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第26話

Auteur: 無名
そして、明日香が亡くなって7日が過ぎた。それでも、涼太は彼女がいなくなった事実を受け入れられないでいた。

これが悪夢であってほしいと、どれほど願っただろう。目が覚めれば、すべて消えてなくなるはずだと。

上空を飛ぶ飛行機の窓から、涼太は真っ白な雪に覆われた北嶺山地を見下ろしていた。

彼は明日香の遺言通り、遺骨を聖山に埋葬することにした。

そして、聖山のふもと、彼は骨壷を地中深くへと埋めた。

かじかむ手で凍った土をすくい、少しずつ明日香を埋めていったあと、涼太は墓標に一文字ずつ、彼女の名前を刻み込んだ。【妻・明日香の墓】と。

耳元で風がヒューヒューと鳴く。まるで、人が泣いているような音だった。

そんな中、男はそっと墓標を撫でて、最後の別れを告げようと、彼はその場に立ち尽くしたまま、長いこと動けずにいた。

帰る前、涼太は響音寺に立ち寄った。

宗道はずっしりと重い箱を彼に手渡した。「これは明日香の遺品で、あなたにお渡しします」

それを聞いて、涼太の動きが、ピタリと止まった。

箱の中身は百枚以上の自分の肖像画と、少し歪んだシンプルな指輪だった。

その指輪は、付き合い始めた
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  • 愛の終わり、帰る日のない場所へ   第26話

    そして、明日香が亡くなって7日が過ぎた。それでも、涼太は彼女がいなくなった事実を受け入れられないでいた。これが悪夢であってほしいと、どれほど願っただろう。目が覚めれば、すべて消えてなくなるはずだと。上空を飛ぶ飛行機の窓から、涼太は真っ白な雪に覆われた北嶺山地を見下ろしていた。彼は明日香の遺言通り、遺骨を聖山に埋葬することにした。そして、聖山のふもと、彼は骨壷を地中深くへと埋めた。かじかむ手で凍った土をすくい、少しずつ明日香を埋めていったあと、涼太は墓標に一文字ずつ、彼女の名前を刻み込んだ。【妻・明日香の墓】と。耳元で風がヒューヒューと鳴く。まるで、人が泣いているような音だった。そんな中、男はそっと墓標を撫でて、最後の別れを告げようと、彼はその場に立ち尽くしたまま、長いこと動けずにいた。帰る前、涼太は響音寺に立ち寄った。宗道はずっしりと重い箱を彼に手渡した。「これは明日香の遺品で、あなたにお渡しします」それを聞いて、涼太の動きが、ピタリと止まった。箱の中身は百枚以上の自分の肖像画と、少し歪んだシンプルな指輪だった。その指輪は、付き合い始めた頃に自分が贈ったものだ。適当に選んだ安い指輪だったのに、彼女は宝物のように大切にしていたのだ。明日香が青木家を出た時、金目のものは何も持っていなかった。持っていったのは、これらの絵だけ。どの絵も、彼女が一本一本、丁寧に線を引いて描いたものだった。絵のモデルは、例外なくすべて自分だった。仕事中に考え込む姿、眠っている時のクールな横顔、酔って切なそうな顔……自分のほんの些細な表情まで、すべて線で克明に記録されていた。明日香の愛は、自分が想像していたよりもずっと熱烈なものだったのだ。5年間、自分のそばで、明日香は彼女の役割を完璧にこなしていた。毎日のスーツを整え、ネクタイを選び、腕時計のメンテナンスまで欠かさなかった。自分が好きな本をこっそり買い、お気に入りのレコードを予約し、集めている切手まで揃えてくれた。ベッドでは優しく寄り添い、毎日ささやかなサプライズを用意して、恋のときめきを忘れさせないようにしてくれた。あの時二人はキラキラとした並木道で、甘いキスを交わしたこともあった。そんな幸せな記憶が、巻き戻された映画のように、彼の脳内で鮮やか

