が出来なくなってしまった。全ての計画が崩れた事はラリアとラビリンスを近づけるきっかけを作ったのかもしれないが、サイレンスの存在が全てを無にしてしまう。 「ミハエル、彼女を知っているのか?」 踏み込むか迷っていたラリアは自分の知らないミハエルの表情を思い出しながら、問いかけた。どんな事でも包み隠さず教えてくれる。いつもの彼ならきっとそうだろう、そう自分に言い聞かせながら、待ち続ける。 「私がラリア様と出会う前の事ですのでー
last update最終更新日 : 2025-11-04
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第六話 内緒話
「どうするのお父様ーー」 追求されているゲリアは何度も言葉を濁してきた。しかし彼女は全ての言葉でゲイルを縛り、考えを引き出そうとしている。刻は真夜中。いつもなら就寝しているはずの二人だが、はっきりしない状況が変わるまで、離す気はないらしい。 「……サイレンスよ。夜も遅い。そろそろ就寝したらどうだ?」 「またそうやって逃げるのね、お父様! はっきり言ってくれるまで引きませんから」 中々引き下がらないサイレンスを見るのは久しぶりの事だった。ラビリンスが関わる事になるとこうなるのは予想していたが、ここまで早く行動に移すとは思っていなかったのだろう。子供の殻を破り、大人へと成長したからこそ、サイレンスの過干渉も収まると思ったのだが、結局こうなる。 「ラリアって王子がラビリンスの婚約者なの? それともあの騎士?」 外面は冷静なキャラを演じているが、妹ーー得にラビリンスの事になると周囲が見えなくなる。それほどまでに愛情を抱いているのだが、一歩間違えれば暴走しかねない。この状況に適した言葉を述べないと最悪の状況へと変貌していく。それだけは避けたいゲリアは、降参するように口を開いた。 「……ラリア王子がラビリンスの婚約者だ。あの騎士はただの護衛だよ」 「ふうん」 「何だ? 反応が薄いな」 「ラリア王子は無意識で誑し込む癖があるからね。そういう所はきちんと把握しておかないとと思ったの。あの騎士、王子の護衛なのね、意外だわ」 ラビリンスの婚約話はなるべく内密に進めたかったのが本音だろう。サイレンスにはギリギリまで黙っておこうと考えていた。ゲリアからしたら誑し込むの理由が分からない。もっと深く話を聞きたいが、後々を考えると悪手になる。そう判断したゲリアは疑問を飲み込み、彼女に合わせようとしていく。 彼の計画している事が
last update最終更新日 : 2025-11-05
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第七話 蜜の味
月日は颯爽と過ぎていく。日常の中で突然現れたラリアの存在が、いつの間にかラビリンスの当たり前になっていった。ゲルツシュタイン帝国へ戻って行った彼はそれ以来、なんどもこの宮殿に来訪している。最初はギクシャクしていたラビリンスだったが、彼の存在に慣れていくと警戒心と緊張は解き解され、素直な自分を表現出来るようになった。 彼から見たら最初から感情を出していると思っていただろう。しかしラビリンスの本当の姿を見れば見るほど、自分が思っていたよりもしっかりと考えを持っている女性なのだと理解する事が出来た。お転婆姫と言われながらも、戦略の話や他国との交渉をする姿は薄明で凛々しい。そこには周囲を納得させる程の才が見えた。 国王として父を支える第四王女ラビリンス。彼女はなるべくゲリアが動かないように采配を置き、周囲の人々の力を的確に指示していく。可憐に笑うその姿に隠れているのは、表面には浮かんでこない思惑と裏切りを撲滅するもう一つの顔を持っている。その表情はお転婆姫としてではなく相好の戦乙女の顔と似ていた。 「お待たせしました、ラリア様」 最後に彼がミルダントに来たのは一ヶ月前の事になる。一時はラビリンスに会う為に2日に一回は顔を出していたが、ゲルツシュタイン帝国でも何かしら動きがあったらしい。詳しい事は口にしないが、彼の様子が違った。いつもなら悪戯っ子のようにラビリンスを茶化すのだが、あの時の彼はその姿を見せる事はなかった。一緒にいるのに、何やら考えに埋もれているようだ。 空気を読んだラビリンスは、少しずつ会話のペースを落としていく。共有し合う時間は二人にとって特別。それを破棄してでも気になる物事があるのだろう。自分も立場があるから分かる。ラリアを見て自分も周囲に同じ事をしている瞬間があった時を思い出す。例え余裕がなくても、自分本位ではいけない。そう自分にいい聞かせながら、言葉を落としていく。
last update最終更新日 : 2025-11-06
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第八話 真意受光
