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第4話

مؤلف: 匿名
宗一郎は強い力で手首を掴んで離さない。詩織は振りほどこうとしたが、彼はさらに力を込め、執拗に詩織の瞳を覗き込んだ。「どこへ行くつもりだ」

「離して、私は……」詩織が必死に抵抗し、言葉を発しようとしたその時、視界の端に、彼が美月と翼の荷物を持っているのが見えた。

その瞬間、美月の手が伸びてきた。彼女は片手を宗一郎の手の甲に重ね、もう片方の手で詩織の二の腕を優しく撫でた。すると、宗一郎の手からスッと力が抜けた。

「宗一郎さん、そんなに強く掴んだら詩織先生が痛がりますよ。先生は学校へ行かれるんでしょう?安心して、翼が壊したものは、私が必ず弁償しますから」

「必要ないわ」詩織は冷たく言い放った。

彼女は美月の手を振り払うと、振り返らずに家を出た。気にするな、気にするなと自分に言い聞かせる。けれど脳裏には、先ほど美月と宗一郎が手を重ね合っていた、あの親密な光景が焼き付いて離れない。

思い出すだけで、胃の奥から酸っぱいものがこみ上げ、吐き気を催すほどだった。

詩織はその不快感を押し殺し、学校へ着くとクラスの学習進捗をノートにまとめ始めた。もうすぐ自分はいなくなる。それでも、残される生徒たちのために、できる限りのことをしておきたかった。

午後、詩織は教室に入った。生徒たちに、自分が辞職して学校を去ることを告げるつもりだった。しかし、口を開こうとしたその時、ノックの音がして校長が入ってきた。

「詩織先生、この子を数日だけクラスで預かってやってくれないか。桐島さんの遠い親戚だそうだ。話は聞いているね?」

詩織の手の中で、チョークがパキリと音を立てて折れた。爪とチョークが擦れる不快な感触以上に、校長の言葉が詩織の神経を逆撫でした。

聞いていない。彼は何も言わなかった。遠い親戚?自分が上手く隠し通せていると思っているのだろうか。あの親子を家に連れ込んだだけでなく、学校にまで連れてくるなんて。宗一郎は、自分をそこまでの馬鹿だと思っているのか。

校長に背中を押され、翼が教室の一番後ろの空席に座った。詩織は全身がカッと熱くなるのを必死に抑え込んだ。

ここは学校で、翼は生徒だ。詩織はくるりと背を向け、ぎゅっと一度目を閉じると、平静を装って黒板に向かい、授業を始めた。

授業中、翼は何度も騒いで邪魔をした。詩織はその都度注意したが、彼は反省するどころか増長し、終了間際になると、前の席の女の子の髪の毛をハサミで切り落としたのだ。

「翼くん、職員室に来なさい!」

放課後の職員室には、詩織と翼の二人きりだった。詩織は初めて、まじまじとこの子供を観察した。彼は宗一郎の体格を受け継いでいるのだろう、まだ六歳のはずなのに、同級生よりも頭一つ分背が高い。その目元も、宗一郎と瓜二つだった。

詩織は深く息を吐いた。子供に罪はない。憎むべきは宗一郎であって、この子に八つ当たりしてはいけない。そう自分に言い聞かせた。

「明日、お母さんに頼んで低学年のクラスに移してもらいなさい。ここは三年生のクラスよ。あなたはまだ六歳なんだから、授業についていけないでしょう」

しかし、翼の口から飛び出した言葉に、詩織は耳を疑った。

「六歳なんかじゃない!僕はもう八歳だぞ!」

詩織がページをめくる手が止まった。風が吹き込み、ノートの紙がパラパラと乾いた音を立てる。聞き間違いだと思った。彼女は呆然とした表情で、もう一度問いかけた。

「……八歳?」

「そうだよ、八歳だ!」翼はそう言うと、入り口に美月の姿を見つけ、嬉しそうに駆け寄っていった。

美月は翼を抱き寄せ、怪我がないか確認してから、詩織の元へ歩み寄ってきた。「詩織先生、すみません。翼がまた悪さをしたんでしょう。私がきつく叱っておきますから」

そう言うと、彼女は机の上にあった三角定規を手に取り、翼のお尻を叩き始めた。翼は大げさに泣きわめく。詩織は激しい頭痛に襲われた。耳元で、翼の「僕は八歳だ」という言葉が何度も繰り返され、走馬灯のように過去の記憶が蘇る。

