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第152話

Autor: みそ煮
last update Fecha de publicación: 2026-10-21 07:07:57

深い眠りについた由利を、紫苑は冷たい目で見下ろしていた。その瞳に宿っていたのは、愛憎が入り混じる複雑な感情だった。

「……姉さんったら、どうしてあんな人のことばかり気にかけるのかしら」

紫苑は由利が父親のお見舞いに行ってるのが気に入らなかった。彼女の目に映るのは自分だけでいい。紫苑は常にそのような考えを持って生きてきた。

そんな彼女にとって、由利の今の行動は到底理解できなかった。父親が優しい人であったならまだしも、どうしてあんな男のことを気にしているのか。

「……せっかく私があなたの敵を排除しようとやってあげたのに」

そう、父親を階段から突き落とした黒幕は紫苑だった。実行犯は彼女ではないが、指示したのは紛れもなく紫苑だった。

「姉さん……ちょっとお仕置きが必要みたいね」

紫苑はスマホをポケットから出すと、電話である人物を家に呼び寄せた。ちょうど、碧斗は睡眠薬で眠っていて明日の朝まで起きてはこない。

父親も母親もいない今、この家にいるのは紫苑と由利の二人だけ。家に姉妹二人きりというのは、もしかすると初めてかもしれない。

「何だかゾクゾクしちゃうわ……」

しばらくすると、夏目邸に一人の男
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  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第152話

    深い眠りについた由利を、紫苑は冷たい目で見下ろしていた。その瞳に宿っていたのは、愛憎が入り混じる複雑な感情だった。「……姉さんったら、どうしてあんな人のことばかり気にかけるのかしら」紫苑は由利が父親のお見舞いに行ってるのが気に入らなかった。彼女の目に映るのは自分だけでいい。紫苑は常にそのような考えを持って生きてきた。そんな彼女にとって、由利の今の行動は到底理解できなかった。父親が優しい人であったならまだしも、どうしてあんな男のことを気にしているのか。「……せっかく私があなたの敵を排除しようとやってあげたのに」そう、父親を階段から突き落とした黒幕は紫苑だった。実行犯は彼女ではないが、指示したのは紛れもなく紫苑だった。「姉さん……ちょっとお仕置きが必要みたいね」紫苑はスマホをポケットから出すと、電話である人物を家に呼び寄せた。ちょうど、碧斗は睡眠薬で眠っていて明日の朝まで起きてはこない。父親も母親もいない今、この家にいるのは紫苑と由利の二人だけ。家に姉妹二人きりというのは、もしかすると初めてかもしれない。「何だかゾクゾクしちゃうわ……」しばらくすると、夏目邸に一人の男がやってきた。紫苑はやってきた男に短く命じた。「さっさと運んでちょうだい」「ああ、わかったよ紫苑」彼は頬を染めながら紫苑を見つめたあと、眠っている由利を抱き上げた。どこに連れて行くつもりなのか、それは紫苑と男だけしか知らない秘密である。***由利が目を覚ましたのは、深夜だった。とはいえ、彼女が今いる場所では外の様子などわからない。部屋は真っ暗で、中の様子がほとんど見えない。「あれ……私、何してたんだっけ……?」由利はベッドの上で横たわっていた。しかし、いつも彼女が寝ているベッドとは明らかに違う感触。そこで、由利は自分が他の部屋にいることに気が付いた。「………ここ、どこ?」スマートフォンの光で部屋の中を照らすと、全く知らない部屋だった。それに、なぜか妙な香りがする。(理解が追い付かないわ……一体昨夜何があったと……)何とか扉を発見した由利は、外に出ようとした。しかし、扉は開かなかった。それどころか、スマートフォンが圏外になっていてどこにも繋がらないではないか。「嘘……もしかして、私……閉じ込められたの……!?」由利は絶体絶命の状況に陥った。