何があっても側にいたはずなのに、一人で行動をする事が多くなったミハエルは自分の役目を徹底するしかなかった。ラリアとラビリンスの婚約が決まってから余計に。何かに冒頭しないと精神的に参ってしまいそうになる。ミルダント国とゲルツシュタイン帝国この2つの力を支配する為に、ラリアの行動に制限をかけたい思惑があった。そのために何年もの時間を費やし、ラリアとの信頼関係を構築してきたのだから。 どんな女性がラリアに迫っても、決して受け入れる事がない揺るがない王子。そのラリアを簡単に手にしたラビリンスの姿を見ていると、どうしてもモヤモヤしてしまう。二人に対して気持ちを持っている訳ではないのに。 「……はぁ」 「ため息を吐くと幸せが逃げていくって知ってる?」 気を取られていたミハエルは投げかけられた言葉にビクリと反応を示す。ずっと自分が見られていた事も知らずに。声の主が隠れている方向へと視線を向けた。宮殿の中心には祭り事として使われる司祭の間が広がっている。六本の柱は中心を守る為、神聖を保つ為に作られた魔導柱と言われているものだった。神の祝福を受けた存在は自らの体を柱へと隠す事が出来る。下半身は取り込まれているが、上半身はミハエルに正体を明かすようにわざと外されていた。 「サイレンス!!」 「その呼び方はマズイでしょ。貴方は騎士なのよ? 私は第一王女……立場が違うの理解しているのかしら?」 一体化していた姿を解くと、満足したように微笑みを向ける。その姿は鋼鉄の花嫁と呼ばれている事実とは違った。初めて見るサイレンスの本当の笑顔に動揺すると、無意識に後ずさっていった。見えない恐怖を体験しているような感覚を全身で受けていく。ここで怯んでは今の立ち位置も脅かされてしまうと思ったミハエルは、全ての感情を心の奥底へと閉じ込めた。 「監視していたのか」
last update最終更新日 : 2025-11-07
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第九話 禁断
忘れていた事を思い出してしまったミハエルは苦悩していた。今まで感じていた怒りは嫉妬として姿を現し、彼を着実に蝕んでいる。今まで自分の記憶と思っていたものは所々事実とは違う事に気づき、受け入れるしかない。しかし急に呼び起こされた記憶を受け入れる事は難しい。内心では否定したいのに、体が言う事を聞いてくれなかった。鎖骨に刻まれたサイレンスの魔法陣が赤く光ながら、悪魔の笑みを見せていく。 「あら……お帰りですか? えっとミハエル様」 「……君は?」 「何度もお会いしているのですが……ラビリンスと申します」 ラビリンスーーその名前を聞くと熱が全身に流れていく。心の奥底に眠る魔物の血がドクンと大きく脈打った。ぼんやりラビリンスを見つめながら、胸ポケットに手を入れた。指先がジャラリと音を奏でると、そっと手に取り、ラビリンスの手に落とした。 「これは?」 急な事で焦りながら手を広げた先には青い雫のネックレスが転がっている。キラキラ輝く宝石の美しさに圧倒されていく。ラビリンスはネックレスからミハエルへと視線を変えると、先程の薄暗い雰囲気の彼とは正反対な姿が写っていた。 「ラリア様がラビリンス様へと。自分で渡すのは恥ずかしいようで、私に渡すように命じたのです。何があってもつけておいてほしいとーーラリア様の愛の結晶として貴女様の側に」 「……嬉しい」 「気に入られたようで安心しました。ラリア様に報告が出来ます。それと、この事はラリア様には言わないでくれますか?」 「どうして? お礼言わなきゃ」 「不器用な所がありますからね、直接言われるとどうも……静かに受け入れてほしいとおっしゃっていましたよ」
last update最終更新日 : 2025-11-08
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第十話 悪夢
「何をしているーー」 ドアから光が溢れている事に気づかず、情事に埋もれていたミハエルの姿を捉えた声が敵意を向けてきた。後少しでラビリンスを手に入れる事が出来たのに、邪魔をしてくるとは。何者なのかと振り向くと、目線が合う前に剣先が彼の首元を捉えた。その瞬間、全ての明かりが灯され、その姿がくっきりと彼の瞳へと固定されていった。 丹念に解されたラビリンスの姿を見て、怒りが増していく。頬は赤く、うっすらと開いた瞳は憂いでいる。自分に向けられるはずだった愛しい眼差しを、他の男へと向けていた。2つの雫は共鳴を始める。その度にラビリンスの体がビクリビクリと痙攣した。王女達は共鳴と言う能力を秘めている。そして番となった相手を求めるように全ての感覚を縛られていく。作り物の共鳴でもラビリンスが隠している存在は本物だ。密度の濃さをリンクさせる為にアクセサリーとして対象者に最低限五時間以上つけてもらう。そうすると共鳴の印を刻み込んだ宝石の中へ彼女の共鳴の流れが同調し、効力が発揮されてしまう。 宝石の力により何が現実で何が夢なのかを理解出来ていないだけ。そう自分に言い聞かしていくラリア。それでも行き場のない気持ちは、放置しておくと爆発しそうだった。今すぐこの首を切り落とす事も出来る。しかしここはゲルツシュタイン帝国ではない。ラリアは招待されている身であり、この国の実権を持っている訳ではない。二人は睨み合いながらも、引く様子は見えない。そんな空間を切り裂いたのはラビリンスだった。 「やめてください、私の婚約者に刃を向けるなんて……私達は愛し合っているだけなのに」 まるで知らない相手に話すようなラビリンスに驚愕してしまう。婚約者は自分なのに、何故だかミハエルを庇い、ラリアを敵対している。力に飲み込まれているラビリンスを正気に戻す方法を知らないラリアは無言で剣をしまっていく。 「大丈夫? ラリア」 「ああ」 「邪魔されちゃったね、後で愛し合いましょう」
last update最終更新日 : 2025-11-09
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