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第2話

Penulis: あほう
詩葉は診察室を出て薬を受け取ると、足早に病院を後にした。

さっき診察室で、男性医師にズボンを脱ぐよう命じられ、診察された光景を思い出すたびに、顔が熱くなってしまう。

もしこのことが誰かに知られたら、恥ずかしくて生きていけない。

今後は絶対に女医を探そう。もう二度と、知らない男にあんなところを見られたくない。

その時、一台の黒いベントレーがゆっくりと彼女の前に停まった。

詩葉は、自分が呼んだ配車サービスの車だと思い、窓越しに中を覗く。

そこにいたのは、彫刻のように端正な顔立ちの男だった。

まるで神が丹念に造り上げたかのような、完璧な美貌。

一瞬だけ目が合った途端、詩葉は既視感を覚える。

――この目……さっき診察していた、あの男性医師?

詩葉は思わず息を呑んだ。途端に顔が真っ赤になる。

どうしてこんな偶然に、また病院の前で会ってしまうの?

蒼空が低い声で言った。「乗ってください。送ります」

詩葉は慌てて首を振る。「だ、大丈夫です。ありがとうございます」

彼とは親しくもない。どうして彼の車に乗らなければならないのだろう。

それに、さっき診察台であんな場所を診られたばかりなのに。

むしろ今いちばん顔を合わせたくない相手だった。

この場から逃げたい。できれば今後会っても、知らないふりをしたかった。

蒼空の目がわずかに暗く沈み、眉が上がる。有無を言わせない圧があった。

女に断られること自体、珍しかった。

「本当に大丈夫です。もうすぐ夫が迎えに来るので」詩葉は男の不機嫌さに気づきながらも、気まずそうにもう一度手を振った。

わざと「夫」という言葉を強く口にした。

「……」蒼空の口元に、冷たい笑みがかすかに浮かぶ。

彼はそのまま運転手に命じ、車を走らせた。

ベントレーが遠ざかっていくのを見送り、詩葉はようやく少し安堵する。

だが、先ほど診察室で蒼空に言われた言葉が脳裏をよぎった。

この病気は、長い間夫婦関係がうまくいっていないことが原因。薬はあくまで補助的なもの。

根本的に治したいなら、男性と関係を持つしかない。

今夜ちょうど、夫の哲也が出張から帰ってくる。

――今夜しかない。

詩葉は急いでショッピングモールに向かい、哲也好みのセクシーな服と、いい感じの香水を買った。

帰宅後は、大切に取っておいた赤ワインまで取り出す。

哲也とお酒を飲んで、自然な流れで抱かれる。それが今夜の目的だった。

哲也は重度の潔癖症で、夫婦生活を極端に嫌っていた。

結婚してから一年、この手の誘いはすべて拒絶されてきた。そのせいで詩葉は、肉体的にも精神的にも追い詰められていた。

今は病気にまでなってしまった以上、もう手段を選んではいられない。

すべて準備し終えると、逆に緊張が押し寄せてくる。

結婚してから初めて、こんなふうに意図的に夫を誘惑しようとしているのだ。心臓が飛び出しそうなくらい速く打つ。

詩葉は落ち着こうとして、自分に赤ワインを一杯注いだ。

……

夜八時、哲也が出張から戻ってきた。

「パチッ――」

真っ暗だった寝室に、一瞬で灯りがともる。

ベッドでうたた寝していた詩葉は、びくっと肩を震わせた。

目を開けると、潤んだ瞳でドアの前に立つ背の高い影を見上げた。

「おかえり」彼女はすぐに布団をめくってベッドから降り、嬉しそうに駆け寄った。

哲也は目を細める。

今夜の彼女は、深いワインレッドのVネックキャミソールドレスを身につけていた。

雪のように白い肌が際立ち、豊かな曲線が惜しげもなく露わになっている。そこに、無垢さと色気が同居するあの顔。

放っておいても男を惹きつけてしまうような女だった。

彼女が近づくたび、甘く誘うような香水の香りが漂い、男の理性をじわりと揺さぶる。

間違いなく、目の前の女は色っぽく、男を惑わせる魅力があった。

清楚なのに、妙に目を引く。

だが、決して自分の好みではなかった。

哲也の漆黒の瞳から欲情の色がゆっくり消え、代わりに冷淡さと距離感だけが残る。

彼は無意識に彼女を押しのけた。「疲れてるんだ」

その言葉だけで、詩葉の胸がすっと冷えた。

彼女は唇を噛み、視線を伏せた。

どうしても男と関係を持たなければならない。

それに今夜のために、あれだけ準備したのだ。

ここで終わるわけにはいかない。

「マッサージでもしましょうか?」彼女は自ら彼の腕を掴み、優しく提案する。

「必要ない」哲也はまるで汚いものでも触れられたかのように、嫌悪感を露わにして彼女の手を振り払った。

そのまま大股で浴室へ向かう。

すれ違った瞬間、詩葉ははっきりと女物の香水の匂いを感じた。

上品で、高貴な香り。普段自分が使っているものとはまったく違う。

詩葉は固まった。胸がざわつく。

――まさか、外に女がいるの?

だがすぐに首を振る。

哲也は仕事上、接待も多い。たまたま女性の香水が移っただけかもしれない。

それに彼は潔癖症だ。自分にすら触れたがらない男が、他の女に触れるとは思えない。

詩葉はそう自分に言い聞かせた。

彼女は哲也のために赤ワインを注ぎ、当初の計画通りまず酔わせようと決めた。

三十分後、哲也が浴室から出てきた。

白いバスローブを羽織っているだけで、帯は結ばれていない。胸元から鍛えられた筋肉がちらりと覗く。

健康的な肌が薄暗い照明に浮かび上がり、妙に艶っぽい。

長く真っ直ぐな脚。

そこに禁欲的な美貌が加わり、詩葉は思わず見惚れてしまった。

喉が渇く。

久しぶりに会ったからか。それとも普段冷たい態度ばかり見せられていたせいか。こんな姿を見ただけで、胸がざわついてしまう。

詩葉は思わず唾を飲み込む。

視線は無意識に、彼の引き締まった腰のさらに下へ――

もうだめだ。

もう、自分でも抑えられない。

「何を見てるんだ?」突然、哲也の冷たく鋭い声が響いた。

詩葉はびくっと震え、慌てて我に返る。「な、何でもないわ!」

飢えていると思われたら、きっと軽蔑される。

彼女は慌てて笑みを作り、ワイングラスを手に彼に近づいた。「一杯どう?」

哲也には寝る前に酒を飲む習慣がある。

けれど今夜は、彼女がそう言ったあとも、彼はしばらく黙ったまま返事をしなかった。

詩葉は急に不安になる。

――まさか計画がバレた?

「あなた……」甘えるような声でさらに近づく。

酒を勧めようとしたその時、哲也がふいに振り返り、意味深に彼女を見た。「こんな時間なのに、まだ寝ないのか?」

詩葉の顔がぱっと明るくなる。

彼も今夜は、自分と「寝る」気なのだと思った。

彼女は急いでワイングラスをサイドテーブルに置いた。「じゃ、じゃあ先に行ってるね……!」

どこか浮き足立ったままベッドに向かい、細い指先が彼に触れようとした瞬間――

哲也は突然、彼女の手首を掴んだ。

眉を上げ、皮肉っぽく笑う。「まさか今夜、僕が君を抱くとでも思ったのか?」
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