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第56話:王太子の返答

last update 최신 업데이트: 2025-07-02 20:10:31
その日、王宮に朝の光が差し込むよりも早く、クラウディア王国外務庁の扉が厳かに開かれた。

アルヴァレス王国より、正式な外交文書が届いたのである。

一見して、それはただの使者による通達文にすぎなかった。

だが、そこに封印された紋章と添えられた国璽は、明確に告げていた。

──これは、王太子レオン自身の意志である、と。

王宮の大広間。

神王アウレリウスをはじめ、重臣、軍部、神殿、魔塔、それぞれの代表者が列席する中、外務卿が文面を読み上げた。

「第一条:王子リリウス=クラウディアとアルヴァレス王太子レオンとの婚約は、王国法に基づき成立しており、いかなる理由によっても破棄されるものではない」

「第二条:王子リリウスの無断出国および国外亡命は、王国に対する明確な背信行為であり、これは“国家反逆”に該当する」

「第三条:よってクラウディア王国に対し、当該王子の即時返還を要求する」

会議の場に、重く、冷たい沈黙が流れる。

リリウスは、その中で静かに目を伏せていた。

言葉に出されるまでもない。

あの国が自分をどう見ていたか、どう利用してきたか、改めて突きつけられたにすぎない。

(婚約……? あれが……)

記憶の奥で、震えるような夜の声がよみがえる。

誓いの言葉ではなかった。

あれは縛るだけの契約だ。

縛り、囲い込み、逃がさないための鎖だった。

王太子の名で、再び突きつけられた“所有”の印。

「クラウディア王国としては、これにどう対応するか──」

外務卿の問いに、神王アウレリウスはゆっくりと首を上げた。

「クラウディア王国は、王子リリウス=クラウディアの意思と人格を、王権と同等に尊重する」

その言葉に、場がざわめいた。

それは即ち──要求の拒絶を意味していた。

「アルヴァレス王国からの文書に含まれる条項のいずれも、我が国の基本理念──すなわち“個人の尊厳の不可侵”に照らして、受け入れることはできない」

アウレリウスの声には、怒りも衝動もなかった。

ただ、王としての明確な意思だけがあった。

「返還要求は、丁重に拒絶する」

言い終えたとき、場の空気が一段と引き締まった。

クラウディアは明確に立場を示した。

もはや、亡命者の庇護ではない。

この地に“王子”として立つ者の意志を、王国は守る。

「……この返答は、戦を招く可能性がある」

会議後、カイルはアウレリウスの執務室でそうつぶやいた。

めがねあざらし

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