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愛のナビゲーション
愛のナビゲーション
Author: ハカナサ

第1話

Author: ハカナサ
私の名前は早瀬凛(はやせ りん)。成瀬翼(なるせ つばさ)のコ・ドライバーとして彼の隣に座り続けてもう十年。私たちはレース界で誰もが認める「最高のパートナー」だった。

だというのに、私が交通事故で流産し、命の危機に瀕していたその時、彼は女助手の島田美耶(しまだ みや)を助手席に乗せて、見せびらかすように街を流していた。

血まみれの私を視界に入れながらも、翼は無慈悲にアクセルを踏み込み、隣の美耶はそれを見て楽しそうに高笑いしていた。

「お願い、病院へ連れて行って……」

縋り付く私に、翼は冷たく吐き捨てた。

「いい加減にしろ。コ・ドライバーのプロが交通事故なんて、演技はやめろ?」

呼吸すらままならず、彼に対する期待は完全に潰えた。

……

病院から帰宅した後、私は久しぶりにあの番号に電話をかけた。

「池田監督、あなたのチームに加入します。三日後に会いましょう」

受話器の向こうから、驚きと喜びに満ちた声が聞こえた。

「本当か、凛! 私のチームには、君の席がいつでも空いているよ!」

電話を切ると、玄関から聞き慣れた足音が響いた。

翼がひどく酔っ払った様子で、千鳥足で部屋に入ってくる。

A1チームのエースドライバーとして、彼は一生酒飲まないと誓ったはずだった。

だがその言葉は、私を永遠に愛するという約束と同じで、二度と果たされることはない。

翼は水を求めて家中を歩き回り、ようやく私の腕に巻かれた包帯に気づいた。

今日の午後、妊娠検査の結果通知書を持って彼に会いに行った際、私は交通事故に遭った。

全身に複数の傷を負い、そしてお腹の子も失った。

彼の視線が鋭くなり、信じられないといった様子で口を開いた。

「まさか、本当に事故に遭ったのか?」

私は無表情に頷いた。

彼が私の怪我を確認しようと近づいてきた時、私はそれを避けて静かに言った。

「ただのかすり傷よ」

翼は何事か考えるように、ふっと笑った。

「ああ、確かに。お前はうちのチームで最高のコ・ドライバーだからな。

そうだ、これからはちょっとした擦り傷も作るなよ。もしメディアに撮られたら、また大騒ぎになるから」

翼は私にはいつも厳しかったが、助手の美耶には極めて甘かった。

美耶は彼から半年も運転を教わっているのに、いまだに免許すら取れない。

それでも翼は彼女を慰めていた。

「覚えられなくても構わないさ。いっそ俺の助手席にお前を乗せてやるから」

彼が本心で言っているのか、それとも無意識なのかは分からない。

彼の隣、助手席。

そこはコ・ドライバーの席だ。

私の場所なのに!

その時、翼は突然手品でもするように、ベルベットの小さなギフトボックスを取り出した。

「明日は五連覇の祝勝会だ。お前にサプライズがあるんだ!」

私の胸が、激しく震えた。

彼を十年間ナビゲートし、五年間同居してきた。言葉にせずとも分かり合えている関係だと思っていた。

けれど今日に至るまで、翼が私たちの関係を公にすることは一度もなかった。

あのベルベットの小箱には、十中八九、プロポーズの指輪が入っているのだろう。

かつての私が、夢にまで見たものだ。

けれど今、もうそんなものは欲しくないのだと気づいてしまった。

翌日、私は退職願を手に個室のドアの前まで歩み寄った。

すると、美耶があの小箱を指先でもてあそびながら、好奇心に満ちた声を出すのが聞こえた。

「翼さん、みんなに内緒で凛にプロポーズするつもり?」

翼は彼女に覆いかぶさり、隠そうともせずに身体を密着させていた。

彼は無造作に箱を奪い取ると、わずかに隙間を開けて美耶に見せ、鼻で笑った。

「プロポーズ? よく見てみろ、これが何に見える?」

周囲の人間がすぐに囃し立てる。

「指輪じゃないなら何なんだよ?」

中身を確認した美耶が、意味深な笑みを浮かべた。

「みんなも当てて? あの『盲導員』に、どんなプレゼントが相応しいって?」

「盲導員」というのは、彼女が裏で私に付けた変なあだ名だ。

ドライバーは時に視界が制限されるため、コ・ドライバーが周りの状況を的確に把握し、ナビゲートするという重要な役割を果たす。ドライバーの「目」だといっても過言ではない。

だが彼女の口を通せば、それはまるで「盲導犬」のような存在にすり替えられてしまう。

誰かがすぐに笑い声を上げた。

「おいおい、コ・ドライバーのことを盲導犬みたいに言うな……でもプレゼントって言ったら……もしかして、犬の首輪だろうな?」

この十年間、私たちを知る者なら誰もが知っていた。三倍の報酬を提示して、私を引き抜こうとするチームはいくらでもあるが、私が一度も首を縦に振らなかった。
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