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第151話

    父親のお見舞いに行った由利は、寄り道することなく夏目家へ帰った。仕事終わりに行っているため、既に時刻は夜の八時を過ぎていた。普段の仕事に加え、父親の見舞いまで。由利は毎日ヘトヘトだった。こんなにも忙しない日々を過ごすのは、初めてかもしれない。「姉さん、おかえりなさい」「ただいま、紫苑」帰宅した由利を、紫苑が出迎えた。今からご飯を作らなければと支度をしていた由利に、紫苑が声をかけた。「姉さん、疲れたでしょう?今日は私がご飯を作ったのよ。姉さんに喜んでもらえると嬉しいなと思って」「……あなたが?」由利は驚いて支度の手を止めた。紫苑が料理をするだなんて、前世を含めても初めてだった。(……何か変なものでも入れているんじゃないの?)碧斗から聞いた話を思い出して真っ先に疑った由利だったが、紫苑はそんな彼女の疑念を読んだようだった。「姉さんったら……酷いわね。私がそんなことするような人間に見えるの?」「いや……」正直に言えば、見えなくはない。碧斗に変なものを入れた飲み物を渡したくらいだから、由利にも何か仕組んだとしてもおかしくはないだろう。「姉さん……私の作った料理は嫌?」「い、いいえ……そんなことはないわ……」由利は不安げな紫苑に微笑みかけた。何か入れているという確証がないのに、疑うのは良くないことだ。「なら、ぜひ食べてちょうだい!何時間もかけて作ったんだから!碧斗義兄さんも美味しいって言ってくれたのよ!」「あ、碧斗が……!?」紫苑が作ったものは口にするなと言ったはずだが、こんなにも早く言いつけを破るとは。由利は呆れてものも言えなかった。(……碧斗が食べて平気だったなら、いいか)由利は仕方なくリビングへ向かい、紫苑の作った料理に手を付けた。ハンバーグに味噌汁、どれも良い香りがする。「…………美味しいわ」「本当!?姉さんにそう言ってもらえるなんて、とっても嬉しいわ!料理をするのは初めてだったから、不安だったのよ」きちんとレシピ通りに作ったのだろう。どれも店で出てきてもおかしくはないほど、美味しかった。紫苑は手が止まらない様子の由利を見て、嬉しそうに笑った。「―――姉さんが最近疲れているようだったから、心配だったのよ」「紫苑……」なんだ、紫苑はただ私を気にかけていただけだったのか。そのことを知った由利は、彼女を疑っていたことを

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第150話

    涼介には由利と同じように、三度の生の記憶があった。なぜ、碧斗にはなくて彼にはあるのか、わからない。ただ、一つたしかなのは彼が由利を深く愛しているということだ。その点で言えば、もう一人の回帰者である紫苑と共通していた。(紫苑……あの女は危険だ。何をするかわからない)涼介は最初から、紫苑の危険性を見抜いていた。姉の由利を深く愛する女。愛の形は人それぞれではあるものの、彼女が由利に抱く愛情はかなり歪だった。碧斗と不倫関係にあることも、おそらく由利が関係しているのではないだろうか。紫苑は碧斗に興味なんてないに違いない。彼だけが気付いている真実だった。再びボーッとしている涼介に、母親の薄井夫人が何かを思い出したように話しかけた。「そういえば涼介……夏目社長が階段から落ちて大怪我をしたそうよ」「な、夏目社長が……!?」涼介は驚いて立ち上がった。またしても、前世にはなかったことだ。前世の記憶を持つ彼は、前よりも慎重に動いていた。「それは一体どういうことだ……?」「私も詳しくはわからないんだけど……外の階段から落ちて骨折したとか。噂によると……誰かが突き落としたんじゃないかって」「誰かが突き落としただと……?」”誰か”―――薄井夫人はそう言ったものの、涼介の脳裏に浮かび上がったのは一人の女だった。(紫苑……あの女がやったに違いない……!)夏目社長は何もないところで階段を踏み外すほど抜けた人間ではない。いくら年を取ったとはいえ、まだまだ健康で若々しい。そんな彼が、自分から落ちたとは考えづらかった。つまり、誰かが落としたということになる。決まったわけではないけれど、犯人は紫苑だと涼介は考えていた。立ち上がったまま固まる息子に、母親は尋ねた。「涼介……どうかしたの?」「いや……由利のことが心配で」「まぁ、あなたったら、いつも由利ちゃんのことばかりね……」涼介が由利を愛していることは、両親も知っている。彼らは愛する息子の恋を後押ししてあげたいという気持ちでいっぱいだったが、相手が碧斗の妻なので内心複雑だった。しかし、碧斗が由利に不誠実な行いをしているので、両親はもはや彼を見限っているも同然だった。夏目社長の入院を聞いてからというもの、涼介は不安感を払拭できずにいた。「父さん、母さん、俺……」「―――ああ、行ってきなさい」「父さん……!」

