Mag-log inside悠里
鉄崎さんと付き合い始めて1週間が経った。
最初の数日は顔を合わせれば挨拶をする、顔見知りから知り合いに変わった程度の変化しかなく、本当にあの告白の返事は現実だったのか、夢ではなかったのか、と疑う日々を送っていた。
だが、それでも一応鉄崎さんと付き合っていることにさせてもらった。 鉄崎さんと付き合うことになってからも、たくさんの人に告白されそうになったからだ。誰かが俺に告白しようと俺を呼び出す度に、それとなく彼女の有無を聞かれる度に、俺は鉄崎さんに申し訳ないと思いながらも、「鉄崎さんと付き合っている」と言ってきた。またバスケ部員のみんなも俺の練習時間を確保する為に、本人たちも半信半疑でだが、一生懸命、俺と鉄崎さんが付き合っている事実を学校中に広めてくれた。
しかし、もしもあの時の返事が実は夢だったのなら。
鉄崎さんを知らぬ間に巻き込んでしまっている現状に、やはりとても申し訳ない気持ちなってしまう。だから俺はよくあの場にいたバスケ部のみんなに確認していた。
あの告白の返事は現実だったのか、と。 するとみんなはいつも「信じられないが現実だった」と、強く頷いてくれた。あの時、俺はあの場にいようとしたバスケ部のみんなに鉄崎さんに失礼だからどこかに行くようにと強く言った。
だが、彼らは「俺たちのエースの大事な局面だから」と真剣な顔で食い下がり、あの場から離れようとしなかった。 なので、仕方なく最終的に俺が折れた。 どうせフラれて恥ずかしい思いをするのは俺なのだから鉄崎さんには悪いがもう仕方ない。そんなあの場にいた彼らもあれは現実だと言う。
あの場にいた誰もが鉄崎さんの返事に耳を疑ったらしいが、それでもあの場にいた誰もが鉄崎さんが俺の告白を受け入れた声をきちんと聞いていた。俺とあの場にいた部員。
全員が鉄崎さんの返事を確かに聞いているのだ。 関係の変化がないとはいえ、あの日を境に、俺と鉄崎さんは一応付き合うことになったようだった。 だから俺たちは練習時間確保の為にも、鉄崎さんという存在を利用させてもらうことにした。ーーー俺と鉄崎さんは付き合っている。
けれど関係はあまり変わらない。付き合っているのなら何かしなければならないはずだ。
だが、あの鉄崎さんに何をすればいいのかわからない。 そんなことを思い、ずっと動けないでいると、何と鉄崎さんの方からアプローチをしてくれた。俺はそんな鉄崎さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
一緒に帰ろうと誘うのも、連絡先を聞くのも、本当は俺がしなければならなかったことだ。 それを受け身になって、どうすればいいのかわからず待つなんて。 夢なのか現実なのかよくわからないからとずっとずっと悶々として。 何て情けないのだろうか。そう思ったあの日から、俺はちゃんと彼氏らしく振る舞えるように、積極的になろうと決めた。
そして鉄崎さんと付き合い始めてから1週間。
朝は互いに部活や委員会活動などで、時間が合わないので、一緒に登校することはないが、下校はなるべく一緒にするようにし、昼休みも予定の合った日だけ一緒に過ごすようにした。 もちろん連絡もこまめに取るようにしている。その結果、この1週間で俺たちは何となく付き合っているような雰囲気を作り出すことに成功していた。
もうただの知り合いの雰囲気ではないはずだ。それからここからは意外な誤算だったのだが、俺は鉄崎さんと共に過ごす時間が案外好きだった。
最初は付き合ったのだからと義務感で動いていた俺だったが、鉄崎さんとの会話は面白く、今では友達と話すような楽しさがあった。 あんなにも怖い印象の強い鉄崎さんだが、一緒にいると案外よく喋り、よく笑うのだ。今日もそんな鉄崎さんと何となく連絡を取り合いながらも、俺は自分の部屋で明日の準備をしていた。
部活用のカバンに練習着を詰め、他に必要なものも入れていく。そんなことをしながらも時折スマホを見ると、鉄崎さんからこんなメッセージが入っていた。
