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第9話

Author: 歩々花咲
【明日の結婚式、まだやるつもり?】

深夜、苑のもとに一通のメッセージが届いた。

苑は、隣で眠る祖母をそっと見守りながら、返信を打った。

【住所を送る。明日、私とおばあさんを迎えに来て。でも、もし後悔したなら来なくていい】

【明日、必ず迎えに行く。俺の花嫁さん!】

画面に浮かぶその言葉を見て、苑の胸がひりひりと痛んだ。

自分も、明日――新婦になる。

ただし、迎えに来るのは、顔も知らないネットの知り合い。

愛に狂ったわけじゃない。

ただ、祖母を悲しませたくなかった。心配させたくなかった。

それに、十年――

画面越しに支え合い続けた十年の歳月は、何よりも重かった。

人生において、十年を一緒に過ごしてくれる人が何人いるだろう。

それだけで、苑には十分だった。

そんなとき、蓮からの電話が鳴った。

時刻はすでに、夜中の十二時をまわっていた。

苑は祖母を起こさないよう、外へ出て電話に出た。

「社長、何かご指示でも?」

事務的な口調で応じながら、苑は内心苦笑した。

最近、彼に対して発する言葉はこればかりだった。

電話口の蓮は、重く息を吐いた。

「……どうして家にいないんだ」

今日は、なぜか無性に落ち着かなくて。

車を飛ばして、苑と六年以上も過ごしたあの家に戻ってきた。

けれど――そこには、苑の気配がなかった。

ベッドはきちんと整えられ、まるで誰も使っていないみたいに冷たかった。

苑は、彼のいる場所を察しながら、静かに答えた。

「おばあさんのところに来ています」

蓮は、真っ暗な部屋を見つめていた。

さっき入ってきたとき、彼はあえて灯りをつけなかった。

彼女を起こしたくなかったから。

でも今は――違った。

灯りをつけたくなかったのは、自分のためだった。

限りないこの暗闇の中にいるほうが、

かろうじて心が落ち着く気がしたのだ。

「……どうして向こうに?」

その問いに、苑はすぐに答えなかった。

けれど、彼の問いかけだけで、すぐに分かった。

――蓮は、彼女の荷物がもうここにないことに、気づいていなかった。

結局、彼は最後の最後まで、彼女を本気で気に留めることはなかったのだ。

もし――もし蓮が、少しでも彼女に心を向けていたら。

クローゼットに彼女の服がないことに気づいただろう。

洗面所に、彼女の歯ブラシも化粧品も消えていることに。

あの家から、苑の痕跡がすっかり消えていることに――

でも、蓮は何も気づかなかった。

それでいい、と苑は思った。

だからこそ、明日。

彼女は、すべてを終わらせることができる。

「……明日、おばあさんと一緒に式場に行くって言いましたよね?」

苑は、そう答えた。

電話の向こうで、蓮が短く沈黙する。

数秒後、低い声で言った。

「明日の朝、迎えに行かせる」

「いいえ、私が連れて行きます。明日は忙しいでしょう?」

苑は、できる限り穏やかに、気を遣うように返した。

「苑……」

蓮は、押し殺したような声で彼女を呼んだ。

「明日は……必ず来てほしい。わかるな?」

「どうして、私じゃないとだめです?」

苑は夜空を見上げた。

満天の星が、まるで降ってくるかのように煌めいていた。

こんなにたくさんの星を見たのは、いつ以来だろう。

電話口の蓮は、かすかにため息をつく。

「……約束してほしい。明日来てくれれば、理由はそのとき話す」

でも。

苑はもう、明日にはいない。

蓮の未来にも――もう、自分はいない。

だから、理由なんて知りたくなかった。

「朝倉」

苑は、静かに、でもはっきりと彼の名前を呼んだ。

声には、もう怒りも悲しみもなかった。

「お幸せに」

その言葉を聞いた瞬間、蓮はふいに泣きたくなった。

言いようのない、胸の奥をえぐるような感覚。

彼は顔を両手で覆い、ぐしゃぐしゃに揉みしだいた。

「その言葉、明日、俺の目を見て言ってくれないか」

……それは、琴音に向けた、何かの「証明」だったのかもしれない。

苑は、もう考えたくなかった。

夜風は冷たく、肩をすくめるほどだった。

「……眠いから、もう切るね」

苑は、そう言ってそっと電話を切った。

そして、満天の星空に目を閉じる。

頬を伝ったひとしずくの涙が、静かに夜に消えていった。

――朝倉蓮。

これが、あなたに流す最後の涙。
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