Mag-log in鷹野高校風紀委員長・鉄崎柚子は、密かに推していた“バスケ部の王子”沢村悠里から、ある日、告白(嘘)される。またとない機会に、柚子は嘘とわかっていながらも、その告白を受け入れた。嘘から始まった2人の関係。その中で次第に本気で柚子に惹かれていく悠里。一方、柚子の後輩で一匹狼の華守千晴も、誰にも見せない想いを柚子に向けていた。 真面目鈍感ヒロイン×爽やか王子(のちに愛重め)×主人公にだけ懐く後輩(愛重め) 三人の“好き”が交差する、重たい愛が暴れ出す、ドタバタ三角関係ラブコメ開幕!
view more「名付けて!鉄子に玉砕大作戦だ!」
放課後、廊下を移動していると、とある教室からそんなふざけた作戦の名前が聞こえてきた。
全く誰がこんなバカな話をしているのか。
呆れながらも少し気になったのでその場で足を止め、声の聞こえた教室の方へと聞き耳を立ててみる。
ちなみに鉄子とは私、「お前はモテすぎなんだよ!悠里!だから鉄子に告白して玉砕するんだ!」
強くそう言い切った男子生徒の言葉に、私の心臓がドクンッと跳ねる。
男子生徒から出てきた名前、悠里とは、私の推し、沢村悠里くんだ。 どうやらあの教室内には同学年のスポーツ科の沢村悠里くんもいるらしい。沢村くんはまだ3年生が引退していないにも関わらず、2年生にして我が校のバスケ部のエースであり、そのかっこよすぎる爽やかな見た目から〝バスケ部の王子〟と言われ、ファンを多数獲得している存在だ。
ちなみに私もそのファンの1人で、決して表には出さないが、こっそり沢村くんを推していた。「イケメンで?優しくて?高身長で?バスケ部のエースで?そりゃ、女子が放っておかないよな?」
からかうような声に、周囲は笑う。
「毎日毎日悠里に告白告白。うちの大事なエースなのに告白の対応でほぼ部活に出られない、練習に参加できないってどういうことなんだよ」
そこに今度は呆れとも困惑ともつかない声が混じる。
「毎日最低、1〜2人、多い時は5人以上に告白されて、それに毎度丁寧に受け答えしてりゃあ練習時間もなくなるわな」
「うちは強豪校の一つだぞ?今年は全国でのベスト8だって狙っているのにこれじゃあな…」
続けて、1人は不満げに、1人は不安げに声を上げた。
先ほどまで明るかった空気が、一気に重くなる。教室内から聞こえる複数の男子生徒たちの困っているような声や、不満そうな声。 彼らの話の内容を聞き、私はすぐに教室内にいるのは、男子バスケ部の生徒たちと沢村くんだと察せた。沢村くんが毎日告白されていることは、この学校では周知の事実であり、放課後の恒例行事にさえもなっていたが、まさかここまで深刻な状況になっていたとは。 そしてその告白に全て丁寧に対応していたなんて、やはり沢村くんは推せる。「だからそこで鉄子に玉砕大作戦なんだよ!」
暗い空気が流れる中、私が足を止めるきっかけとなった作戦を、声高々に言う者が現れた。
「あの堅物風紀委員長に悠里が告白して、玉砕するんだ!その後は失恋で傷心中のフリをして、しばらく恋愛はいい、告白されると玉砕のトラウマが蘇る…とか言って悠里への告白の嵐を止めるんだよ!」
声だけしか聞こえないが、私への玉砕大作戦を推す男子生徒は、周りにそれはそれはもう熱く作戦内容を説明している。
そしてそんな彼の作戦に、バスケ部員たちは、ざわざわし始めた。「いいんじゃねぇか?」
「それが一番丸く収まる気がするな」
「鉄子なら万が一がなさそうだしね」
何と失礼なやつらだ。
好き勝手に喋るバスケ部員たちに、呆れて小さなため息を吐く。
推しに告白されるんだぞ?万が一しかないでしょうが。ごめんけど告白受け入れて彼女になっちゃうからね?
要は沢村くんがもうこれ以上告白されなければいいんでしょ?だったら別に沢村くんを振らなくても、彼女として私が壁になればいいんじゃない?
