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71.好きなところ。

last update publish date: 2026-02-22 12:44:28

それから私たち4人でのクリスマスパーティーは始まった。

リビングの大きなテーブルには、悠里くんと私が作った料理が並べられており、それをみんなで食べながら、話に花を咲かす。

時間を忘れて楽しいひと時を過ごしていると、机を挟んで向こう側に座る里緒ちゃんが、ふと、明るい顔で口を開いた。

「ねぇ、柚子ちゃん。柚子ちゃんはお兄ちゃんのどんなところが好き?」

「え?」

里緒ちゃんの可愛らしい質問に私は目を丸くする。

「んー。いっぱいあるなぁ…」

そして箸を置き、視線を左上へと向けた。

正直、好きなところをあげるとなると、一日中でもあげ続けられる。

しかし、それは流石によくないだろう。

重要な部分だけでも伝えなければ。

そう思い、じっくり思案していると、隣にいた悠里くんは「無理に答えなくてもいいよ」と、気遣うようにこちらを見てきた。

里緒ちゃんの隣にいる里奈さんは「いい質問だねぇ」と楽しそうだ。

全員の視線を浴びながら、私はゆっくりと話始めた。

「えっと…、まずは誰にでも優しいところが好きで、周りをよく見てて、気配りができるところも好き。あとはバスケをしているところもかっこいいし、笑顔も眩しいし、
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    バスケ部の部活終了後。私たちはいつものように並んで街を歩いていた。最近少しずつ長くなり始めた日差しに、街はまだオレンジに染められたままだ。そんな街には私たちと同じように帰路に着く人で溢れていた。付き合い始めた頃は一緒に帰ることさえも、頭になかった。少し経って一緒に帰るようになってからも、今のように頻繁には一緒に帰っていなかった。けれど、少しずつ私たちの距離は縮まり、付き合うということを根本から理解し、本当の意味で結ばれた後、私たちは気がつけば、ほぼ毎日一緒に帰っていた。私たちは確かに両思いだった。私が何も知らなかったせいで。沈み続ける胸の内に引っ張られるように、自然と視線が下へと落ちる。するとそんな私に悠里くんはふと、明るい声で言った。「柚子、ちょっと寄り道しない?」悠里くんのお誘いに、視線をあげ、悠里くんを見る。明るい夕日に照らされて輝く悠里くんは、何よりも眩しくて、恋ではなかったと自覚しても、尊い。私は考えるよりも先に「うん」と頷いていた。「じゃあ、行こっか」私の返事に悠里くんが嬉しそうにその瞳を細める。それから悠里くんは私の手を優しく取ると、リードするように歩き始めた。悠里くんの私よりも太く、しっかりとした指が、私の指に絡む。ただ握られたのではなく、優しく絡まれた指に、私の心臓はまた跳ねた。…ずるい。こんなの反則だ。頬に熱を感じながら私はただただ悠里くんと共に歩いた。*****悠里くんに連れられてやって来たのは、街から少し歩いたところにある川辺だった。夕方の川辺には、帰路についている様子のサラリーマンや、犬の散歩をしているおじいさん、遊んでいる子どもなど、さまざまな人がいる。それぞれが思い思いに過ごす川辺で、私たちは適当な場所に座った。そしてそんな私の膝には、悠里くんの長袖の練習着がかけられていた。ここに座る時に悠里くんが「これ、使って?」とスマートに鞄から出して、かけてくれたのだ。最初はあまりにも恐れ多すぎて「大丈夫です!」と何度も何度も断りを入れたのだが、悠里くんに押されて、結局私は練習着を借りていた。「部活の最初に着てたやつだから汗は大丈夫…だと思う」未だにおろおろしている私に、悠里くんが少しだけ眉を下げて笑う。その笑顔があまりにも眩しくて、私はつい反射的に瞳を細めた。んん、好き。思って

