共有

45.新しい世界

last update 最終更新日: 2025-11-08 20:03:30

佐奈side

転職して約二年。仕事にも慣れて一通りの業務はこなせるようになってきた。元々、経営管理はやりたい分野の仕事だったので、新しいことを覚えることが楽しくて仕事に没頭していた。

「佐奈、仕事お疲れさま。週末どっちか空いていたら会わない?出張に行ったお土産を渡したいんだ」

昼休み、スマホを開くと蓮からのメッセージと、この前蓮と行った葉山の海辺のようなキラキラと輝く水面とテトラポットの写真が添付されていた。

「お土産ありがとう、日曜日が空いているよ」

すぐに返事を返して、持参したお弁当を静かに食べた。葉山に行って以来、蓮とはたまにメールのやり取りはしていたが、お互い忙しくて特に進展もなく、会うのも三週間ぶりだ。

蓮への不満も特になく、付き合ってからの事を想像するくらい好意的には思っている。そして、颯への未練もない。蓮と付き合うことに躊躇することは何もないはずなのに、告白されてすぐに返事が出来なかったのは、しばらく恋愛から遠ざかっていたせいだろうか、それとも今は仕事に集中したくて恋愛が二の次になっているのか、自分でも不思議に思っていた。

(頭も人柄も良くて顔もカッコいい。お父様は、大手人材派遣会社の藤堂グループの代表で次期社長は確実だし、これ以上素敵な人はいないはずなのに、何もったいぶることをしているんだろう?蓮なら他に声を掛けてくる人もいそうなのに……)

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら   77.男の背中

    颯side璃子に玲央のことを問い詰めると、璃子は走って逃げた。人混みをかき分けて璃子の背中を追いかけると、佐奈に詰め寄り何か話している。佐奈は、璃子の言葉に一瞬顔を歪めたが、口が少し開き何か言い返しているようだった。次の瞬間、璃子が腕を高く上げて振りかぶるような姿勢になった。視線は佐奈の顔に集中しており、頬を狙っているのは明らかだった。(佐奈、危ない――――――)佐奈を守ろうと二人の間に入り、璃子の手首を掴んで止めようと必死で手を伸ばした。バチンッ―――俺の手が璃子の腕を掴んだ衝撃音が会場に響いたが、なんとか佐奈に当たる前に止められたことに安堵して横にいる佐奈を見た。しかし、佐奈の顔は見えず、かわりに黒いスーツの男に守られるように抱かれており、俺の視界にはその男の背中がはっきりと飛び込んできた。その行動に、佐奈は笑顔で微笑んでお礼を言っている。「佐奈、大丈夫だった?怖かったね」「蓮……ありがとう」(この男は、コンサートの時にいた男だ。俺も佐奈を助けようとしての行動だったのになんでこの男が佐奈を抱いているんだ?それになんでこの場にいるんだ?もしかして

  • 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら   76.私のすべて

    佐奈side「蓮、私ね、蓮といると家の重さを感じずにいられるの。蓮はずっと私のことを、MURAKIの令嬢としてではなく、一人の人として見てくれている。女性として私に接してくれている。それに、今日も私が危なかった時に助けてくれたのを見て、蓮ともっと一緒にいたい。蓮の恋人として隣にいたいと思ったの」蓮は繋いだ手にギュッと力をこめてから、ゆっくりと口を開いた。「……それは、俺からの告白の答えと思っていいの?」「うん。私は、蓮がいい。蓮が私を選んでくれるなら、蓮と付き合いたい」「佐奈……」指を絡めていた手とは逆の手をゆっくりと私の頬に添えると、蓮の大きな手が包み込み、親指が私の唇に微かに触れた。その指先は、まるで私の言葉を確かめているかのようだった。私は目を閉じて、蓮の顔が近づくのを静かに待っていると、蓮の親指が愛おしそうに私の唇を撫でている。そのくすぐったさに小さく笑うと、蓮のやわらかい唇がそっと重なった。優しくそっと触れるだけの始まりのキスに、小さく目を開けると、蓮も私を真っ直ぐに見ている。「俺は、佐奈のこと大切にするよ。だから、もう家のことは気にしなくていい」「蓮……ありがとう」

  • 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら   75.家柄

    佐奈side「佐奈お姫様、到着いたしました」私を元気づけるために蓮はわざと冗談っぽい口調で言って手を差し伸べてきた。小さく伸ばされた手にそっと自分の手を重ねると、蓮は自分の上着のポケットに私の手を導いて、指を絡めてくる。心臓がトクントクンと心地よく弾んでいる。小さく息を吐いてから、独り言かのようにポツリポツリと言葉を発していく。「今日ね、あの二人に私の家系のことを知られたの。私は、私のことをまっすぐに見てくれる人がいいと思って、今まで自分の家のことを隠していたんだ。」「そうなんだ。佐奈の気持ち、分かる気がする」「結婚を考えていたんだけど、今日隣にいた社長の孫娘に気に入られて、あの人は、私との結婚より出世やお金を取って、理由も告げられないまま私は捨てられたの。」母に紹介する約束をしていた日、颯は待ち合わせの時間になっても姿を見せず、少し遅れて電話が入ったと思ったら、一方的に別れを告げられた。「四年も付き合っていたのに電話一本で別れを告げられたことも、翌日には孫娘と婚約したって会社でも堂々と宣言して、全てがなかったことのように冷たくあしらわれてね。」颯とのことは、本当は誰にも言いたくなくてずっと黙っていた。蓮にも話すつもりがなかったのに、昼間のことがあって、今は蓮に側で聞

