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第5話

Auteur: 時雨 遥
今思えば、あれはただ単に、遼一が優菜を偏愛していたからこそなのだ。

彼にとって大切なのは、いつだって優菜だけで、他の人も物事も、彼女の前では意味を持たなかった。

義母は何度も心配そうに私のことを見に行くよう遼一に勧めたけれど、彼は全く動こうとしない。

そんな時、遼一のスマホにメッセージの通知音が鳴った。画面をちらりと見て、彼の顔に怒りの色が浮かぶ。

「母さん、もういいから。あいつは全然反省してないよ。俺が先に優菜を助けたって理由で、離婚だの、優菜を家から追い出さなきゃ子どもを堕ろすだの、脅してくるんだ。ただの毒婦だよ」

遼一の顔は怒りで真っ青になっていた。

私は少し不思議に思いながら遼一のそばまで近づき、彼のスマホ画面を覗き込んだ。

やっぱり、送信者は「私」だった。私はもう死んだはずなのに……

この異常な状況、犯人は優菜しか考えられなかった。彼女以外、こんなことをする人はいない。

「お前……!親不孝者!もし希美やお腹の子に何かあったら、絶対後悔するからな!」

「母さん、余計な心配しすぎだよ。もう脅されてる時点で無事なのはわかるだろ」

私は心の中で冷たく笑った。

夫婦として一緒に過ごしてきたのに、彼は私のことを何一つ信じてくれなかった。

「遼一、希美を探しに行きなさい。なんだか胸騒ぎがして仕方ないの。希美がそんな軽はずみなことをする子じゃないって、母さんは分かってる」

義母の言葉に、私は胸が詰まる思いだった。

義母は、遼一よりもずっと私のことを理解してくれていた。

年老いた彼女の髪に白いものが混じり始めているのを見て、私は思わず哀しくなる。

本当は、もうこんな場所にいたくなかった。

自分の魂がいつ消えるのかもわからない。

一目だけでも、母に会いに行きたい。

父が亡くなってから母は一人きり、私の死を知ったらきっと耐えられないだろう。

だけど、どうしても遼一の側から離れられなかった。

最後まで、義母の願いも虚しく、遼一は私を探しに行くことはなかった。

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