LOGIN「実は祖父――会長命令で政略結婚をさせられそうになっている。だが、俺はその相手と結婚する気はない」
政略結婚? そんな言葉、現実に存在してるの?
それとも時代がおかしいの?
ここは昭和?「だから私と結婚するっていうのは、どうかと思いますが…それに、そんなことで諦めてもらえるものでしょうか?」
「既婚者になっておけば、形式的に断れるから。だから俺は契約結婚を望んでいる」
「そ、それだけで部下の人生を巻き込まないでくださいッ。実際に結婚するなんて――」
私の台詞を遮って彼は言った。「報酬は、契約満了時に1,000万円」
その金額に、私は言葉を失った。
(いっせんまん……!?)
貯金ゼロどころかマイナス。今月中には今のマンションを出ないといけない。引っ越し先なんてもちろんまだ決まってない。
そんな私にとってこの提案は、あまりにも、あまりにも魅力的だった。
今の一言で、完全に私の心は魅惑の1000万円に傾いてしまった。
ほんとうに、人生はなにが起こるかわからない。
(夢かと思いたい……でも、妙にリアル)
御門本部長は真剣そのものだった。それだけは表情からはっきり伝わっていた。
私の人生、どうなるの?
このまま、契約書にサインなんてして、いいの……?
とりあえず契約についてすり合わせてみよう。あと、こちらの意向もしっかり伝えておかなきゃ。
「本部長だから言いますが、私の元夫は、人間としてサイテーな男でした。しかし口がうまい男なので、結婚前に騙されたのです。見る目がなかった自分にも落ち度はありますが、借金作って愛人孕ませた挙句、私から逃げましたから。とんでもない男でしょう?」
「それがどうした」
私は言葉を失った。まさかそんな言葉が返って来るとは思わなかったから…。
「君の元夫について、俺がどうこう言えるものではない」
「そうですね。失礼しました」
本部長はこういう男だった。結婚を持ち出されて忘れていた。完全合理主義、他人には一切興味ナシ。
「ええと…そんなヤツのせいで、必死に蓄えていた貯金も底を尽きましたから、実のところお金には困っています。なので、本部長の提案はものすごくありがたいのですが…」
「なら、受けてくれるのか?」
どうせ受けるならと思い、交渉カードを切ることにした。「し、新しい住居も必要です。小さな単身用のところで結構ですので、そちらも用意いただければ、すぐにでも合意できるかと…」
「いいだろう。住居は提供する。生活費も俺が出す。1年くらい契約で結婚してくれたらそれでいい」
なんて人なのっ。私が提示した条件をいとも簡単に承諾した!
「ほかに必要なものは?」
「えっと…」もうお願いする事項が見つからなかった。
「なら、問題ないとみなしても――」
「ちょ、ちょっと待ってください! あのっ……その…どうして、私を選ばれたのですか? いろいろ条件をクリアしていただいてこんなこと言うのもアレですけど、ほかに適任の方はいらっしゃらなかったのでしょうか?」
最大限の疑問をぶつけてみた。
そう。だって私は、相手に落ち度があったとはいえ、一度結婚に失敗した身。
なんで私を? って思っちゃう。「君は俺の部下で、信頼しているからだ。それに、離婚したばかりで俺に感情的な恋愛を求めてこないだろう。情に流されるタイプではない。そしてなにより口が堅い。この契約のことを誰彼構わず吹聴するような女性ではないとわかっているから」
……評価されてるのかな。
とにかく彼は常に合理主義。感情よりも効率。面倒を嫌い理論で動く男。
1000万円は魅力的。でも、肝心なことを忘れていた。自由が手に入ったばかりなのに、また誰かに縛られるなんて。
「私は結婚を失敗したばかりの女です。そんな私が、誰かの“パートナー”になるなんておかしいですよ」
私の言葉に本部長がほんの一瞬目を細めた。「だったらこれは再出発のつもりでどうだ?」
「え?」
「これは結婚ではなく、人生のリハビリだ。形はどうであれ“誰かと暮らす”ことをもう一度経験する。案外うまくいくかもしれないだろう?」
「でも…」
「では、言わせてもらう。今日のミスは大変な損失につながるところだったんだ。貯金も無い状態でクビになりたくないだろう? 契約を飲んでくれたら、今日のミスはここだけの話にしておこうじゃないか」
本部長が少し口角を上げて言った。含み笑いをしているように見える。
この男! しれっと私を脅してきた!
弱みを見せてしまったのが運の尽き!
「中原の命運は俺が握っているということを忘れるなよ」
崖っぷちOL30歳。離婚された当日上司に結婚を迫られ、脅されています。
「……契約条件、提示してください。考えます」唇をかみしめながら伝えた。
なんでこんなことに…。
私が断らなかったことに満足したのか、彼は小さく頷いた。
「明日、正式な書面を用意する。条件に不満があれば修正も可」
言いたいことだけ言った御門蓮司はその場を静かに去っていった。
残された私は暫くその場を動けなかった。
条件に不満があれば修正も可、じゃないよ――っ!!