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    side千晴俺の大好きな先輩。俺だけの先輩。小さくて、でも中身はずっと大きくて広い先輩が、俺と一緒に歩いてくれている。俺は本当は今、傘を持っていた。電車ではなく、普通に車で帰る予定だった。だが、少しでも先輩と一緒にいたくて、俺は先輩に嘘をついた。それでも先輩は、俺の嘘に気づいていない。疑おうとさえしていない。まっすぐ俺を見て、例え困ったように一度、俺から目を逸らしても、やっぱり助けてくれる。誰にでも平等で、優しくて、正義の人。そんな先輩が愛おしくて、愛おしくて、仕方ない。しかし、そんな先輩を愛おしく思うたびに、仄暗い感情が俺を支配した。誰にでも優しくしないで。俺だけを見て。俺だけに手を差し伸べて。ーーーその愛らしい瞳に俺以外、映さないで。そういった欲望が当たり前のように俺の中に渦巻く。だから俺はその欲望を叶えるために、先輩の外堀を埋めることにした。そして少しずつでも異性として意識してもらえるように、俺が先輩に恋焦がれる男であることを行動で示した。その結果、外堀は埋められ始め、先輩は確かに俺に惹かれ始めた。先輩をずっと見てきたのだ。先輩の変化なら、ほんの少しのものでもわかる。少しずつ先輩の心が俺に揺れ、その眼差しに、俺と同じ熱が帯び始めていることに、俺は気づいていた。何もかも完璧で順調。あともう少しで先輩は俺だけの先輩になる。ーーーそう思っていたのに。先輩の形だけの彼氏、沢村悠里が本気で先輩のことを好きになってしまったのだ。さらにアイツは俺と同じように、先輩の外堀を埋め始めた。憧れと恋の区別がつかない先輩。そんな先輩を囲って、真実を見せないようにして。アイツのせいで、先輩が俺に堕ちてくれない。チラリと横を歩く先輩を見れば、胸元には不愉快な名前がその存在を主張していた。〝沢村〟と書かれた体操服をわざわざ先輩に着せているのも、自分の彼女だと主張したいがためだろう。ただそれだけのために、アイツはああしているのだ。沢村悠里には、もう以前のような余裕がないように見えた。きっと先輩を本気で好きになり、気づいてしまったのだろう。先輩が自分に向ける視線の正体に。先輩は今も〝憧れの推し〟の彼女だ。沢村悠里との関係に、一切疑問を持つことなく、幸せそうだ。だが、俺はもう限界だった。彼氏になる、ということ以外

  • 推しに告白(嘘)されまして。   91.傘と謎の動悸。

    その日の帰りももちろん雨が降っていた。その為、傘のない私は学校の置き傘を借り、1人で下駄箱にいた。私の隣に悠里くんの姿はない。いつもよりも部活が長くなるとのことで、今日は悠里くんと一緒に帰れないのだ。たくさんの生徒たちが行き交う下駄箱で、私は1人、どんよりとした空を見上げた。暗い空からザァザァと勢いよく雨の降る様が目に映る。やはり今日は天気予報通り、もう雨は止まなさそうだ。空から傘へと視線を落とし、そっと傘を押し広げる。小さく鳴った開閉音を耳に、そのまま私は下駄箱からゆっくりと外へと踏み出した。ーーーその時だった。私の視界の端に、ふわふわの金髪が入ってきた。千晴だ。一瞬、視界の端をかすめただけだったが、あの金髪が千晴だと私はすぐにわかった。この学校であんな派手な頭で堂々としているやつなど、千晴しかいないからだ。全く何度注意すれば、あの頭をやめられるのか。私は大きくため息を吐いて、広げていた傘を一旦畳んだ。それからあの金髪頭を探し、見つけると、ずんずんと力強い足取りで、そこへと向かった。「千晴」「あ、先輩じゃーん」私に低い声で呼び止められ、千晴が嬉しそうにこちらを見る。ふわふわの金髪に、ゆるゆるのネクタイ。首元のボタンは止められていないし、学校指定のセーターも着ていない。さらに耳にピアスまで光っており、全身あまりにも自由すぎる千晴に、私は眉間にシワを寄せた。だが、そのシワはすぐに緩められた。こんなにも雨が降っているのに、千晴の手には傘がなかったからだ。「千晴、傘忘れたの?」私の突然の問いかけに、千晴は一瞬だけキョトンとした。そして少し考える素振りを見せ、「うん」と、無表情に頷いた。どうやら千晴も私と同じらしい。お気の毒に。「傘なら職員室に行けばあるよ」おそらく傘がなく、困っているであろう千晴に、同情しつつも、そう伝える。しかし千晴はゆるゆると首を横に振った。「なかった。傘」「え、でも…」そんなはずは…と、一瞬思うが、もしかすると本当になかったのかもしれない、と言葉を一旦止める。私のように天気予報を見ずに登校し、制服ではなく、体操服で、1日を過ごす生徒を、私は今日、何人も見てきた。さらに私が傘を借りに行った時も、何人かの生徒が傘を借りていた。タイミングが悪ければ、千晴の主張通り、傘はもうなかった

