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第6話

Author: ととまる
真帆は目を見開いた。

今、何と言ったのだろう。

自分を警察へ引き渡す?

「恭介!」

信じられない思いで、彼を見つめた。

「あなたは、分かっているはずでしょう……」

「俺が何を分かっているというんだ?」

恭介は真帆の言葉を遮った。

向けられた眼差しは、凍りつくほど冷たかった。

「君が昔から和香を嫌っていることも、今日、見合いの席を台無しにしたことも知っている。そのうえ、今度は車ではねた。真帆、君を甘やかすのは、もう終わりだ」

彼が軽く手を上げる。

すると、二人のボディーガードが進み出て、真帆の両腕を左右からつかんだ。

「嫌……放して!」

真帆は必死に身をよじった。

「恭介、この最低男!和香が勝手に車の前へ飛び出してきたのよ!私からぶつけたんじゃない!」

泣きながら声を張り上げ、必死に抵抗した。だが、恭介はすでに背を向け、和香のもとへ歩き出していた。

最後まで、真帆を振り返ることはなかった。

真帆は無理やりパトカーへ押し込まれ、そのまま留置場へ連れていかれた。

それからの7日間は、真帆の人生で最も暗く、長い時間となった。

同じ区画に収容されていた者たちは、気性の荒い者ばかりだった。

育ちがよく、場違いなほど整った顔立ちの真帆は、すぐに目をつけられた。

食事を奪われ、罵られ、隙を見ては殴られた。

眠る場所も、わざと最も汚れた隅へ追いやられた。

真帆の背中には、鞭で打たれた傷が残っていた。

そのうえ何度も暴力を受けたことで、古い傷に新しい傷が重なり、夜になると痛みでほとんど眠れなかった。

冷たい壁際にうずくまり、膝を抱えながら、何度も同じことを考えた。

どうして。

どうして恭介は、ここまで自分を傷つけるのだろう。

たとえ愛されていなかったとしても。

たとえ、最初から別の女性と勘違いされていたとしても。

三年間、夫婦として一緒に暮らしてきたのだ。

そこに、わずかな情さえ残っていなかったのだろうか。

恭介は、それほどまでに真帆を憎んでいたのか。自らの手で、こんな場所へ送り込めるほどに。

7日目になって、真帆はようやく釈放された。

留置場を出たときには、ひと回り痩せていた。

顔は死人のように青白く、服は汚れ、あちこちが破れている。

露出した腕や脚には、無数の青あざが残っていた。

真帆は一週間電源を切ったままだったスマホを取り出し、起動した。

途端に、大量の通知が画面を埋め尽くした。

そのほとんどが、和香から送られてきたものだった。

写真や動画が、次々と並んでいる。

写真には、和香の病室に付き添う恭介が写っていた。

ベッドのそばで果物の皮をむき、水を飲ませている。

和香を見つめる眼差しは、どこまでも優しかった。

動画の中では、和香が傷口の痛みを訴えて甘えていた。

恭介は穏やかな声でなだめ、しまいには慰めるように、その髪を優しく撫でていた。

その光景を見つめていると、胸の奥を何度も強く締めつけられているようだった。

息をすることさえ苦しい。

真帆は震える指で、写真も動画もすべて削除した。

だが、端末から消すことはできても、胸に刻まれた傷までは消せなかった。

そのとき、スマホが鳴った。

奈緒からだった。

「真帆!やっとつながった!この一週間、どこにいたの?電話にも出ないし、メッセージも返ってこないし、本当に心配したんだから!」

真帆は口を開いた。

だが、喉がひどく傷んでおり、出てきた声はかすれていた。

「……奈緒」

「どうしたの、その声。具合でも悪いの?」

奈緒の声が、一気に心配そうなものへ変わる。

「今どこにいるの?すぐ迎えに行く」

「私……」

真帆は周囲を見回した。

