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第2話

Author: 落々
瞬く間に、私は愛される令嬢から、誰もが関わりたくない厄介者へと転落した。

悪意、嫌がらせや暴言は、日常茶飯事となった。

けれどその度、彼は黙って私の前に立ち、自分の未来さえも賭けて、全てを引き受けてくれた。

鉄パイプを手にした不良に囲まれた時。

彼は躊躇なく飛び出し、私を庇ってその身を盾にした。

握りしめていた航空学校の願書も、血で赤く染まった。

あの日、彼は手術を受けなければならないほどの大怪我を負い、その怪我が原因でパイロットへの道を閉ざされてしまった。

それでも彼は、私の涙を優しく拭い、何でもないことのように言った。

「大丈夫だよ、生き方は一つじゃないから」

翌日、学校から学費の督促が来ると、蓮のお母さんが私の分まで払ってくれた。

私はうつむいたまま、申し訳なくて彼女の目を見ることができなかった。

彼女は私の肩を叩いて言ってくれた。

「いいのよ、これは蓮が選んだことなんだから。あなたは悪くないわ」

後で知ったことだが、蓮は貯めていたお金を全て差し出し、一晩中お母さんに頼み込んだそうだ。

父親を早くに亡くなり、決して裕福とは言えない家庭だったはずなのに。

彼ら親子は、私に救いの手を差し伸べてくれたのだ。

その後、遠距離恋愛になっても、何千キロほどの距離を隔てても、私たちの想いは変わらなかった。

ただ顔を見るためだけに、十数時間も車に乗ることさえ厭わなかった。

彼に出会えて本当によかったと、数え切れないほど思ったものだ。

瀬川家から受けた恩は、決して忘れてはいけない。

だから彼が建築業界で生きていくと決めた時、私は迷わず彼について南都へ来た。

貧乏な若造に成功などできるはずがないと、誰もが思っていたとしても、私の決意は揺るがなかった。

最も苦しかった四年間、私たちは六畳のボロアパートで肩を寄せ合って暮らした。

揺れる裸電球の下、私たちはカップラーメンをすするだけの毎日を送っていた。

彼はいつか自分たちだけの家を建てると言い、その夢の設計図に二人で細かな修正を加えていった。

その一枚の図面には、未来への全ての期待が込められていた。

四年が経ち、生活がようやく上向き始め、彼は小さな会社を立ち上げた。

ただ不運なことに、蓮のお母さんがアルツハイマー病を患ってしまった。

彼を仕事に専念させるため、私は家事も介護も全て引き受け、身を粉にしていた。

長期間の過労がたたり、私たちは最初の子供を失ってしまった。

その夜、事実を知った彼は、初めて私の前で子供のように泣きじゃくった。

「アン、もう少しだけ待っててくれ。必ずお前を幸せにするから」

それからしばらくして、私は玲奈に出会った。

彼女は道端でうずくまり、途方に暮れていた。卒業したばかりでブラック企業に騙され、なけなしの所持金を全て失ったのだという。

かつて孤立無援だった自分を思い出し、私は彼女を蓮の会社に紹介した。

彼女は涙を拭い、何度も頭を下げた。「杏さん、安心してください。私、絶対に頑張りますから」

インターンから秘書へ、彼女は異例の速さで昇進していった。

彼女から良い知らせを聞くたび、私は自分のことのように喜んでいた。

会社も数人規模から百人を超えるグループ企業へと成長し、蓮は南都で一目置かれる存在になり始めた。

彼は真っ先に私を新居に迎え入れてくれた。私は感極まって涙を流し、ようやく苦労が報われたのだと思った。

それ以来、彼はほとんど家に帰ってこなくなった。

広いリビングは、私の呼吸音しか聞こえないほど静かだった。

仕事に夢中で食事を忘れているのではないかと心配になり、私は激しい雨の中、会社へ向かった。

ドアを開けると、床には女性の下着が散乱していた。

彼は玲奈をソファに押し倒し、二人は我を忘れて口づけを交わしていた。

手にした弁当が音を立てて落ち、私は震えが止まらず立っていられなかった。

彼は振り返ると、かつて私を守った時のように、彼女を庇うように立ちはだかった。

「アン、今回は俺が誘惑に負けたんだ。玲奈を責めないでやってくれ。彼女はまだ若い、悪評が立ったらおしまいだ」

あまりにも身勝手な言い分に、私は全身が凍りつくのを感じた。

成功を手にしたその瞬間、彼が真っ先に切り捨てたのはあろうことか、私だった。

……

「杏さん、講演会の会場に着きましたよ」優子の声が耳元で響いて、私を思い出から現実に引きずった。

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