Mag-log in「中原。これから契約とはいえ、夫婦となるんだ。名前で呼んでもいいか? もちろん会社では今まで通り接する。結婚したということもない。お前も黙っておいてくれ」
「承知しています」
「敬語もいらん。ここでは台頭だ。上司でも部下でもなんでもない。ただの契約上、一年間だけの夫婦を演じる男と女だ」
言い方…。
「まあ、そうですね。では、私は本部長のことはなんとお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「呼びやすい言い方で構わない」
そう言われてもいきなりは難しい…。私は戸惑ってしまった。今までずっと“本部長”と呼んできた相手を、急に名前で呼ぶなんて。そもそも下の名前を知らないし…。ええと、契約書類で見た気もするけど、名前なんだったかな?
「あの…本部長、じゃなくて…御門さんの下のお名前をお伺いしてもいいですか?」
意を決して聞いてみる。呼び方を変えるにも、まず名前が分からないと話にならない。
「蓮司(れんじ)だ」
簡潔に彼は自分の名前を告げた。蓮司…さ
白のタキシードが驚くほど似合っていた。 背筋を伸ばし、凛とした男らしさを纏いながらも、その瞳だけは私へ向けるときだけ見せる甘さを帯びている。 歩み寄るほど、蓮司の視線が私をすべて受け止めるように優しく細まり—— ついには、息を呑むような小さな声音で囁いた。「……ひかり。綺麗すぎる」「蓮司こそ……格好良すぎ」 伸ばされた手に、自分の手をそっと重ねる。 触れた瞬間、ひんやりとした指輪が指先を撫で、半年間の出来事が胸の奥で光に変わった。「式を始めます」 司祭の声がしんと響く。 参列席には、私たちの人生で出会ったすべての人の笑顔。 だけど不思議と、視界の中心にあるのは蓮司ただ一人。 誓いの言葉。 交換する指輪。 重なった瞳。 その瞬間——今までのことが脳内を駆け巡る。 球児に捨てられ、辛いと思っていた当日、蓮司が偽装結婚話を持ち掛けてくれた。 最初はわけがわからない提案で、断れなくて、後に引けなくて。 それなのに一緒に暮らすと快適で。 偽装という言葉で誤魔化していた想い。 気づかれないように隠した不安。 好きだと気が付いたのに別れを示唆され、明け暮れた特訓の日々。 でも、それはすべて、今日、この日のために経験しなきゃいけなかったことなんだ。「あなたは病める時も健やかな時も 中原ひかりを愛することを誓いますか?」「誓います」 蓮司が堂々と答える。「あなたは病める時も健やかな時も 御門蓮司を愛することを誓いますか?」「誓います」 しっかりを前を向いて伝えた。「それでは……新郎新婦、誓いのキスを」 蓮司が一歩近づいて、私の頬にそっと手を添える。 朝食のキスではない。 寝起きのからかい半分のキスでもない。 これは、夫婦としての誓いのキス。 唇が触れた瞬間、涙が溢れそうになる。 会場いっぱいに拍手が広がり、花びらがふわりと舞った。 離れようとしたら、蓮司が引き寄せて小さく囁く。「ひかり。俺の妻になってくれてありがとう」「こちらこそ。あなたに出会えてよかった」 胸の奥があたたかく満ちていく。 指輪もぬくもりも、すべてが“本物”になった証。「俺はこれから、何度でも言うよ。愛してるって」「じゃあ私も、何度でも返す」 ふたりだけに聞こえるくらいの声で、そっと。
半年後。 柔らかな日差しが降り注ぐチャペルのステンドグラスが、虹色の光を床に散らしていた。 季節が変わる間に、私と蓮司の関係も、ぐっと深く濃く変わった。 新居での生活にもすっかり慣れ、毎日の朝食や夕食を一緒に食べるのはもう当たり前になった。 そして今日—— 偽装婚として始まった関係は、本物として永遠の形になる。 「準備はよろしいですか?」 ドレススタッフの声に振り向く。 鏡の中には、少し照れたように微笑む花嫁が映っていた。純白のドレスは身体にぴたりと馴染み、胸元のレースが静かに揺れている。 その姿を見たお母さまが、目元を指先でそっと押さえた。私のお母さんとも打ち明け、2人は仲良くなってしまった。そして師匠も駆けつけてくれた。私には3人もお母さんがいる。最高に幸せだ。「……ひかりさん。とても綺麗よ」 「ほんと……」 「素敵な人と再婚できてよかったわねぇ……」 母は口々に歓びの言葉を口にする。ありがたい。心配してくれていたもんね。「ひかりさん。あなたのおかげで蓮司は変わったわ。それに御門家も。古風で凝り固ま