「今、留置場から出てきたところ」

電話の向こうが、数秒間静まり返った。

「……何て?」

奈緒は信じられないというように聞き返した。

「留置場?冗談でしょう?誰がそんなことをしたのよ。恭介が知ったら、ただじゃ済まさないでしょうに」

真帆は唇の端を動かした。笑おうとしたが、笑顔にはならなかった。

「恭介よ」

静かに答える。

「私をここへ送ったのは、恭介本人」

「はあ?」

奈緒が叫んだ。

「あいつ、頭がおかしくなったの?どうしてそんなことになったのよ!」

真帆は冷たい壁へ背を預け、このところ起きた出来事をかいつまんで話した。

恭介が突然よそよそしくなったこと。パーティーで薬を盛られたのに見捨てられたこと。和香と二人で会っているところを目にしたこと。そして、和香から「命の恩人」の真相を聞かされたこと。さらに実家の食事会で濡れ衣を着せられ、鞭で打たれ、車の事故まで仕組まれた末、留置場へ送られたこと――

一つ話すたびに、胸の痛みがさらに深くなっていく。

すべてを話し終える頃には、声は涙で詰まっていた。

奈緒は電話の向こうで、怒りを爆発させた。

「恭介のクズ!和香も本当に最低!それに、あなたの両親まで何を考えているのよ!いくら何でも、姉ばかりひいきしすぎでしょう!真帆、そんな男のために傷つくことない。離婚しなさい。絶対に離婚するのよ!」

親友が自分以上に怒ってくれている。

その声を聞いているうちに、真帆の胸に押し込められていた悔しさと苦しさが、ようやく少しだけ外へ流れ出した。

本当は、どうしようもないほどつらかった。

けれど、奈緒の怒りを聞いていると、不思議と先ほどまでほど苦しくはなくなっていた。

少なくとも、自分を信じてくれる人が一人はいる。

「うん」

真帆は鼻をすすった。

「もう弁護士に、離婚の手続きを進めてもらっている」

「当然よ!」

奈緒は力強く言った。

「真帆はきれいだし、家柄だって申し分ない。恭介と別れたところで、いくらでももっといい男が見つかるわ。あんなろくでもない男に、人生を無駄にする必要なんてないでしょう」

「分かっている」

真帆は静かに答えた。

「男一人のために、生きていけなくなるほど弱くないわ」

「その調子!」

奈緒はようやく安堵したように息を吐いた。

「今どこ?迎えに行く。今日は飲みましょう。最低な結婚から抜け出せることを、先に祝っておかなくちゃ」

真帆は現在地を伝えた。

30分ほどすると、奈緒が車で迎えに来た。

そのまま二人は、以前からよく通っていたバーへ向かった。

店内には大音量の音楽が響き、淡い照明が揺れていた。

奈緒は奥のボックス席を取り、酒を注文した。二人は運ばれてきたグラスを、何杯も続けて空けた。

「その傷、どうしたの?」

奈緒は真帆の腕に残る青あざを見つめ、眉を寄せた。

「留置場で殴られたの?」

「うん」

真帆は酒をひと口飲んだ。

「一緒に入れられていた人たちに、目をつけられたみたい」

「最低!」

奈緒は怒りに任せて、テーブルを強く叩いた。

「恭介の馬鹿!本当にあなたをそんな場所へ入れたの?中にどんな人間がいるか、分かっていたはずでしょう!」

真帆は小さく首を横に振った。

「もう、どうでもいい」

恭介が自分を心配してくれることなど、もう期待していなかった。

奈緒はその後もしばらく恭介を罵っていたが、やがて深くため息をつくと、真帆の手を握った。

「真帆、もう考えるのはやめよう」

その手に、優しく力を込める。

「今日から新しい人生を始めればいいの。男なんて、別れがあれば次の出会いもあるんだから」

真帆はうなずき、奈緒へかすかに笑いかけた。

「うん。分かっている」

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