  • 推しに告白(嘘)されまして。   82.雅な遊戯。

    千夏ちゃんの手によって手際よく混ぜられた生地。それをお情けで私が冷蔵庫へと入れたところで、生チョコタルト作りは、一旦中断となった。ここから約1時間ほど冷蔵庫で生地を寝かせるらしい。この約1時間、私たちは特に何もすることがない。そこで何か暇を潰そうと千夏ちゃんから提案されたのが、軽く楽器を触る、だった。何と雅な暇つぶしなのだろうか。そう思いながらも、豪邸内を移動し、やってきたのは、シックでおしゃれな雰囲気の楽器専用の部屋だった。部屋の中心にはL字の大きなソファがあり、その前にはテーブルがある。壁際には、学校で見るものよりも大きなピアノがあり、大きな棚には飾るように、ヴァイオリン

  • 推しに告白(嘘)されまして。   81.破壊神、柚子。

    マイペースな兄妹に頭を悩まされながらも、バレンタインチョコ作りは始まった。今日は生チョコタルトを作るらしい。「これなら難しくないし、お義姉様も作れるはずよ。まずは材料を計りましょう」千夏ちゃんは笑顔でそれだけ言うと、手際よく真ん中にあるテーブルに必要な材料を置き始めた。バターに、砂糖に、多分小麦粉に、謎の粉に、小瓶に入った正体不明の液体。電子はかりに、ボウル、ゴムベラ、泡立て器。千夏ちゃんがどんどん出す必要なものを私は慌てて、受け取り、一緒に準備を進めていく。いろいろなものが並べられたところで、千夏ちゃんはやっとその動きを止めた。「必要なものはざっとこんなものかしら。次は計量

  • 推しに告白(嘘)されまして。   80.勘違いは続く。

    2月13日、日曜日、バレンタイン前日。私は千夏ちゃんとバレンタインチョコを作るために、午後から千晴の家へとお邪魔していた。毎度の如く、あのご立派すぎるリムジンの送迎付きで。しかも我が家のインターホンを押したのは何故か千晴で、お母さんが「千晴くんいらっしゃあい」と、もう千晴のことを覚えてしまっていた。…しかも私の彼氏として。もちろん、訂正したかったし、しようともしたのだが、あれよあれよという間にリムジンに乗せられた為、また訂正することができなかった。もうずっとお母さんの中では千晴が私の彼氏である。とんでもない勘違いだ。冬休みにも訪れた、人が住んでいる家とは思えない豪邸の廊下を歩

  • 推しに告白(嘘)されまして。   79.大変なことになりました。

    大変なことになった。放課後。私は上の空で風紀委員室の椅子に腰掛け、1人ぼーっと、書類を眺めていた。目に入る文字の羅列を一応読んでみるが、全く頭に入ってこない。右から左へとただただ情報が流れていく。大事な書類を見ているというのに、今の私の行動はその意味を成していなかった。「…はぁ」手に持っていた書類を一度机に置き、大きなため息を吐く。私が今見ていた書類は校則違反者のリストだった。うちの高校は、基本、風紀委員からの注意はただの注意なのだが、先生からの注意はイエローカードのようなもので、あまりにもそれが溜まるとレッドカードとなる。そうなれば、成績や内申にも響き、指導、処罰の対象

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