『運命diaryにハマってる。もう3回は読み直したよ』
「…え」
鉄崎さんからの意外な返信に思わず驚きで声を漏らす。
〝運命diary〟とは現在連載中の人気バトル漫画だ。
運命diaryと呼ばれるノートを使ってバトルをするというものなのだが、様々なところに伏線が張り巡らされており、なかなか面白い。 俺も全巻集めるほど好きな作品なのだが、まさか鉄崎さんも好きだったとは。そこまで考えて、俺はふとあることを思い出した。
確か今週末から〝運命diary〟の実写映画が公開されるはずだ、と。『今週末、運命diaryの映画あるよね。一緒に行く?』
何気なく思ったことをそのまま打ち、鉄崎さんへ送る。
俺も好きだし、一緒に行ったら楽しそうだな。…が、少しして俺は自分がしてしまったことに気づいてしまった。
今、自分がしたことはデートに誘う行為だ、と。や、やってしまった…。
俺と鉄崎さんは付き合い始めたとはいえ、まだ友達のような関係だ。
それなのに突然デートなんかに誘われたら困るはずだ。迷惑に違いない。鉄崎さんを困らせまいと慌ててメッセージを消そうとしたが、すぐに既読がついてしまった。
既読がついてしまった今、メッセージはもう消せない。『難しかったら断っても…』
と、慌てて打っていると、俺が追加のメッセージを送るよりも早く鉄崎さんから返信がきた。
『行きたい!』
鉄崎さんからの返信に肩の力が抜ける。
それと同時にとても嬉しい気持ちでいっぱいになった。鉄崎さんも俺と一緒に行きたいと思ってくれていたのかな。
週末は鉄崎さんとデートか…。そこまで考えて俺はあることに気がついた。
俺はずっとバスケ一筋で、バスケしかして来なかった。なので、当然彼女なんていたことがない。
もちろんデートなんて未経験だ。どんなことをすればいいのか、どんな服を着ればいいのか、何もわからない。
せっかく鉄崎さんが俺とデートしてくれるというのに、このままでは、何か「姉ちゃん!」
まずい、と思った俺は、慌てて自分の部屋から飛び出し、5歳年上の大学生の姉の姿を探し始めた。
「…かっこいい」お昼休み。私は今日も教室の窓際の席で雪乃と弁当を食べながら、外でバスケをしている私の推しこと、沢村くんのことを見つめ、うっとりとしていた。今日のような沢村くんと一緒に昼食を食べられない時は、決まって沢村くんはいつもあそこでバスケをしている。それが私と付き合う前からの沢村くんのお昼の過ごし方で、私と付き合うようになってから、沢村くんは週に2回ほど私の為に時間を作り、私と一緒に昼食を食べてくれていた。全て彼氏としての責任感から。絶対私と昼食を食べるよりも、気心の知れた友人たちとバスケをしている方が楽しく、有意義なはずだ。それなのに、ただ付き合っているというだけで、私の為にわざわざ時間を作ってくれるとは、なんて私の推しは優しく、完璧で究極の彼氏なのだろうか。「…はぁ、かっこいい」ボールを持つ沢村くんの周りに集まってきた相手チームの男子生徒たちを難なくかわし、遠くから綺麗なフォームでシュートを決めた沢村くんに、思わず感嘆の息が漏れる。沢村くんを見ながら食べる白米が一番美味しい。「…ふ、相変わらず好きだねぇ、王子のこと」「へ?まあ、うん。好きだね」私の視線の先に気づいた雪乃が揶揄うように笑ってきたので、私は当然だと頷いた。雪乃の言っていることに間違いは一つもない。私は沢村くんのことが好きだ。「アツアツね。最近、様になってきたよ、2人とも。ちゃんと付き合っているように見える」「本当?私ちゃんと彼女できてる?」「できてるできてる」私の言葉に気だるげに頷く雪乃に私はホッとする。以前、付き合いたての頃、私たちは本当に付き合っているのか、と疑われるような関係だった。だが、この1ヶ月で、登下校や昼食を共にし、デートまでした私たちは、もう誰もが認めるカップルとして定着しつつある。この学校で沢村くんに興味を持つ者で、私が彼女だという事実を知らない者はおそらくいないだろう。私はしっかりと彼女という名の壁になるという役割を果たせているようだ。「けど、まだ危ういよね、アンタ」「え?私?」窓際からさっさと弁当へと視線を戻し、卵焼きを口に入れた雪乃に私は首を傾げる。危うい?私が?「千晴くん。あれ、どうすんの?」「へ?千晴?」考えてもよくわからないので、じっと雪乃の次の言葉を待っていると、雪乃から何故か千晴の名前が出てきて、私