「それはダメだろ」
賛成多数の中、たった1人だけが反対の声を上げる。
この透き通ったイケボは私の推し、沢村くんだ。「好きでもないのに鉄崎さんに告白するなんて不誠実すぎるだろ。鉄崎さんで遊ぶようなものだ」
ただ1人、私のことを思って声音を低くした沢村くんに、胸がぎゅうっと締め付けられる。
私の推しはなんて優しいのだろうか。「だったら今いるお前のことを好きな女子を全員何とかして普通に練習に出てこい」
「鉄子なら大丈夫だって。アイツは風紀を守ることに命かけてるから。恋なんてしている場合じゃないから。お前なんてバッサリ振られるよ」
「ちゃんと現実見ましょうね?」
唯一反対意見を言った沢村くんに、その場にいたバスケ部員たちが、様々な声をかける。
どれも沢村くんを責めるような内容のものだ。その場いる複数人に責められて、沢村くんは黙ってしまった。
残念だ。推しの声が全く聞こえない。「…わ、わかったよ」
耳を澄ませて沢村くんのお言葉を待っていると、やっと不服そうな沢村くんの声が聞こえてきた。
「すごく申し訳ないけど、俺には告白してくる子たちをどうすることもできないし…。こっそり力を借りることにするよ。振られて好奇の目に晒されるのは俺だし…」
な、な、これは夢なのではないか?
渋々だが、今沢村くんは私に告白する感じのお言葉を発さなかったか?こ、告白してくれるの?推しが?私に?
とんでもないことを聞き届けた私は、彼らバスケ部の生徒たちに見つかり、この作戦がぱあにならないように、足音を立てることなく、静かにその場を後にした。
そして、推しに告白されることが確定してしまった私は、表向きは平静を保っていたが、心の中ではお祭り騒ぎだった。告白されるのならぜひお付き合いまでしてしまいたい。
だってこんな幸運、一生私には巡ってこないかもしれないから。バスケ部の部活終了後。私たちはいつものように並んで街を歩いていた。最近少しずつ長くなり始めた日差しに、街はまだオレンジに染められたままだ。そんな街には私たちと同じように帰路に着く人で溢れていた。付き合い始めた頃は一緒に帰ることさえも、頭になかった。少し経って一緒に帰るようになってからも、今のように頻繁には一緒に帰っていなかった。けれど、少しずつ私たちの距離は縮まり、付き合うということを根本から理解し、本当の意味で結ばれた後、私たちは気がつけば、ほぼ毎日一緒に帰っていた。私たちは確かに両思いだった。私が何も知らなかったせいで。沈み続ける胸の内に引っ張られるように、自然と視線が下へと落ちる。するとそんな私に悠里くんはふと、明るい声で言った。「柚子、ちょっと寄り道しない?」悠里くんのお誘いに、視線をあげ、悠里くんを見る。明るい夕日に照らされて輝く悠里くんは、何よりも眩しくて、恋ではなかったと自覚しても、尊い。私は考えるよりも先に「うん」と頷いていた。「じゃあ、行こっか」私の返事に悠里くんが嬉しそうにその瞳を細める。それから悠里くんは私の手を優しく取ると、リードするように歩き始めた。悠里くんの私よりも太く、しっかりとした指が、私の指に絡む。ただ握られたのではなく、優しく絡まれた指に、私の心臓はまた跳ねた。…ずるい。こんなの反則だ。頬に熱を感じながら私はただただ悠里くんと共に歩いた。*****悠里くんに連れられてやって来たのは、街から少し歩いたところにある川辺だった。夕方の川辺には、帰路についている様子のサラリーマンや、犬の散歩をしているおじいさん、遊んでいる子どもなど、さまざまな人がいる。それぞれが思い思いに過ごす川辺で、私たちは適当な場所に座った。そしてそんな私の膝には、悠里くんの長袖の練習着がかけられていた。ここに座る時に悠里くんが「これ、使って?」とスマートに鞄から出して、かけてくれたのだ。最初はあまりにも恐れ多すぎて「大丈夫です!」と何度も何度も断りを入れたのだが、悠里くんに押されて、結局私は練習着を借りていた。「部活の最初に着てたやつだから汗は大丈夫…だと思う」未だにおろおろしている私に、悠里くんが少しだけ眉を下げて笑う。その笑顔があまりにも眩しくて、私はつい反射的に瞳を細めた。んん、好き。思って