プロポーズの日、宗一郎は片膝をつき、宝物を扱うように言った。「詩織、一生君を愛し、大切にするよ。俺と結婚してくれ」

彼を庇って重傷を負い、病院で目覚めた日、彼は涙を浮かべて言った。「詩織、たとえ子供が産めなくなっても構わない。俺は絶対に君から離れない」

何度も帯同を願い出た時、彼は強く抱きしめて誓った。「詩織、君に苦労はさせたくない。手柄を立てたらここに戻してもらうから。そうすれば、ずっと一緒にいられる」

目の前の美しい思い出が、音を立てて崩れ去っていく。翼の泣き声が、詩織を現実へと引き戻した。

翼は八歳だと言った。結婚生活は七年。つまり、宗一郎は最初からずっと、詩織を騙していたのだ。この七年間、一日たりとも真実などなかったのだ。

「いい加減にしなさい!」美月が突き飛ばすふりをすると、翼がよろめいて机や椅子をなぎ倒し、詩織の足の甲に倒れ込んできた。

「っ……!」詩織は反射的に立ち上がったが、突然、下腹部に激痛が走り、立っていられなくなった。それでも痛みを堪え、倒れた机を起こそうとしたその時、美月がわざとらしく足を出し、詩織を躓かせた。

「詩織先生!いくら子供がいたずらをしたからって、こんなに酷く叩くなんて!」美月は泣きながら翼を抱き起こした。

「どうしたんだ!」そこへ、宗一郎が鬼のような形相で職員室に飛び込んできた。彼は足首を抑えて泣く翼を見るなり、すぐに抱き上げた。

「宗一郎さん、詩織先生を責めないであげてください。翼が悪いんです、叩かれて当然なんです……」

詩織は、これほど白々しく嘘をつける人間を見たことがなかった。彼女は腹部の痛みに耐えながら、どうにか体を起こした。「翼くん、正直に言いなさい。誰が君を叩いたの?」

翼は視線を泳がせると、宗一郎の胸に顔を埋めた。「……先生が、僕を打ったんだ」

詩織は言葉を失った。まさか、子供まで嘘をつくなんて。「嘘つき!私がいつ……」

「いい加減にしろ!」宗一郎が怒鳴った。「子供が嘘をつくわけがないだろう!詩織、君が教え子にこんな暴力を振るうなんて思わなかった。教師としての誇りはどこへ行ったんだ!」

詩織は呆然と彼を見た。下腹部の痛みは増す一方で、血の気が引いていくのが自分でも分かった。「……あなたこそ、ずいぶんその子を心配してるのね。ただの同僚の子供に対して、そこまで必死になるなんて。その子は本当に、同僚の子なの?それとも……」

「きゃあ!翼が痛さで気絶しちゃったわ!早く病院へ!」美月の悲鳴が遮った。宗一郎は翼の閉じた目を見て、詩織の言葉など聞く耳を持たず、背を向けて走り出した。

遠ざかる彼の背中を見つめながら、詩織の腹部を再び激痛が襲った。彼女は糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。

ちょうど通りかかった同僚の教師が、倒れている詩織を見つけ、慌てて駆け寄ってきた。「詩織先生!?しっかりして!」

詩織は波のように押し寄せる痛みに耐えながら、同僚の袖を死に物狂いで掴んだ。「そ、宗一郎さんが……今、出て行ったの……彼を呼び戻して、病院へ……」

「分かったわ、すぐに呼んでくる!」同僚はすぐに飛び出していった。詩織にとって、これほど長く感じる時間はなかった。やがて同僚が戻ってきたが、その隣に宗一郎の姿はなかった。

「だめだったわ、桐島さん、急いでいるみたいで……私の話も聞かずに車を出して行ってしまったの!」

その言葉を聞いた瞬間、詩織の意識の糸がプツリと切れた。目の前が真っ暗になり、彼女は深い闇の中へと沈んでいった。
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