「おろすぞ。ゆっくりな」 蓮司がキッチンの椅子に私をそっと降ろす。 まるで壊れ物でも扱うみたいに優しい動作で、胸がじんと温かくなる。「蓮司……そんなに気を遣わなくていいのに」「無理だ。今のお前をひとりで歩かせる方が不安だ」「……昨夜の原因の半分は蓮司だからね?」「半分じゃない。九割九分九厘俺だよ」「自覚あるんだ……!」「あるとも。だから今日は俺が全部やる」 そう宣言すると、蓮司はトースターの前に立った。 寝癖が少し残っている後ろ姿なのに、妙に格好良くてずるい。「はい、本日の朝食は——俺特製の押すだけトーストです」「名前ひどすぎない? せめて『御門家のモーニング』とか言ってよ」
感情溢れた蓮司に抱きしめられ、ぐっと奥まで入ってこられた。 肉を打つ音が寝室に卑猥に響き、甘い声が抑えられない。 互いの名を呼び合い、愛を交わし、蕩けていく。「蓮司」 「ひかり」 大好きな旦那様の剛直に貫かれる。 肌を重ねることが、こんなに愛しくて切なくて幸せだと感じたことがなった。 夫の名を呼び、ぎゅっと手を握りしめてふたりで果てる。 なんども絡み合い、ふたりで乱れ、蕩ける夜を過ごした。 翌朝。朝の光がやわらかく差し込み、枕元の空気を金色に照らしていた。 昨夜の余韻がまだ身体の奥に静かに残っていて、動くたびにじんわりと温かさが広がる。 隣を見ると蓮司が薄く笑っていた。 寝起きの癖に、妙に余裕のある顔をしている。「おはよう、ひかり」「ん……おはよう。なんでそんな見てるの?」「いや。可愛いなと思って」「朝からハードル高い言葉やめてよ」 冷徹男だとばかり思っていたのに、激甘男の間違いだった。「事実だから仕方ない」 さらっと言って、私の頬に指を沿わせる。 その優しい触れ方だけで、胸がぎ
「ンっ……」 甘い声が鼻から抜けていく。蓮司に優しく体に触れられ、息が乱れていく。 期待を込めて顔を上げると、彼の瞳には、私がしっかりと映っている。 私も同じ。蓮司が映っている。「これから先、どこへ帰ってもいいけど──」 頬に指を沿わせ、蓮司は優しく囁く。「最後に帰る場所は、必ず俺の隣にしてくれ」 胸がぎゅっと締めつけられ、涙が零れそうになる。「うん。約束する」「じゃあ──今日も新婚の夜を楽しもうか」「お手柔らかにお願いします」 腕を絡めてキスを交わす。唾液が絡まり、2人の舌がもつれる。 大きな腕が包み込み、鼓動が耳元で一定のリズムを刻む。 優しくて、温かくて──もう、離れたくなかった。「ひかり」
実家でのドタバタ楽しい食事タイムを終え、お母さまとシリウスに惜しまれつつもマンションに戻った。泊っていけばいいのに、としきりにい言われたけれども、蓮司がひとこと。『俺たち新婚なんだから邪魔しないでくれよ』なんて言っちゃったものだから!! お母さまに生温かい目で見られた挙句、うふふ、と微笑まれてしまったのよぉぉっ!! なんてことッ!! 恥ずかしすぎるっ!!!! 鍵を開けると、静かな部屋が迎えてくれる。 見慣れたはずのリビング。もうここが私の家なんだ。信じられない気持ちがまだあるけれど、でも、ここにいてもいいんだ……。胸が熱くなった。「さ。邪魔者はいなくなったし、2人でイチャイチャしますか」蓮司が私を抱きしめる。 「さっきのアレ、お母さまに変な目で見られたじゃない。蓮司があんなこと言うから……」「好きな女性と暮らしていたのに、手を出さなかった俺を褒めて欲しいくらいだ」 「もう……」 キスが降ってくる。「待って、お風呂……入らなきゃ……」「どうせ汚れる」 言い方っ!!







