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第8話

Author: 無名
すると、点滴の針が抜けて、すぐに赤い血がにじみ出した。

そこへ見かねた看護師が慌てて駆け寄った。「やめてください!先生がやっとのことで助けたんです。これ以上乱暴するのは危険です!」

明日香の顔は真っ青だったけれど、涼太にはそれすら演技に見えた。

彼は冷たく嘲笑って言った。「本来なら5歳で君の両親と死んでるはずだ。むしろ、君が疫病神だから彼らは殺されたんじゃないか?」

その言葉は再び鋭い刃物のように、明日香の心を深くを突き刺した。

明日香は信じられない思いで涼太を見つめた。そして目の前の男が、急に赤の他人のように思えてきた。

かつて一番辛い過去を打ち明けた時、涼太は優しく抱きしめて慰めてくれたのだった。

「君は運がいい子だ。これからは悪いことなんて起きない。ずっとずっと幸せになれるよ!」

そう言って、彼は自分が安心できる温かい居場所をくれた。

けれど人生はまるで三流映画だ。いつどこで、最悪の展開になるかわからない。

あの優しかった涼太は、この瞬間音を立てて崩れ去ってしまったのだ。

そして涼太に霞のところへと連れて行かれ、突き飛ばされた明日香は無様に床へ倒れ込んだ。それはすぐには起き上がれないほどの衝撃だった。

一方で、霞は、わざとらしい寛大な態度を見せた。「涼太、ペンダントは見つかったんだからもう、明日香さんを責めないであげて。

5年も一緒にいた仲じゃない。そんなひどいことをしたら、可哀想よ」

だが、涼太の決意は固かった。「彼女は間違いを犯したんだから、罰を受けるべきだ」

そう言って、彼は明日香の白くて細い手をじっと見つめた。「どっちの手で、霞を池に突き落とした?」

それを聞いて、明日香は恐怖に目を見開き、涙声で訴えた。「涼太、私は彼女を突き落としてなんていない!お願い、信じて!許して!」

絵の才能があった明日香にとって、手は命よりも大切だった。F国の皇室美術学院に入るのが長年の夢なのだ。

けれど今霞の嘘のせいで、涼太は彼女の大切な手を潰そうとしているのだ。

彼は周りにいたボディーガードたちに明日香を押さえつけさせると、ゾッとするような声で言った。

「過ちを犯した人間は、相応の報いを受けなきゃな」

明日香は泣きじゃくりながら叫ぶ。「怪我をしたら、もう二度と筆が持てなくなるの!絵が描けなくなるのよ!」

涼太は優しく彼女の涙をぬぐった。「明日香、絵なんて描けなくていい。俺が一生、面倒を見てやるから」

彼はそう言って自らの手で明日香の「希望」を打ち砕いて、彼女を歪んだ愛の檻に閉じ込めようとしているのだ。

そして、男の行動は冷酷で、一瞬の迷いさえなかった。

明日香が弁解しようとしたその時、彼女の手はすでにあり得ない方向へとねじ曲げられていた。

凄まじい激痛が走り、明日香の喉から鋭い悲鳴がほとばしった。

その瞬間、彼女の努力も、ずっと抱いていた夢も、一瞬にして粉々に砕け散った。

明日香は全身の力が抜け、泥のようにその場へ崩れ落ちた。

一方の霞は得意満面だった。彼女は自分の言いなりになって男に成し遂げさせた残酷な「結末」に満足しているらしい。

その瞬間明日香の目に、激しい憎悪が宿った。「涼太、あなたを一生許さない、恨んでやる!」

その瞳は絶望に染まっていた。「私が一体何をしたっていうの?これでもう筆も持てない。二度と絵が描けないのよ」

それを見た涼太は少し焦ったように言った。「そんなに泣くなよ。たとえ不自由な体になっても、俺が一生、面倒を見てやるから」

しかし、そう言われた明日香の瞳からは大粒の涙がぼろぼろと溢れ出した。

愛の誓いも、幸せだった結婚生活も、全部が偽物だ。何もかも、すべてが嘘だったんだ。
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