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    ―――いつも、回帰したことに気が付いたのは彼女が亡くなったあとだった。ただ、彼女が惨めに死んでいくのを、彼は遠くから眺めているだけ。助けられる機会はいくらでもあったはずなのに、彼は彼女の助けてという声に気が付かなかった。『由利……どうして……』再会したときには、彼女はいつも冷たい遺体となって彼の前に現れた。震える手で彼女に触れ、呼びかけても反応はない。――あぁ、どうしてこんなことに。周囲に何があったのかと、何度も何度も問い詰めた。しかし、返ってくる言葉は誰からも同じ。『私にはわからない』全員がまるで他人事であるかのように、知らないと言った。彼女が亡くなったことに、全く興味がないようだった。『紫苑……紫苑……どうしてこんなにも早く……』夏目家を訪れると、由利の両親が娘の死を嘆き悲しんでいた。しかし、その相手は由利ではなく、もう一人の娘の紫苑だった。夏目家には、紫苑の遺影が飾ってあった。そのときに初めて、彼は紫苑が少し前に亡くなっていたことに気が付いた。しかし、そんなこともはやどうでもよかった。大して仲が良いわけでもなかったし、異性への距離感が近すぎる紫苑のことは昔から気に入らなかった。しかし、彼は泣き喚く夏目夫妻を前に疑念を抱いた。―――なぜ、由利が亡くなったことには全く触れていないんだ?夫妻が悲しんでいるのは紫苑だけで、由利が刺されて亡くなってしまったことには一切触れていなかった。それに、屋敷内には由利の遺影すらない。由利が死んだことに、悲しんでいるのは自分だけだった。最初から残酷な運命だったが、死んだあとも周囲は冷たいのか。彼は由利の苦しみを思い、一人涙を流した。「――涼介、どうかしたの?」「……いや、何でもない」母親に声をかけられ、涼介は我に返った。彼はちょうど、両親と食事を摂っている最中だった。「珍しいな、お前がボーッとするだなんて」「……父さん」母の隣に座っていた父親が優しく微笑んだ。涼介の両親―――薄井夫妻は、昔から仲の良い夫婦として有名だった。経営者は女好きで不倫が多いと世間では言うけれど、薄井社長は驚くくらい妻に一途だった。(いつもどうしようもないくらい母さんが大好きだもんな……)涼介は目の前で微笑む二人を眺めながら、前世の記憶を思い浮かべた。優しい二人も、前世では碧斗の死をきっかけに堕ちていく。彼が

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第148話

    病室で一人になった洋介は、娘が出て行った部屋の扉をじっと見つめていた。あの扉から入ってくる人間といえば、医師と看護師、そして事件を担当する刑事以外には由利のみだった。碧斗は仕事が忙しくてなかなか来られないし、紫苑はなぜか自分に興味がない様子だった。定期的に彼の元を訪問するのは、もはや由利だけだった。彼は病室のベッドに横になり、じっと考え込んだ。つい最近、最愛の妻に捨てられたばかりだった。彼女に未練がないと言えばウソになるが、今ではだいぶ乗り越えることができている……とは思う。夜になると、様々なことを考え込んでしまう。泣いてしまうことさえあった。自分には泣く資格なんてないことはわかっていた。しかし、それでも溢れ出る涙を抑えることができなかった。「……」どれだけ、大きな罪を犯してしまったのだろうか。洋介は怪我をしてからというもの、ふと昔のことを思い出すようになった。まだ淳子がいて、家族円満だった頃。彼が思い浮かべる家族の記憶の中に、由利はいなかった。紫苑の笑顔はいくらでも浮かぶのに、なぜか由利の笑顔はどれだけ思い出そうとしても出てこない。一体いつから、彼女の笑顔を見ていなかったのだろうか。―――答えは今でも出てこない。最後に彼女が笑ったのはいつだった?俺は一体いつから由利のことをまともに見ていなかった?そのような疑問が浮かび上がっては、頭の中をグルグルと駆け回る。最初から答えが出ないとわかっていながらも、ついつい考えてしまう。「最初から……俺は全て間違えていたんだろうな……」自分でもわかっていた。彼は紫苑を溺愛する一方で、由利を育児放棄していた。いや、育児放棄どころか彼女からすれば虐待だったのかもしれない。愚かにも、今になってそのことに気が付いた。「しかし、最近になってやたらと夢に由利が現れるな……」洋介は近頃、謎の悪夢に悩まされていた。夜になると、いつも由利が彼の夢の中に現れる。そして、泣きそうな顔で毎回同じ言葉を口にするのだ。『父さん……私はあなたの”唯一”の娘なのに……あなたは私を虐待した……!』その言葉の意味を、彼はいつも理解できなかった。由利は間違いなく彼の娘だが、唯一ではない。紫苑は紛れもなく淳子が生んだ洋介の子だった。しかし、目の前に現れる彼女はとても嘘をついているようには見えなかった。「……一体、何が起きてい