その日の放課後。私は1人、風紀委員室で頭を抱えていた。もう風紀委員の仕事は終わっている。ここにいる必要はない。だが、私はここから動けずにいた。「…はぁ」本日何度目かわからないため息が私から漏れる。ふと窓に視線を向ければ、オレンジ色に染まった空が見え、時間の流れを感じた。別れを…本当の気持ちを…私は結局、悠里くんに言えなかった。朝、体操服を返した時も、昼、一緒に昼食を食べた時も、校内でたまたま会った時も。いつでも言える機会はあったというのに。言おうとするたびに喉の奥が熱くなって、言葉が出なかった。今この瞬間も、悠里くんは私と真剣に向き合い、まっすぐとした好意を抱き、私の彼氏でいてくれている。そんな悠里くんを黙ったまま、裏切り続ける私は、なんて最低なのだろう。ーーー言う、言う、絶対に言う。心の中で何度も何度も言い聞かせるようにそう呟き、荷物をまとめると、私はやっと風紀委員室から出た。*****いつもより早く委員会活動が終わったため、帰るまでまだまだ時間がある。普段なら図書室で本を読んだり、教室で勉強したりするところなのだが、今日の私は気がつけば体育館の扉の前に立っていた。まるで何かに引き寄せられたかのように。開け放たれた扉の向こうでは、もちろんバスケ部が部活をしている。部員たちの声やボールの弾む音、床を蹴る音を耳に、私は体育館内をただぼんやりと見つめていた。「て、鉄子だ…」そんな突然現れた私の存在に気がついたバスケ部の1人が、持っていたボールを落とし、驚愕の表情を浮かべる。そしてこの声を皮切りに、体育館内にざわめきが広がった。「彼氏を見に…?」「いや、偵察じゃね?」不思議そうに首を傾げる者もいれば、緊張の色を浮かべている者もいる。私を見つけた部員たちは、様々なリアクションをしていたが、その瞳には私への〝恐怖〟が確かにあった。正直、慣れたものなので、特になんとも思わないが。「柚子!」しかしその中で、悠里くんだけは違った。私を見つけて、こちらに微笑む悠里くんの瞳には、嬉しさと好意があった。他の人とは違う視線。私を鬼の風紀委員長ではなく、普通の女の子として見て、愛してくれている視線。あの視線に射抜かれるたびに胸が苦しくなる。私は悠里くんと同じではなかったのだ、と。悠里くんは周りの部員に軽く声をかけると
side柚子びしょ濡れのまま、なりふり構わず玄関からお風呂場へと向かう。私が通ったあとがどんなに濡れても、私は気にならなかった。いや、今の私には気になるほどの余裕がなかった。洗面所に着き、乱暴に体操服を脱いでいく。それからそれらを洗濯機に入れると、私は浴室へと駆け込んだ。雨で冷たくなった体に、ザァーっと温かいシャワーが当たる。少しずつ戻ってきた体温と共に、真っ白だった思考も徐々に色を取り戻していった。…私、ここまでどうやって帰ってきたっけ。取り戻した思考で私はそんなことを思った。おそらく電車で普通に帰ってきたことはわかる。だが、千晴に路地裏へと連れられてからの記憶が曖昧なのだ。好きだと言われて、キスされた。しかし、そこから先の記憶がもうない。ただただ無心でここまで帰ってきた。「…はぁ」やっと私から吐かれた息に、呼吸の仕方を思い出す。ここまで私は自然な息の仕方も忘れていた。ふわふわの金髪から雨が滴り落ちて、私の顔に当たる。綺麗な千晴の瞳には、怒りや悲しみ、恋焦がれるようなものがあり、複雑でぐちゃぐちゃだった。おかしそうに笑い、けれど、切実そうに私を射抜いた千晴の眼差しが忘れられない。あの瞬間、私は初めて千晴の想いの本質を知ってしまった。千晴は私にちゃんと恋をしていたのだ。そしてそれに気づいたと同時に、私はわかってしまった。千晴への胸の高鳴り、謎の動悸、全てが病気ではなく、恋だったのだということを。千晴に好きだと言われて、一瞬、嬉しさで心臓が跳ねた。キスをされて、愛おしくて愛おしくて、苦しくなった。私は恋を知っているつもりだった。相手を想うだけで幸せで、相手の存在が自分の世界を照らしてくれる。そこにいてくれるだけでよかった。悠里くんへの感情こそがまさにそれだった。だが、この光溢れる優しい感情は、恋ではなかったのだ。愛おしくて、苦しくて、胸が張り裂けそう。けれども、愛さずにはいられない。これがきっと、恋…いや、愛だ。私は千晴を愛していたらしい。そして悠里くんを愛していなかった。愛でも、恋でもない。憧れという感情を私は悠里くんに向けていた。その事実に気づいた時、私の胸にズキッと鈍い痛みが走った。出し続けていたシャワーを止め、視線を伏せる。私から滴る雫は先ほどとは違い、温かい。私、最低だ。愛