「おはよ、先輩」私の声を流れるように遮った千晴は、何故かそのまま私を後ろから抱きしめてきた。生徒たちの視線が一斉にこちらに注がれている気がする。…何だ、これ。「…おはよう、千晴。離してくれない?」「俺のお願い聞いてくれたら離す」「…お願いぃ?」気怠げな千晴の声に眉間にシワを寄せる。一体お願いとは何なのか。「うん。俺、今回のテストヤバそうでさ。だから先輩に勉強教えてもらいたいんだよね。ダメ?」「なんだ、そんなこと?」未だに私を自身の腕の中へと閉じ込め続ける千晴に、私は思わず苦笑する。お願いだと言うからもっと難しいことでも言われるのかと、身構えてしまったではないか。「勉強くらいいくらでも教えるよ。はい、わかったら離す」千晴のお願いをさっさと聞き入れ、私は自分を離すようにと、後ろに振り向き、グッと千晴の胸を押す。だが、何故か千晴は私を離そうとせず、「もうちょっとだけ」と、私の頭に自分の頭をぐりぐりと押し付けてきた。千晴のせいで私の綺麗な一つ結びがボサボサだ。「やめろバカ!髪がボサボサになっちゃうじゃん!」「そしたら俺がまた結んであげる」「そういう問題じゃない!」先ほどよりももっと力を入れて千晴の胸を押すのだが、びくともせず、私は千晴にされるがままだ。力では敵わないと思い、私は一度千晴から逃れることを諦め、どうすれば自由になれるのか考えることにした。やはりここはみぞおちに一発、私の肘を喰らわせるしか…。「嫌がってるだろ、離れろよ」今まさに千晴のみぞおちを狙いかけたところで、沢村くんがどこか面白くなさそうに私たちを見て、千晴の肩を掴む。「は?何、お前?」「鉄崎さんの彼氏だけど」「…」「…」それから2人は、私を挟んで、千晴がにこやかに、沢村くんが怖い顔で、静かに互いを睨んだ。間に挟まれた私はとんでもない空気に1人晒される。…居心地が悪すぎる。「…千晴、私を離しなさい。あと沢村くんを睨むな」もう我慢の限界だと、できるだけ怖い顔で千晴の頬を掴んで横に引っ張る。私の推しを睨むだなんて言語道断。許されるものではない。私に頬を引っ張られた千晴は何故か嬉しそうに「はぁい」と間の抜けた返事をし、やっと私から離れた。千晴から解放された私はそのまま自由になった体で、千晴の方へと振り向き、千晴を見据える。「…それでいつ勉強教
side柚子沢村くんの名誉ある彼女(上辺だけ)になり、もう1ヶ月。10月に入り、暑さも和らいできた今日この頃。私は今日も朝の委員会活動を終え、教室へと移動していた。そしてその道中、下駄箱でなんと朝練後の私の推しと遭遇した。「おはよう、沢村くん」「あ、鉄崎さん。おはよう」私に挨拶を返して、爽やかに笑う沢村くんは今日も相変わらず眩しすぎる。練習後で暑いだろうに、着崩すことなく、きちんと着ている制服。汗を拭くために首にかけられているタオル。少しだけ乱れているが様になっている髪。練習後にしか得られないかっこよさがそこには確かにあった。推しが尊すぎる。かっこよすぎる。今日も沢村くんのかっこよさに密かに目を奪われていると、ふと、沢村くんの肩にかかった大きな黒リュックでゆらゆらと揺れているあるものに目がいった。沢村くんのリュックでゆらゆらと揺れているのは、メルヘンランドのマスコットキャラクターである、メルヘン猫のぬいぐるみキーホルダーだ。あのふわふわで可愛らしすぎるキーホルダーは以前、私が沢村くんにお土産としてあげたものだった。ーーーーそれは遡ること、約2週間前のこと。*****放課後、たまたま時間が合い、沢村くんと一緒に帰っていた私は満を持して、鞄から可愛くラッピングされた袋を取り出した。