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第10話

Author: 歩々花咲
昨晩の星空があんなに綺麗だった分、今朝の太陽も負けないくらいキラキラしていた。

苑は、陽光のまぶしさに目を覚ました。

目を開けると、窓辺に座る祖母が微笑んでいた。

「苑、肝が据わってるねぇ。今日結婚するっていうのに、よくそんなにぐっすり寝られるもんだ」

苑はふにゃっと笑い、祖母の掌に顔を埋めた。

「……だって、眠かったんだもん」

「もう眠ってる場合じゃないよ。ほら、迎えの車が来てる!」

祖母に促され、苑は顔を上げた。

指さされた窓の外を見ると、ずらりと並んだ黒塗りの高級車たちが、療養院の前を埋め尽くしていた。

まさか、本当に――

あの、顔も知らないネットの知り合いが、迎えに来たの?

まだ実感が湧かないまま部屋を出た苑は、外の光の海に立つ男性を見た。

深い色のオーダースーツは完璧に体にフィットし、カフリンクスはダイヤモンドのような輝きを放っている。

頭の先から足元まで、纏う空気がまるで違った。

圧倒的な、王者のような存在感。

「……何してるんだい、早く行きな!」

祖母の声に押されるように、男性がゆっくり振り返る。

その顔を見た瞬間、苑の胸はドクンと跳ねた。

「……あなた、なの?」

心臓が、二拍、いや、それ以上に大きく跳ねた。

――そして、時計は9時59分。

帝都の中心、中央大通り。

東西に伸びる二本の超広幅道路に、二列の豪華な婚礼車列が走り出した。

ひとつは、天城家――蒼真のもの。

もうひとつは、朝倉家――蓮のもの。

帝都で最も尊いふたり。

ひとりは権力の頂点に立つ男、ひとりは財力で頂点に君臨する男。

そんなふたりが、同じ日に結婚式を挙げるとあって、数えきれないほどのメディアが徹夜でカメラを構え、

全国民に向けてライブ配信を開始していた。

どちらの車列もまるで龍のように連なり、遠目には先も後ろも見えないほど。

見た目だけでも、車の数は百台を超えていた。

一台一台がリボンと飾りを纏い、陽光すらも鮮やかく染め上げていた。

やがて、東西から走ってきた二つの婚礼の列は、中央広場で交差する。

そこで、花嫁たちはそれぞれブーケを交換するのだ。

――お互いの幸せを祈るために。

だが、天城家の婚礼については急な発表だったため、誰も新婦の顔を知らなかった。

だから今、すべての視線とカメラが、蒼真と彼の新婦の車に集中していた。

――その扉が開く瞬間を、誰もが息を呑んで待っていた。

ただ一人、全く興味を示さない男がいた。

――蓮だった。

昨夜、苑と電話を切ったあと、どうしても眠れなかった。

体がふわふわと浮いているようで、心ここにあらずだった。

蒼真が誰と結婚しようが、正直どうでもよかった。

ただ――苑が、今日、式場に来るのかどうか。それだけが気がかりだった。

琴音を迎える直前まで、彼は苑の姿を見つけることができなかった。

苑なら、仕事に遅れるなんてあり得ない。

なのに、彼女は現れなかった。

何度も電話をかけたが、繋がらなかった。

仕方なく、人を送って探しに行かせたが――

「療養院には、もう誰もいませんでした」

報告を聞いたとき、胸がざわついた。

その後もニュースをチェックしたが、事故の情報はどこにもなかった。

一方、場は進んでいた。

期待に満ちた視線が集中するなか、蒼真側のウエディングカーがゆっくりと窓を下ろした。

白いヴェールに隠れた花嫁の顔が、少しだけ覗く。

カメラマンたちはすぐさまズームインし、ハイビジョンモードで連写を始めた。

琴音は、その顔をはっきり見た。

機材なんて必要ない距離だった。

――あの顔。

あまりにも見覚えがありすぎて、心が震えた。

白石苑――?!

どういうこと?

目の錯覚かと思った。

けれど、彼女は確かに、そこにいた。

しかも、ウェディングドレスを着て。

苑は静かに手に持ったブーケを差し出した。

琴音は、機械仕掛けのように手を伸ばした。

口が小さく震え、何かを言いたそうにしている。

でも、言葉にならない。

「お幸せに」

苑は、琴音の震える手に、そっとブーケを渡した。

静かに、そしてはっきりと――

すべてを終わらせるように、祝福の言葉を添えて。

過去に、何があったとしても。

今日、この瞬間ですべてが終わった。

蓮も、琴音も。

愛も、憎しみも。

苦しみも、後悔も。

すべて――この日を境に、過去へと置き去りにする。

そのとき。

「お幸せに」

その声を――

蓮は、確かに聞いた。

苑の声。

なぜ、ここで。

うつむいていた蓮は、まるで電流が走ったように身体を震わせた。

次の瞬間、反射的に顔を上げた。

必死に、視線を探す。
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