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第4話

Auteur: 黒い土地
翌日、ネットニュースに【前田グループの社長、東都不妊治療センターに頻繁に出入り。なにやらおめでたいニュースがあるかも?】という記事が一瞬だけ出て、すぐに削除された。

その日家に帰ってきた勲は、わざわざワスレナグサの花束を買ってきた。

ワスレナグサは「私を忘れないで」という意味で、勲が一番好きな花だった。

「週刊誌の憶測だよ」勲はネクタイを緩めながら私の様子をうかがった。「あの病院へ行ったのは、最新の不妊治療ができると聞いたからだ。遥、俺たちの赤ちゃんのために、まず体を最高の状態に整えたいんだ」

勲は花瓶に花を生けながら、愛おしそうに言った。「遥に、一番健康な赤ちゃんを産んでほしい。これって、間違ってるか?」

ただ、勲のスマホで見た【勲さん、今日の検診、赤ちゃんは順調だった。ただ、ちょっと疲れちゃった】というメッセージを見ていなければ、私も彼の嘘を鵜呑みにできたのかもしれない。

そう思いつつ私は言った。「あなたはいつも本当に気が利くわね」私は花束を受け取り、指先で花のトゲに触れた。「『私たちの家庭』のために、あなたも大変ね」

それを聞いて、勲は明らかにほっとした様子で、私の肩を抱きしめた。「お前が喜んでくれるなら、これくらいどうってことないさ」

次の日、勲が会社に行っている間に、私は実家に寄った。

実家の庭は花の甘い香りに満ちていた。両親は楽しそうに新婚旅行の計画を立てていた。

「遥、この島はどうかしら?私たちはもう計画も立てているのよね」母は満面の笑みだった。

両親の白髪まじりの髪を見て、私は胸が締め付けられ、必死に涙をこらえた。

「母さん、新婚旅行は急がなくていいから」私は分厚いファイルを取り出し、一緒に来てもらった弁護士に渡した。「陣内(じんない)先生、これは勲が私にくれた資産の証明書です。全権を委任しますので、すべて私の両親名義の信託口座に移して、先生に管理をお願いしたいんです」

彼は驚いた。「石田さん、これは一体……」

「もし……私がすごく遠い場所で仕事をすることになって、管理ができなくなった時のための……私の両親の老後のための資産です」

そう言って私は父のゴツゴツした手を握った。「父さん、母さん、私は叶えたい夢があるの。だからすごく遠くて、電波も届きにくいかもしれない場所へ行く予定よ。でも、心配しないで。私は元気にやっていくから」

それを聞いて両親は、私が地方にしばらく取材旅行にでも行くのだろうと思い、仕方ないと優しく笑って送り出してくれた。

そして実家を出てから、カフェで待っていた親友の石川椿(いしかわ つばき)と合流すると、彼女はものすごい剣幕だった。

椿は薬の箱をテーブルに叩きつけた。「遥、正気なの?もうすぐ結婚式なのにこんなもの飲んで!前田さんは、ずっと子供が欲しいって言ってたじゃない?」

それはホルモンバランスを整えるための薬で、つわりをごまかすための私の口実でもあった。

私はアイスコーヒーをかき混ぜながら、静かな口調で言った。「椿、私はもう勲の子供を産まないつもりよ」

「どうして?彼、あんなにあなたのこと大事にしてるのに……」

しかし、そう言い終えないうちに、椿の視線が固まった。振り返ると――

デパートの1階で、勲がゆったりした白いワンピースを着た女性を支えながら、高級ブランド店から出てくるところだった。

女性が足を滑らせると、勲は慌てて彼女の腰を抱きかかえた。彼の手には、有名ブランドの限定マザーズバッグが提げられていた。

椿は勢いよく立ち上がって駆けつけようとしたが、私は必死で彼女の腕を掴んで引き止めた。

「行かないで」

ちょうどその時、勲から電話がかかってきた。私はスピーカーにした。

「遥、今、会社で会議中なんだ。今夜は少し帰りが遅くなる。

そうだ、さっきデパートの前を通ったら、お前に似合いそうなバッグを見つけたんだ。でも残念ながら品切れでさ、今度買ってやるよ」

それを聞いて椿の表情は、怒りから驚きへ、そして最後には侮蔑へと変わっていった。

だって、階下では、勲が美羽のために優しく助手席のドアを開け、彼女が頭をぶつけないように手を添えていたから。

「分かったわ。お仕事頑張ってね」私は電話を切って、椿を見た。「ね、これで分かったでしょ?」

すると椿は椅子に崩れるように座ると、目を赤くして吐き捨てた。「あのクズ男!」

「このことは黙ってて」私は薬の箱を取り返し、ゴミ箱に捨てた。「結婚式の日に、全部終わらせるから」
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