「沢村くん!これ!」「…?」私にずいっと袋を押し付けられて、沢村くんが不思議そうにそれを受け取る。「どうしたの、これ?」それから伺うように私を見た。「…あ、あのね。この前、メルヘンランドに行ったから、そのお土産で…」迷惑ではないだろうか、と不安に思いながらも、おずおずと沢村くんを見る。すると、そんな私の不安なんてよそに、沢村くんはまじまじと私が渡した袋を見つめて、とても嬉しそうに目を細めた。「俺のためにわざわざお土産を買ってきてくれたの?嬉しい…。ありがとう、鉄崎さん」「…へ、あ、あ、うん」まさかこんなにも喜んでもらえるとは思わず、私まで嬉しくなり、声がうわずる。推しが私なんかのお土産でこんなにも喜んでくれるとは。買った甲斐があったし、今後どこへ行くにも必ず沢村くんへのお土産を買おうと思えてしまう。推しに貢ごう。絶対…!舞い上がっている私の横で、沢村くんは早速袋を開け、中身を確認すると、「メルヘン猫だ。かわいい」と顔を綻ばせてい
side千晴太陽が沈み、パーク内が電飾の海に包まれる。その中で俺の隣を歩く小さな存在に、俺はじんわりと心が暖かくなった。意志の強そうな瞳に、小さな口。綺麗だが、可愛い要素もある、美人な柚子先輩の横顔は、いつまでも見ていられる。先輩を見て俺は改めて、好きだな、と思った。複数の事業を展開する、日本有数のグループ、華守グループの跡取り息子である俺は、生まれた時から特別で、何をしても許される存在だった。周りの大人たちによって勝手に決められたつまらない道に、俺に頭が上がらない全ての人間たち。俺を取り巻く全てがつまらない。そう思って生きてきたが、先輩と出会って全てが変わった。先輩は時に強く、時に優しい人だ。それは誰に対しても同じで、俺に対してもそうだった。そんな先輩が俺は好きだ。今日の先輩も本当によかった。強いところも優しいところも見れたし、何よりも私服の先輩はいつも見る制服の先輩とはまた雰囲気が違い、カジュアルでとても可愛いかった。だが、そんな大好きな先輩に〝彼氏〟ができてしまった。その枠はいずれ俺のものになるはずだったのに。最初、先輩に彼氏ができたと知った時、はらわたが煮えくり返った。心が、体が、不快と怒りに支配され、どうしようもない不快感が俺を襲った。しかし、今はもう落ち着いている。何故なら先輩が彼氏に選んだ相手が、ただの先輩の推しだったからだ。先輩は別にアイツのことを異性として好きではない。ただの推しとして推しているだけだ。先輩からアイツの話を聞くたびに、そこに俺と同じ熱を一切感じなかったので、すぐにそうだとわかった。まあ、だからといって、先輩の口から他の男の話なんて聞きたくないが。だから一刻も早く俺を好きになってもらわなければならない。そうでなければ、この不快な状況がずっと続いてしまう。「うわぁ…」俺の隣にいた先輩がある場所を見て感嘆の声をあげる。先輩の視線の先には、このパークのシンボル、大きな西洋式のお城があった。先ほど先輩と共に軽食を食べた場所だ。ライトアップされているそれは昼間のものとはまた違うものに見えた。一般的な感想を述べるなら、あれは綺麗なのだろう。俺にはただ光っているな、という感想しかないが。けれど、そんなただ光っているだけの建物でも、先輩越しに見れば、何故かとても輝いて見えた。先輩と
「…」疲れた。お化け屋敷からやっと出た私は、もう満身創痍で、千晴に寄りかかっていた。あんなもの入らなければよかった。何も楽しくなかった。「先輩、大丈夫?」ぐったりとしている私の様子を伺う千晴は、私とは違い余裕があり、どこか満足げだ。お化け屋敷が苦手だと言っていたわりには、ずっと平気そうで、私を抱き寄せたまま、腰を抜かす私を何度も何度も庇ってくれた。どうなっているんだ。本当は苦手ではないのか…?千晴に疑念の視線を向け始めた、その時。 「きゃー!」突然、女性の甲高い叫び声がこの場に響いた。 ただ事ではなさそうなその声に、周囲の人々はざわつき始める。