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第5話

مؤلف: 無名
涼太は一瞬きょとんとして、眉をひそめたが、きっと、これも明日香の強がりだと思って気に留めなかった。

「霞は生まれつき心臓が悪くて、誰かがついてなきゃいけないんだ。外に住まわせるのは心配だからな。

彼女は静かなのが好きで、騒がしいのは苦手なんだ。郊外に別荘があるだろ、君は明日そっちへ移ってくれ」

それを聞いて、明日香は素直にうなずいた。「うん、明日そっちに行くね」

だが、彼女のその態度に涼太の目には、信じられないという色が浮かんでいた。泣きわめかれるとばかり思っていたのに、彼女があっさり引き下がったからだ。

「物分かりのいいふりをする必要はないぞ。明日にでも、郊外の別荘の名義を君に書き換えてやる」

彼は後ろめたさがあるから、そうやって埋め合わせをしようとしているのかもしれない。

だが、明日香はもとより、霞に部屋を奪われること自体は気にしていなかった。彼女が気にしているのはただ、それを許している涼太の態度なのだ。

「青木家のことは、ずっとあなたが決めてきたもの。誰を受け入れて、誰を追い出すかは全部あなたの一存でしょ?」

それを聞いて涼太は探るような目線を明日香に向け、まるでどうせわざと言っているのだろう、とでも言いたげだ。

「君のいいところは、引き際を心得ている点だ。頼むから物分かりよくしてくれよ。病人に嫉妬なんかするな」

しかし、そう言われても明日香は、彼に本心を話してもらいたかったから、尋ねた。「ねえ、涼太。私たち、これからの関係を考え直すべきじゃない?

もし終わりにしたいなら、私から出ていくわ。絶対に未練がましくしないから!」

だけど、涼太は冷ややかな顔つきで言った。「子供を失ったばかりなんだろ。これ以上、言い争いたくない」

そして、彼はドアを荒々しく閉め、部屋を出ていった。

明日香が家を追い出された件は、人づてに噂となり、さらに大げさに広まっていった。

涼太に捨てられたのだと、誰もが言っていた。

そんな中、彼女は片道のチケットを予約した。北嶺山地へ帰るためのチケットだ。

この数年、明日香は必死に自分を抑えて、涼太のいい妻でいようとしてたんだ。

出発前、彼女は荷物をまとめた。持っていけるものはカバンに詰め、そうでないものは処分することにした。

そしてアトリエを整理している時、ある一枚の絵画を見つめながら、明日香はぼんやりと思いにふけっていた。

絵の中の男は、数珠を手に目を閉じ、まるで俗世に降りた仏のようだった。その腕の中抱かれていた、艶めいた瞳をした女の流れるような赤いドレスと、男の着ている青い法衣が絡み合い、見る者の想像をかき立ていた。

それは明日香が一番気に入っている絵で、アトリエの大切な宝物としてしまってあったものだ。

そこに突然、霞が押し入ってくると、その絵を引きちぎり、ビリビリに破り捨てた。

そして絵は紙吹雪のように破片となって舞い散り、床に無惨な姿で散らばった。

霞は病弱で青白い顔を真っ赤にして叫んだ。「涼太が北嶺山地で修行してた時、恥知らずにも誘惑したんでしょ?」

大切にしていた絵を粉々にされ、明日香の目は瞬く間に赤くなった。

彼女は霞の髪を掴み上げ、冷たい声で言い放つ。「誰が私の絵に触っていいと言ったの?」

だが、霞は顎を上げて彼女に言い返した。「私が傷一つでもついたら、涼太が絶対にあなたをただじゃおかないから!」

そう言われたが、明日香は怯むことなく彼女を床に押さえつけた。その力は指の関節が白くなるほど強かった。「破いたその絵、拾って元通りにして!」

それを聞いて、霞は呆れたように目をむいた。「たかが紙切れじゃない?大した価値もないくせに」

霞は知らないのだ。この絵を仕上げるために、明日香が3ヶ月も費やしたのだ。

それは彼女の最高傑作であり、普段は誰にも触らせないほど大切にしてきたものだった。

霞が軽くあしらっていると、明日香は、ゾッとするような目つきで彼女を睨んだ。「さっき、どっちの手で破いたの?」

その視線に背筋が凍り、霞は泣きわめきながら暴れ出した。

二人がもみ合っていると、「明日香!何をしている!」涼太の怒声が背後から響いた。

そして、凄まじい力が襲いかかり、明日香は激しく床に突き飛ばされた。

霞は涼太の胸に飛び込んで、大粒の涙を、彼の腕にぽたぽたと落としながらいじらしく泣きじゃくった。

一方で、明日香は唇を強く噛みしめた。「彼女が私の絵を破ったの。だから元に戻せと言っただけよ。それが間違ってる?」

だが、涼太は事情も聞かずに彼女を責め立てた。「霞がわざとやるわけないだろ。何もそこまで追い詰めなくたっていいじゃないか」

その傍らで霞は、まるでひどい被害でも受けたかのように、声を押し殺して泣いているのだ。

それを見た、明日香は力いっぱい叫んだ。「涼太、あなたの目は節穴なの?彼女はわざとやったのよ。そんなことも分からないわけ?」

これほど下手な芝居なのに、彼は見抜けずにいるのだ。

そして、涼太は、まるで極悪人でも見るかのような冷ややかな目を明日香に向けた。

「霞は心臓が悪いんだ。繊細で傷つきやすいんだぞ。少しは大目に見たっていいだろ?そんな細かいことは気にするな」

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