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第65話:父と子の距離

last update 최신 업데이트: 2025-07-11 20:28:19
ヴァルド宮の謁見の間は、まるで巨大な石の心臓のように、冷たく静かだった。

厚い扉が重々しく閉じられ、石造りの壁には幾何学的な装飾が施されている。

リリウスはひとり、静かに立っていた。

両脇には見張りの兵が控え、玉座の奥には──この国の頂点に立つ男がいた。

カイルとユリウスの父。ヴァルド連邦元首、ゼノ=ヴァルド。

彼はカイルによく似ていた。だがその眼差しは、カイルよりも遥かに鋭く、重く、曇りがなかった。

「人間ではなく、国家そのものが人の形をしている」──そう表現されるのも頷けるほどの存在感だった。

「王子殿下。いや、特使殿か」

低く、くぐもった声が響く。

「クラウディアからの旅路、ご苦労だったな」

「……貴国に迎え入れていただき、感謝します」

リリウスは静かに礼をとる。緊張はしていた。けれど、逃げる気はなかった。

ゼノ元首は、ゆっくりと玉座から腰を上げた。

「では早速、本題に入ろう。我々は軍事協定を交わしたばかりだ。……だがそれは、国益を軸に据えた“取り引き”に過ぎない。その裏付けとして、クラウディアが“君”を使者として送ってきた理由を、私は知りたい」

「僕は……ただの外交官ではありません」

リリウスは真っ直ぐに答える。

「この国との協定を、言葉ではなく意志で繋ぐために来ました。

僕がここに立つことそのものが、クラウディアの誠意であり──覚悟です」

「ふむ」

ゼノは短く唸ると、歩み寄ってくる。

「君は“戦争の火種”にもなりうる存在だ。そのことは自覚しているか?」

「はい。だからこそ、僕は“自分の足”でここに立っています」

「自分の足、か……。それは良い」

ゼノの目が細められる。

「だが、足元がぐらついたままでは意味がない。君が王子であるというだけでは、我々は協力せん。……君が“どう選ぶか”、そこにしか価値はない」

「分かっています。僕は、誰かの飾りや象徴になるつもりはありません。この旅で、“僕自身”の意味を見つけると決めてきました。たとえそれが、望まれぬ答えになったとしても」

ゼノは小さく笑った。それは皮肉でも嘲笑でもなく、どこか微かな満足を含んだ笑みだった。

「やはり……どことなく、カイルと似ているな」

リリウスは少し驚いて顔を上げた。

「……そうでしょうか?」

「あいつも昔、“意志は名よりも重い”と言って、議会を黙らせたことがある。──その結果、あいつは未だに“
めがねあざらし

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