白のタキシードが驚くほど似合っていた。 背筋を伸ばし、凛とした男らしさを纏いながらも、その瞳だけは私へ向けるときだけ見せる甘さを帯びている。 歩み寄るほど、蓮司の視線が私をすべて受け止めるように優しく細まり—— ついには、息を呑むような小さな声音で囁いた。「……ひかり。綺麗すぎる」「蓮司こそ……格好良すぎ」 伸ばされた手に、自分の手をそっと重ねる。 触れた瞬間、ひんやりとした指輪が指先を撫で、半年間の出来事が胸の奥で光に変わった。「式を始めます」 司祭の声がしんと響く。 参列席には、私たちの人生で出会ったすべての人の笑顔。 だけど
半年後。 柔らかな日差しが降り注ぐチャペルのステンドグラスが、虹色の光を床に散らしていた。 季節が変わる間に、私と蓮司の関係も、ぐっと深く濃く変わった。 新居での生活にもすっかり慣れ、毎日の朝食や夕食を一緒に食べるのはもう当たり前になった。 そして今日—— 偽装婚として始まった関係は、本物として永遠の形になる。 「準備はよろしいですか?」 ドレススタッフの声に振り向く。 鏡の中には、少し照れたように微笑む花嫁が映っていた。純白のドレスは身体にぴたりと馴染み、胸元のレースが静かに揺れている。 その姿を見たお母さまが、目元を指先でそっと押さえた。私のお母さんとも打ち明け、2人は仲良くなってしまった。そして師匠も駆けつけてくれた。私には3人もお母さんがいる。最高に幸せだ。「……ひかりさん。とても綺麗よ」 「ほんと……」 「素敵な人と再婚できてよかったわねぇ……」 母は口々に歓びの言葉を口にする。ありがたい。心配してくれていたもんね。「ひかりさん。あなたのおかげで蓮司は変わったわ。それに御門家も。古風で凝り固ま
「おろすぞ。ゆっくりな」 蓮司がキッチンの椅子に私をそっと降ろす。 まるで壊れ物でも扱うみたいに優しい動作で、胸がじんと温かくなる。「蓮司……そんなに気を遣わなくていいのに」「無理だ。今のお前をひとりで歩かせる方が不安だ」「……昨夜の原因の半分は蓮司だからね?」「半分じゃない。九割九分九厘俺だよ」「自覚あるんだ……!」「あるとも。だから今日は俺が全部やる」 そう宣言すると、蓮司はトースターの前に立った。 寝癖が少し残っている後ろ姿なのに、妙に格好良くてずるい。「はい、本日の朝食は——俺特製の押すだけトーストです」「名前ひどすぎない? せめて『御門家のモーニング』とか言ってよ」
感情溢れた蓮司に抱きしめられ、ぐっと奥まで入ってこられた。 肉を打つ音が寝室に卑猥に響き、甘い声が抑えられない。 互いの名を呼び合い、愛を交わし、蕩けていく。「蓮司」 「ひかり」 大好きな旦那様の剛直に貫かれる。 肌を重ねることが、こんなに愛しくて切なくて幸せだと感じたことがなった。 夫の名を呼び、ぎゅっと手を握りしめてふたりで果てる。 なんども絡み合い、ふたりで乱れ、蕩ける夜を過ごした。 翌朝。朝の光がやわらかく差し込み、枕元の空気を金色に照らしていた。 昨夜の余韻がまだ身体の奥に静かに残っていて、動くたびにじんわりと温かさが広がる。 隣を見ると蓮司が薄く笑っていた。 寝起きの癖に、妙に余裕のある顔をしている。「おはよう、ひかり」「ん……おはよう。なんでそんな見てるの?」「いや。可愛いなと思って」「朝からハードル高い言葉やめてよ」 冷徹男だとばかり思っていたのに、激甘男の間違いだった。「事実だから仕方ない」 さらっと言って、私の頬に指を沿わせる。 その優しい触れ方だけで、胸がぎ
「ンっ……」 甘い声が鼻から抜けていく。蓮司に優しく体に触れられ、息が乱れていく。 期待を込めて顔を上げると、彼の瞳には、私がしっかりと映っている。 私も同じ。蓮司が映っている。「これから先、どこへ帰ってもいいけど──」 頬に指を沿わせ、蓮司は優しく囁く。「最後に帰る場所は、必ず俺の隣にしてくれ」 胸がぎゅっと締めつけられ、涙が零れそうになる。「うん。約束する」「じゃあ──今日も新婚の夜を楽しもうか」「お手柔らかにお願いします」 腕を絡めてキスを交わす。唾液が絡まり、2人の舌がもつれる。 大きな腕が包み込み、鼓動が耳元で一定のリズムを刻む。 優しくて、温かくて──もう、離れたくなかった。「ひかり」
実家でのドタバタ楽しい食事タイムを終え、お母さまとシリウスに惜しまれつつもマンションに戻った。泊っていけばいいのに、としきりにい言われたけれども、蓮司がひとこと。『俺たち新婚なんだから邪魔しないでくれよ』なんて言っちゃったものだから!! お母さまに生温かい目で見られた挙句、うふふ、と微笑まれてしまったのよぉぉっ!! なんてことッ!! 恥ずかしすぎるっ!!!! 鍵を開けると、静かな部屋が迎えてくれる。 見慣れたはずのリビング。もうここが私の家なんだ。信じられない気持ちがまだあるけれど、でも、ここにいてもいいんだ……。胸が熱くなった。「さ。邪魔者はいなくなったし、2人でイチャイチャしますか」蓮司が私を抱きしめる。 「さっきのアレ、お母さまに変な目で見られたじゃない。蓮司があんなこと言うから……」「好きな女性と暮らしていたのに、手を出さなかった俺を褒めて欲しいくらいだ」 「もう……」 キスが降ってくる。「待って、お風呂……入らなきゃ……」「どうせ汚れる」 言い方っ!!