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愛の灰に春は芽吹く
愛の灰に春は芽吹く
Author: 鳳小安

第1話

Author: 鳳小安
五年前、高野梨花(たかの りか)は、車に轢かれそうになった白石優也(しらいし ゆうや)をかばった際、子宮に深刻な損傷を受け、妊娠が難しい身体となった。

それでも優也は彼女を嫌うことなく、むしろ強く結婚を望んだ。

結婚後、優也はその愛情のほとんど全てを、梨花に注いでいたように見えた。

彼女がバラが好きと言えば、花畑を買い取り、自ら彼女の好きな品種をすべて植えた。

オークションに連れて行けば、気に入った品があったら、迷わずその場の出品物をすべて落札すると宣言することだ。

毎年の結婚記念日には、自ら海に潜り、一枚の貝殻を拾い上げては、そこに二人の名前を刻んで贈った。

今年で五年目。梨花のベッドサイドには、四枚の貝殻が並んでいた。

だが、ビジネス上のライバルが優也の不祥事を世間に暴露するまで、梨花は知らなかった。優也には別の女性がおり、しかもその女性――若月玲奈(わかつき れな)はすでに妊娠三ヶ月以上だったのだ。

その夜、優也は梨花の前に跪き、許しを請うた。酔って彼女と別人を間違えただけの出来心だと言い、自らの頬を何度も叩きながら、声を詰まらせた。

「梨花……信じてくれ。ちゃんと始末する。あの女に子供は産ませない……」

梨花は胸の痛みに耐え、彼を許した。

結婚五周年記念日。優也は用事ができて迎えに行けないと言い、先にホテルに行くよう彼女に伝えた。

優也が予約してくれたホテルへ急いで向かう梨花だったが、そこで衝撃的な光景を目にしてしまった。

隣の個室。柔らかなキャンドルライトの中。

優也、彼の両親、そしてお腹を大きく膨らませた玲奈が集まり、「ハッピーバースデー」の歌を合唱していたのだ。

「玲奈、誕生日おめでとう。今日は本当に悪い、君には我慢させてしまって……でも、子供が生まれたら、必ず家に連れて帰るからな」

優也は玲奈を抱き寄せ、額に深い愛情を込めたキスを落とした。

玲奈は照れたように微笑む。「いいのよ、優也さん。あなたの事情はわかっているわ。だって、奥様はあなたのためにたくさん犠牲にしてきたんだもの。彼女を刺激したくない気持ち、私だって理解しているから」

「優也、そろそろ時間じゃないか?たぶん、もう奥さんも着いてるだろうし、そちらに行くべきじゃないのか?」

「そうだな、バレたら大変だ。まだ子供も八ヶ月、生まれるまであと二ヶ月もあるんだ。俺たちが必死に隠してきたんだ、ここでボロを出すわけにはいかないぜ」

隅の方に見える、よく知った顔の数々。優也の友人たちまでもが、そこにいたのだ。梨花は唇を押さえ、顔から血の気が一気に引いていくのを感じた。

「何をビクビクしてるんだ?あの女、子供も産めないんだろう?やっと俺たちに待望の孫が授かるんだ。もし何か言うようなら、俺が承知しないからな!」

優也の母は、玲奈の膨らんだお腹を撫でながら、心配そうに言った。「臨月も近づいてるし、いつ生まれてもおかしくないわ。優也、何とかして玲奈ちゃんをあなたのところに住まわせる方法を考えなさい。梨花さんには、従妹だって言えばいいのよ。あの時の不祥事の記事だって、玲奈ちゃんの顔は出てなかったんだし!梨花さんは彼女のことを知らないんだから!」

優也はうなずいた。「わかってるよ、母さん。子供が生まれてしまえば、梨花も俺にどうこうできないさ」

その男の冷ややかな目つきに、梨花の全身の血が凍りついた。

五年もの間、自分を愛してくれたと思っていたこの男が、ずっと自分を騙していたなんて、信じられるだろうか?

自分に良くしてくれていると思っていた舅姑でさえ、優也の友人たちでさえ、とっくにこのことを知っていたのだ。

誰もが知っていて、誰もが自分を騙し続けていた!

「そうだ、優也。これ、忘れないでね」

玲奈はポケットから、あらかじめ用意してあった偽物の貝殻を取り出し、優也に手渡した。「今日はあなたたちの五周年記念日なんだから、例年通り、彼女に貝殻を渡さないと。偽物ばかりだけど、形だけはちゃんと繕わなくちゃ」

優也は貝殻を受け取り、玲奈の手を愛情深く握り返した。「玲奈は本当に気が利くな。俺、すっかり忘れるところだったよ」

玲奈の顔に明るい笑みが広がる。「子供が生まれるまでは、いい旦那さんの仮面をちゃんとかぶっておいてね」

友人の一人が調子に乗って付け加えた。「奥さんは、まだ知らないんだろうなあ?結婚一年目の貝殻以外、あとの全部が偽物だってこと。毎年わざわざ海に潜って貝殻を拾ってるなんて、本気で思ってるんだぜ!」

別の友人が笑いながら言う。「優也、お前もたいしたもんだよ。たったの五百円もしない貝殻一つで、結婚記念のプレゼント代を浮かせてるんだからな!コスパ最強だぜ、俺も見習わないと」

梨花の肩が微かに震えた。心臓が締め付けられるように痛む。

自分がこれほどまでに大切にしていた貝殻までもが、すべて偽物だなんて!

それじゃあ……この何年か、いったい何が本当だったというの?

頭の中が真っ白になり、梨花はよろめいて、その場に崩れ落ちそうになった。

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