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    外は風が強く、雪が舞っている。目に入るのは、荒涼とした静けさだけだった。明日香はうつろな目で窓の外を見つめながら瞳の奥には、果てしない悲しみが浮かんだ。そんな彼女を見て宗道は顔を曇らせた。「あなたはまだ若いのに、こんなところで命を落とすべきではないのだ!」彼は医師に懇願する。「人の命を救うことは尊い功徳をなすことです。どうか彼女を助けてください!」しかし、医師たちは顔を見合わせ、次々に首を横に振った。彼らは僻地の診療所の医師にすぎない。設備も薬も限られており、どうすることもできなかった。明日香は寂しげに笑った。「仏の教えでも人には『生老病死』に加え、愛別離苦などの八つの苦しみがあると言っていた。私の人生は短かったけれど、その苦しみはもう全部味わったから、これで執着を手放すことも一つの救いになるかもしれません」それを聞いて、宗道の目には慈悲の色が浮かんだ。「人生とは、不要なものを捨て去る旅のようなもの。執着を捨ててこそ、安らぎが訪れるのだ」過去の人や出来事に囚われていては、苦しむのは自分だけなのだから。こうして、激しい吹雪が下山の道も塞がれてしまったから、医師たちも明日香を救いたいが、手出しができない状態になった。だから、若い命がゆっくりと消えていくのを、彼らもただ見守ることしかできないでいた。その場にいる誰もが、絶望に包まれていった。窓の外では枯れ木が、白い雪景色の中に溶け込み、枝にはカラスの群れが止まり、時折、悲しげな鳴き声を上げていた。宗道は濁った目にさらに薄曇りを宿して、「この雪は、いつになったら止むのでしょうか?」と尋ねた。医療チームも途方に暮れていた。「この猛吹雪だと、あと3日は止まないでしょう」しかし明日香の病状は深刻で、とても3日も持ちそうになかった。抗生物質を投与しても、高熱はいっこうに下がらない。そんな状況下、明日香は次第に心の中で保っていた強がりが、音を立てて崩れ去っていくのを感じた。涼太のことは忘れると決めたはずなのに、それでも最後にもう一度、ちゃんとお別れがしたいと思ってしまうのだった。5日後、ようやく雪が止んだ。雲の切れ間から、太陽が顔を覗かせた。そんな中、長い別れを経て、二人はついに再会した。男の頬はこけ、頬骨が浮き出て、目元もくぼんでいる。だ

  • 愛の終わり、帰る日のない場所へ   第21話

    その後、宗道のもとに、明日香から最後の手紙が届いた。そこで宗道は初めて、彼女が重い病を患い、死期が近いことを知った。文面に取り乱した様子はなく、恨み言もない。まるで死ぬのが怖くないかのように淡々としていた。人生に悔いはないが、唯一、自分を大切にできなかったことだけが心残りだと。もし時を戻せるなら、あの人になんて出会わなければよかった。明日香に残された時間がないと悟った宗道は、急いで医療チームを手配した。だが、彼が明日香を助けようとすると、山の住民たちが立ちはだかった。住民たちは医療チームを取り囲み、山へ入らせまいと妨害したのだ。「前によそ者が聖山を汚したせいで、祟りが起きて、家畜がたくさん死んだんですよ!逃げるのが遅れていたら、俺たちまで雪崩に埋まるところでした!」全てを飲み込むような雪崩の恐怖は、まるで死神の祟りのようだった。あの時の恐怖は、今も彼らの心に焼きついている。宗道は焦りで胸が張り裂けそうだった。「人命救助は何よりも尊い功徳です。もし祟りがあるなら、すべて私が引き受けます!」宗道は一生をかけて戒律を守り、ただひたすらに祈りを捧げてきた。だが人の命がかかっている今、彼は戒律を破ってでも明日香を救おうとした。それでも住民たちは引かなかった。「あれだけの家畜が死んだんです。損害賠償はどうなるんですか?」それを言われ、宗道は全財産を差し出し、彼らに握らせた。「お願い、人助けだと思って、道を開けてください!」普段から尊敬されている宗道にここまでされては、住民たちもそれ以上強くは言えなかった。ついに医療チームは、山へと足を踏み入れた。駆けつけた宗道と医療チームの姿を見て、明日香の目から涙があふれた。起き上がるのも辛い体なのに、彼女は必死に体を起こそうとした。そこで、医師が診察を行うとこう告げた。「脈が弱くて、内臓の機能がかなり落ちています」医学的に見ても、命の灯火が消えるのは時間の問題だった。言い換えれば、明日香はもう助からない状態だった。宗道は声を詰まらせた。「明日香、こんな場所じゃ治せない。もっと大きな病院へ行こう」明日香は潤んだ目で彼を見つめ返した。「来てくれて嬉しいよ。あの頃は私も若くて、勝手ばかりして……あなたの言うことを聞いておけばよかった」それを聞い

