「名付けて!鉄子に玉砕大作戦だ!」 放課後、廊下を移動していると、とある教室からそんなふざけた作戦の名前が聞こえてきた。全く誰がこんなバカな話をしているのか。呆れながらも少し気になったのでその場で足を止め、声の聞こえた教室の方へと聞き耳を立ててみる。ちなみに鉄子とは私、鉄崎柚子のことである。「お前はモテすぎなんだよ!悠里!だから鉄子に告白して玉砕するんだ!」 強くそう言い切った男子生徒の言葉に、私の心臓がドクンッと跳ねる。男子生徒から出てきた名前、悠里とは、私の推し、沢村悠里くんだ。どうやらあの教室内には同学年のスポーツ科の沢村悠里くんもいるらしい。 沢村くんはまだ3年生が引退していないにも関わらず、2年生にして我が校のバスケ部のエースであり、そのかっこよすぎる爽やかな見た目から〝バスケ部の王子〟と言われ、ファンを多数獲得している存在だ。ちなみに私もそのファンの1人で、決して表には出さないが、こっそり沢村くんを推していた。「イケメンで?優しくて?高身長で?バスケ部のエースで?そりゃ、女子が放っておかないよな?」からかうような声に、周囲は笑う。「毎日毎日悠里に告白告白。うちの大事なエースなのに告白の対応でほぼ部活に出られない、練習に参加できないってどういうことなんだよ」そこに今度は呆れとも困惑ともつかない声が混じる。「毎日最低、1〜2人、多い時は5人以上に告白されて、それに毎度丁寧に受け答えしてりゃあ練習時間もなくなるわな」「うちは強豪校の一つだぞ?今年は全国でのベスト8だって狙っているのにこれじゃあな…」 続けて、1人は不満げに、1人は不安げに声を上げた。先ほどまで明るかった空気が、一気に重くなる。教室内から聞こえる複数の男子生徒たちの困っているような声や、不満そうな声。 彼らの話の内容を聞き、私はすぐに教室内にいるのは、男子バスケ部の生徒たちと沢村くんだと察せた。沢村くんが毎日告白されていることは、この学校では周知の事実であり、放課後の恒例行事にさえもなっていたが、まさかここまで深刻な状況になっていたとは。そしてその告白に全て丁寧に対応していたなんて、やはり沢村くんは推せる。「だからそこで鉄子に玉砕大作戦なんだよ!」 暗い空気が流れる中、私が足を止めるきっかけとなった作戦を、声高々に言う者が現れた。
Last Updated : 2025-11-28 Read more