声の方へと視線を向ければ、そこには倒れている女性と、女性ものの鞄を抱えて走る、全身黒ジャージの30代くらいの男がこちらに向かって走ってくる姿があった。状況から見ておそらくアイツが女性から鞄を奪ったのだろう。…全く。せっかくのメルヘンランドなのに。全員の楽しい気持ちに水を差す行為、許せない。「…はぁ」ひったくり犯を捕まえる為に、大きなため息を吐き、千晴から離れる。それからひったくり犯を睨みつけて、腕をあげようとした。「先輩、下がって」しかし、そんな私の前に千晴が現れ、左手で私を制止した。あのひったくり犯から私を守ろうとしての行為なのだろう。だが、私にはそんなもの必要ない。お化け屋敷ではぜひ私を守ってもらいたいが。「千晴、大丈夫」私を庇うように立った千晴を避け、こちらに迫ってくるひったくり犯をもう一度睨む。ひったくり犯は目の前に現れた私を見て、「退けや!」とすごい形相で叫んできたが、私は構わず右腕を肩の高さまで上げ、少し曲げて構えた。先ほどまで満身創痍だったはずなのに、体の奥底から力がみなぎる。私の中の正義感がそうさせる。「止まりなさい!」そして私の叫びと共に振り抜かれた右腕は、見事にひったくり犯の首へと当たり、ひったくり犯はその勢いのまま、地面へと仰向きに叩きつけられた。ラリアット成功だ。「…ゔっ」私からラリアットを喰らったひったくり犯は、うめき声を漏らしながらも、表情を歪めていた。とても苦しそうだが、犯罪に手を染めたやつに慈悲など必要ないだろう。「返しなさい、それ」「…あ、は、はい」私に凄まれたひったくり犯は、半泣きで何度も頷き、鞄をこちらに差し出
買い物を済ませ、バケハを被り、サングラスを付けたら、いよいよメルヘンランド攻略スタートだ。VIPチケットの特典で、どのアトラクションも待ち時間ゼロで遊べるというものがあったので、私たちは早速一番人気の待ち時間200分超えの屋内アトラクションへ行った。たくさんの人が200分待ちの列へと並ぶ中、すいすいと別ルートに案内され、進む私たち。そして本当に待ち時間ほぼゼロで屋内アトラクションに乗れた。とんでもなく楽しい。最高。それから私たちはさらにメルヘンランドを攻めた。ジェットコースターに4Dライド。シアタータイプのものや屋内アトラクション、屋外アトラクションなど。とにかくたくさんのアトラクションを待ち時間ゼロでどんどん体験していった。いろいろなアトラクションを体験した私たちの目に次に留まったのは、廃れたお屋敷が舞台のお化け屋敷だった。楽しげな雰囲気の広がるここメルヘンランド内では、どこか異質で、静かな雰囲気の古めかしいお屋敷。遠い昔に流行り病が原因で亡くなってしまった人たちの幽霊が今もあのお屋敷で彷徨い続け、生者に自分たちと同じような苦しみを望み、死へと誘う、というコンセプトのものらしい。「迫力あるね」 特に何とも思っていなさそうな千晴の横で、私は「…そ、そうだね」と表情をこわばらせた。実は私はお化け屋敷が苦手だった。暗がりから急に誰かから脅かされるという行為がどうしても無理なのだ。先ほどから目につくアトラクション全てを制覇してきた私たちだったが、ここにきて、私から先ほどまでの勢いがなくなった。「先輩、次ここ?」「へ?あ、うん」あー!やってしまった!つい先ほどまでの流れのまま、千晴の問いかけに頷いてしまったことに、心の中で頭を抱える。だが、頷いてしまった以上、「やっぱりやめよう」とは言えない。後輩である千晴に先輩である私の情けない姿は見せたくない。「い、行こ行こ。行ってやろう…っ!」なので、私は自身を鼓舞して、お化け屋敷の方へと足を踏み出した。そんな私の横で千晴が「先輩怖くないの?ここ」と首を傾げる。「…まあ」「ふーん」本当は力強く「全然怖くない」と答えたいところだったが、歯切れの悪い返事となってしまった私を、千晴は何故か黙ってじっと見つめてきた。な、何?やっぱり、嘘だってわかる?「俺、実はこういうのちょっと苦手