  • 愛の終わり、帰る日のない場所へ   第18話

    それから、涼太は地元の住民たちの制止を振り切り、無理やり聖山に入ろうとした。だが、聖山朝霧はこの地の人々にとっての聖域であり、神の宿る場所とされている。ゆえに、神を冒涜するような真似は断じて許されないのだ。そこで、住民たちが涼太を取り囲んだ。「ここは聖域だ!よそ者は立ち入り禁止されている、とっとと帰れ!」涼太は血走った目で、まるで囚われた獣のように唸った。「俺の恋人が中にいるんだ!通してくれ!」だが、住民たちは涼太の前に立ちはだかり、改めて警告した。「ここにあなたの探している人間はいない!これ以上聖山を汚すなら、容赦しないぞ!」しかし涼太は聞く耳を持たず、強引に聖山

  • 愛の終わり、帰る日のない場所へ   第12話

    明日香は身をかがめて、それを拾い上げた。錠前は、もう赤錆にまみれていた。そこに刻まれていたはずの名前も、雨風にさらされてぼやけ、もう読むことさえできない。そして、明日香がその錠を処分する場所へ投げ捨てると、錠はきれいな放物線を描き、視界の彼方へと消え失せた。それを見て、彼女のざわついていた心は、次第に静けさを取り戻し、やっと、未練を断ち切れたようになった。一方で涼太は眠れない日々を繰り返していた。彼はもともとひどく寝つきが悪く、毎晩眠りを助けるお香を焚かなければ眠れなかった。特に明日香が姿を消してから、彼の不眠症はいっそう深刻になっていた。夜、ベッドで何度寝返りを打って

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    一方で、聖山朝霧は、北嶺山地に暮らす人々にとって心の聖地とされる場所だ。もともと明日香には聖山を守るという特別な使命があった。かつて恋を知ったばかりの明日香は愛というものに甘い夢を抱いていた。その結果、彼女は使命を投げ出し、迷わず北嶺山地を出ていってしまった。だが愛とは身を蝕む猛毒であり、心を食い荒らす呪いだと後になって思い知しった。それは死ぬほど心痛ませるような苦しみなのだ。そして明日香は今どうにか迷いから覚め、破滅の淵で踏みとどまることができた。響音寺に戻ってきた後、彼女は仏の前でひたすらに懺悔した。自分の罪深さを噛み締め、残りの人生をかけて償っていこうと心に決

  • 愛の終わり、帰る日のない場所へ   第10話

    一方で、結婚式が終わると、涼太は霞を連れて海外へハネムーンに向かった。霞が「N国でオーロラを見たい」と言うので、涼太はすぐさまチケットを手配した。だが、かつて明日香が同じことをねだった時、彼は、「仕事が忙しい」と言い訳して断っていた。何度もがっかりさせられた明日香は、いつしかそんな願いを口にしなくなっていた。N国に着いたのは、ちょうどオーロラが見ごろの時期だった。霞は分厚いダウンコートを着込み、マフラーをぐるぐる巻きにして外に出た。そんな雪の中に立った彼女は、うれしそうに目を細めて笑っていた。そしてオーロラによって夜空に色とりどりの光が広がり、まるで巨大なパレットを

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