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第147話

    父洋介が怪我をしてからというもの、由利は仕事の合間を縫って父のいる病院へ通うようになった。今日は父親の好きだったご飯を作って持ってきた。別に父親のことが好きだからそうしているわけではない。ただ、いつか父が亡くなったとき罪悪感で心が辛くならないように、行動しているだけだ。父にされた仕打ちを思えば、何で自分でもこんなことしてるんだろうなとは思う。「―――父さん、お見舞いに来たわよ」「由利……今日も来てくれたのか」病室へ入ると、父が嬉しそうに頬を緩ませた。彼の見舞いに来る人間は由利以外にはいない。妻とは離婚したうえに、碧斗は仕事が忙しくてあまり来ることができない。そして紫苑もなぜか、病院に全く顔を出さなかった。(紫苑、あんだけ父さんのこと好きそうに見えたのに……)血の繋がりがなくとも養父として大切に思っていると感じていた由利だったが、彼女はやはりどこまでも冷たい人間だった。「入院生活は寂しいから、お前が見舞いに来てくれて嬉しいよ……」「そう、私は紫苑みたいに愛想がよくないし、器用じゃないけどね」「由利……」紫苑のように愛想が良くない、器用じゃない。それはかつて、洋介がまだ幼い由利に対して言った言葉だった。彼は紫苑を溺愛する淳子の影響か、昔から何かと由利と紫苑を比べていた。いつも紫苑を褒め称え、由利を叱る。(ホンット、私もどうして父さんの見舞いにわざわざ来てるのかわからないわ)そんな彼女に対し、父は罪悪感に満ちた顔で口を開いた。「由利……すまなかった」「……」由利はその言葉をすぐには受け入れることができなかった。大切にしていた紫苑や妻から見捨てられた今になって気付くなど、あまりにも遅すぎるのではないか。由利はこれ以上、身勝手な父の姿を見ていたくはなかった。むしろ前と変わらないほうが、彼女の心もいくらか楽だったかもしれない。「……父さんが何を思ったところで、私の心の傷が消えるわけではありません」「……わかっている」父は苦しそうに由利から目を背けた。たとえ彼がどれだけ後悔したところで、由利が今さら父に心を開くことはない。彼は自分自身の犯した罪を、一生かけて背負っていかなければならなかった。「……そうですね、葬式くらいには出てあげましょう」「由利……?」「勘違いしないでください。親の葬儀にすら参列しないだなんて、何を言われるか

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第7話

    両親、碧斗は紫苑の妊娠に大層喜んだ。このときには既に紫苑は病気を克服し、強く生き始めていた。そんな彼女の変化は、由利にとっても喜ばしいことだった。「二人とも、妊娠おめでとう」「ありがとう、姉さん」紫苑は嬉しそうに微笑んだ。まだ平らな彼女のお腹を、隣にいた碧斗がそっと撫でた。その顔はとても幸せそうで、由利は回帰してよかったと心の底から思えた。紫苑は複雑そうな目で由利を見つめた。「姉さんから祝いの言葉をもらえるとは思っていなかったから……驚いたわ」「……そんなことないわ、私は誰よりもあなたたちの愛を応援しているもの」強がりでも嘘でもない。紛れもない本心だ。由利の言葉を聞いた両親は

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第3話

    目が覚めると、由利は病院の一室にいた。「無事だったんですね、よかったです」「あなた……」ベッドに横たわる由利の顔を、夏目家のメイドが心配そうに覗き込んだ。また巻き戻ってきたのではないかと思ったが、どうやらそうではないようだ。由利は自身の安否など気にも留めず、メイドに尋ねた。「お腹の子は……」「……」その問いに、メイドは痛々しそうに視線を逸らした。由利は彼女の反応で全てを悟った。――あぁ、流産してしまったんだ。奇跡のように私の元へやって来てくれた子は、産まれることもなく亡くなってしまったのね。悲しくて、悔しくて、やりきれない気持ちになった。由利は病室内を見渡した。流産したと

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第2話

    それから碧斗は、毎日のように紫苑のいた病室で泣き続けた。彼女がいなくなり、火葬されたあともずっと。仕事も手に付かなくなるほど毎日のように大声で泣き、隙あらば彼女の痕跡を探した。彼女が生前着ていた服を抱きしめ、服が濡れるまで泣いた。もちろん両親も深い悲しみに暮れていたが、それでも彼の絶望は異常ともいえるほどだった。この世の全てを失ったかのように、真っ暗な部屋で酒を浴びるように飲み続けた。彼女のいない世界なんて、意味がないのだろう。由利はそんな彼をただ見ていることしかできなかった。姉妹ではあるが、紫苑に似ているところなんてほとんどない由利に、彼女の代わりなんて到底務まらないからだ。そして

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第1話

    「紫苑……!紫苑……!しっかりしてくれ……そんな……どうして急に……!」水藻区(みなもく)にある大病院の一室にて。一人の男がベッドに横たわって微動だにしない女に必死の思いで呼びかけている。彼の呼びかけも虚しく、彼女はビクともしなかった。病室が静寂に包まれ、人々のすすり泣く声が耳に入る。この場にいる全員が彼女の死を悲しみ、現実を受け止めきれないでいる。そんな中、一人の女が複雑な表情で彼ら家族を見つめていた。「……」――どうして、こんなことになってしまったのか。彼女は心の中で自分自身に問いかけた。当然、答えなど出てこなかった。元より、答えられる問題ならそのように思ったりはしないだろう

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