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第1320話

Auteur: ラクオン
こっちはもう構えてたのに、それかよ!

紀香はこれが清孝のわざとだと気づき、足を上げて蹴りを入れた。そのまま背を向け、布団を奪い取って丸ごと体に巻きつける。背中全体が恨みがましさでいっぱいだった。

清孝は気にもせず、彼女ごと布団を抱き寄せる。

耳元で低く笑い声をもらした。

「そんな顔をされると……欲求、不満にしか見えないな」

わざとらしく間を置き、からかいが明らかだった。

紀香は肘を突き出した。

だが布団に絡まって、力を出せなかった。

耳元で響く男のくぐもった笑いは、明らかに彼女を笑っている。

それがまた彼女を怒らせた。

込み上げた感情は一気に溢れ、涙がこぼれ落ちた。

清孝は腕に伝わる熱い滴を感じ、すぐに体を起こした。

彼女に涙もろい癖があるのを知っていた。

それでも、涙を見ると胸が締め付けられる。

親指でそっと目尻の涙を拭い、低い声で謝った。

「悪かった、泣くな。君がどうしたいか、俺は従う」

布団が緩んだ瞬間、紀香は身を翻し、彼をベッドに押し倒した。

清孝は彼女が倒れないように支えながらも、完全に「されるがまま」の姿を見せた。

紀香は涙を拭い、訴えた。

「あなたって本当に悪い人。わざと餌をぶら下げて、決してはっきりさせてくれない。

裸で私の前をうろついて。

挙げ句の果てには、わざとあそこへ導いておいて、何もせずに余計な想像だけ残して、最後は私に先に動かせる。そうやって高みから、『君が望んだんだ』って言えるでしょう!」

言っていることは的確だった。

確かに彼女は成長して、賢くなっていた。

清孝は満足げに彼女を見て、優しく問いかけた。

「じゃあ今、君はどうしたい?」

紀香の手に伝わるのは、燃えるように硬い筋肉。

心の中は千々に乱れていた。

――食べてしまうか。

もし自分から食べてしまえば、彼は得意げになるだろう。

そしてこれからずっと、この件を引き合いに出すに違いない。

彼の策謀は、きっともっと多くのことに彼女を巻き込んでいく。

だが……

ここまで来て食べないとなれば、それもまたもどかしい。

きっと今夜、眠れなくなる。

清孝は、彼女の眉間にしわを寄せた美しい顔をじっと見つめていた。

声を出すことなく、両腕を頭の下に組み、余裕たっぷりに観察していた。

夜はまだ長い。

今夜がだめでも、復縁の夜には必
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