翌朝。 私は出社した瞬間からもう緊張していた。(昨日の……あれは、夢じゃないよね?) あの御門本部長が、淡々と“結婚しよう”なんて言ったこと――報酬1,000万円を餌に私に取引持ち掛けてきたこと。そして私はその申し出に、まさかの「検討します」と答えてしまったこと。 “検討”って言葉って、便利だけど地獄だ。 脳内では1000万と自由が常にせめぎあい、結果ほとんど眠れなかった。夢であってほしいが、1,000万円は欲しい。 そんな中、パソコンを立ち上げてすぐにメールが届いた。 差出人は――御門蓮司。 件名:【私案】契約の件について 添付:契約条件書案.pdf(……本当に送ってきた!) 冷静すぎて、逆に怖い。しかもPDFファイルって…業務事項か! 開いてみると、添付ファイルにはこうあった。【結婚契約書案(ドラフト)】 本契約は中原ひかり(以下、甲)と御門蓮司(以下、乙)による、形式的な婚姻関係の締結を目的とする。 契約期間は原則1年間。延長・短縮については協議のうえ決定。 甲は乙と婚姻届を提出し、乙の指定する住居にて生活を共にするものとする。 生活費および住居費は乙が全額負担。甲の給与は必要に応じて別途支給。 甲乙間における身体的接触、恋愛関係の強制は一切なし。 ただし、外部に対しては“良好な夫婦”としてふるまうこと。 契約満了時(期間は契約日時より1年後)、甲には報酬として金1,000万円を支払う。 ……なにこれ、しかもドラフトって、どこまで仕事にしているのよ。仮にも結婚するんだよ? しかも「身体的接触なし」って、そこはハッキリさせるんだ……。(っていうか、この内容……悪くない。むしろ、ありがたいくらいじゃ……) 思わず読み返すたび、昨日の現実がじわじわと迫ってくる。 気がつくと、お昼前に「会議室Cへ」と社内チャットが届いた。 発信者:御門蓮司。(……行きますけどね!?) 会議室のドアを開けると、本部長は書類を整理していた。「来たか」「あの……契約書、拝見しました」「修正したい箇所は?」「……えっと、身体的接触の項目に“なし”って、ありましたよね」「不服か?」「不服というより、なんかこう……はっきり書かれると逆に恥ずかしいというか……」「問題はない。君が“不安”に思うようなことは一切しない」(うん
Terakhir Diperbarui : 2025-08-06 Baca selengkapnya