  • 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら   74.温もり

    佐奈side「どこか店にでも行く?それとも落ち着いた場所の方がいい?」車に乗ると、何かを察したように蓮が優しく尋ねて来た。「落ち着いた場所がいいな」「じゃあ、もう夜も遅いしどこか夜景でも見に行かない?車の中なら温かいし、人目も気にならないよ」「うん、お願い」サイドブレーキを上げて、車はゆっくりと走り出していく。街の喧騒から離れていくにつれ、私の心も少しずつ落ち着きを取り戻していった。「あの二人になんか言われたの?」信号が赤になり停車した時に蓮が不意に聞いてきて、私は言葉に詰まってしまった。「……え」「話を急かすようでごめん。佐奈のことが心配で気になっちゃって。あの時の佐奈、平然としたようにしていたけれど、顔が強張っていたから無理しているんじゃんないかなと思って」「……うん。蓮、すごい。何でも分かるんだね。ちょっと嫌なことがあってね、それで蓮にも離したいことがあったの」

  • 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら   73.ビンタ

    佐奈side璃子が振りかざした手が当たった音がしたが、私の頬にその衝撃はこなかった。代わりに温もりを感じて、恐る恐る目を開けると目の前には蓮が立っていて、私を守るように璃子に背中を向け包み込んでいる。私が叩かれることがないように、璃子の腕と私の間に入って止めたのだった。そして、璃子の隣には、璃子が振り上げた腕を力強く握っている颯の姿があった。パチンッという衝撃音は、璃子の腕を颯が暴力的に捉えた時の音だろう。「佐奈、大丈夫だった?怖かったね」「蓮……ありがとう」「無事でよかったよ。少し外のテラスで休まない?」「ええ、そうしたいわ」蓮は私の肩を抱いて優しく微笑んでから、璃子と颯を威嚇するように睨みつけていた。その瞳には、普段の柔和さはなく怒りが宿っていた。「この前、お会いしましたよね。あなた方のことは調べればすぐに分かります。こんな場で騒ぎを起こすようなことは慎んで頂きたい。これ以上、何か起こすようなら団体に言ってあなた方を出禁にすることも出来るんですよ。それと佐奈を傷つけるようなことをしたら、私が許しません。」「佐奈、行こう」蓮に寄り添われながら、私が颯と璃子から離れていくと、颯は何か言いたげに口を開いていたが、蓮の威圧に押され何も言えずにいた。まだ、璃子の手が大きく上がった瞬間の衝撃が頭の中に残っていて、心臓をバクバクさせている。「蓮、助けてくれてありがとう……」「どういたしまして。佐奈に何もなくて本当に良かったよ」蓮の笑顔を見た途端に、今まで封じ込めていた怒りや悲しみが一気に溢れ出しそうだった。颯への失望、璃子の悪意、そして自分の過去の失敗。蓋をしていたはずの感情が、蓮の優しさや頼もしさに触れて外れてしまいそうだった。そして、この気持ちを蓮に聞いてほしくて、蓮にすべてをさらけ出して、それでも側にいてくれるなら、私はこの先も蓮と一緒にいたいと思った。「ねえ、蓮?このあと一緒に帰れる?話があるの」「いいよ。帰ろう。家まで送ってくよ」蓮はやさしく微笑んで私の髪を撫でた。

  • 愛よりもお金をとるのならどうぞご自由に、さようなら   72.反撃

    佐奈side颯は、私の家系を知ると『一緒にいたいのは璃子ではなく佐奈だ』と言ってきて、璃子との婚約を辞めて私がいいと言っている。出世のために私を捨てたはずなのに、私の家系の方が格上だと分かると手のひらを返したように「一緒にいたい」「大事」という颯に反吐が出そうだった。(大体、璃子にも本郷さんという婚約者がいるのに略奪しておいて、婚約を辞めて私と一緒になりたいって何よ。どれだけの人の人生を振り回す気なの?颯がそんな人だなんて思わなかった……)結婚を考えていた相手がそんな薄情で自己中心的な男だったことに心の底から失望していると、カツカツとヒールを鳴らして駆けてくる音が聞こえてきた。騒がしい音の方に顔を向けると、そこには悪意に満ちた璃子が立っていて、私と目が合うとニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。「聞いたわよ。あなたMURAKIの令嬢なんですってね。颯に黙っていたの?残念だったわね。最初から伝えていたら、颯はあなたを選んだかもしれないのに。それとも、自分の家系を伝えなくても選ばれる自信でもあったの?」耳元で囁きかけてくる璃子に怒りで睨みつけると、視線の先には颯がこちらに向かって駆けてくる姿が見えた。ここで取り乱しては、颯と璃子の茶番に巻き込まれるだけだ。「私はあなたのようなことはしないわ。あなたは、会社の孫娘って看板が

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status