side千晴俺の大好きな先輩。俺だけの先輩。小さくて、でも中身はずっと大きくて広い先輩が、俺と一緒に歩いてくれている。俺は本当は今、傘を持っていた。電車ではなく、普通に車で帰る予定だった。だが、少しでも先輩と一緒にいたくて、俺は先輩に嘘をついた。それでも先輩は、俺の嘘に気づいていない。疑おうとさえしていない。まっすぐ俺を見て、例え困ったように一度、俺から目を逸らしても、やっぱり助けてくれる。誰にでも平等で、優しくて、正義の人。そんな先輩が愛おしくて、愛おしくて、仕方ない。しかし、そんな先輩を愛おしく思うたびに、仄暗い感情が俺を支配した。誰にでも優しくしないで。俺だけを見て。俺だけに手を差し伸べて。ーーーその愛らしい瞳に俺以外、映さないで。そういった欲望が当たり前のように俺の中に渦巻く。だから俺はその欲望を叶えるために、先輩の外堀を埋めることにした。そして少しずつでも異性として意識してもらえるように、俺が先輩に恋焦がれる男であることを行動で示した。その結果、外堀は埋められ始め、先輩は確かに俺に惹かれ始めた。先輩をずっと見てきたのだ。先輩の変化なら、ほんの少しのものでもわかる。少しずつ先輩の心が俺に揺れ、その眼差しに、俺と同じ熱が帯び始めていることに、俺は気づいていた。何もかも完璧で順調。あともう少しで先輩は俺だけの先輩になる。ーーーそう思っていたのに。先輩の形だけの彼氏、沢村悠里が本気で先輩のことを好きになってしまったのだ。さらにアイツは俺と同じように、先輩の外堀を埋め始めた。憧れと恋の区別がつかない先輩。そんな先輩を囲って、真実を見せないようにして。アイツのせいで、先輩が俺に堕ちてくれない。チラリと横を歩く先輩を見れば、胸元には不愉快な名前がその存在を主張していた。〝沢村〟と書かれた体操服をわざわざ先輩に着せているのも、自分の彼女だと主張したいがためだろう。ただそれだけのために、アイツはああしているのだ。沢村悠里には、もう以前のような余裕がないように見えた。きっと先輩を本気で好きになり、気づいてしまったのだろう。先輩が自分に向ける視線の正体に。先輩は今も〝憧れの推し〟の彼女だ。沢村悠里との関係に、一切疑問を持つことなく、幸せそうだ。だが、俺はもう限界だった。彼氏になる、ということ以外
その日の帰りももちろん雨が降っていた。その為、傘のない私は学校の置き傘を借り、1人で下駄箱にいた。私の隣に悠里くんの姿はない。いつもよりも部活が長くなるとのことで、今日は悠里くんと一緒に帰れないのだ。たくさんの生徒たちが行き交う下駄箱で、私は1人、どんよりとした空を見上げた。暗い空からザァザァと勢いよく雨の降る様が目に映る。やはり今日は天気予報通り、もう雨は止まなさそうだ。空から傘へと視線を落とし、そっと傘を押し広げる。小さく鳴った開閉音を耳に、そのまま私は下駄箱からゆっくりと外へと踏み出した。ーーーその時だった。私の視界の端に、ふわふわの金髪が入ってきた。千晴だ。一瞬
その日の夜。私はベッドの上でゴロゴロしながら、口角を上げていた。理由はもちろん、悠里くんにチョコを直接渡せたからだ。千晴と別れた後、悠里くんと駅までの道中、私たちはずっと揉めていた。私がチョコを悠里くんの家に渡しに行くか、悠里くんが私の家にチョコを受け取りに行くか、で。本当にお互いに一歩も引かず、話は平行線だったのだが、最後の最後に、悠里くんが折れてくれた。そして私は念願叶い、この手で直接悠里くんにチョコを渡せたのだ。…もう食べてくれたかな、チョコ。天井を見上げながらもそう思う。私からチョコを受け取った悠里くんは、本当に嬉しそうに笑っていた。サラサラな黒髪から覗く、悠里く
「…ふぇ!?」突然奪われた視界に、変な声を出してしまう。しかし反射的に反撃しようとしなかったのは、その何者かが、私の推しである悠里くんだとわかったからだった。鼻に届いた柔らかくも優しい香りが、悠里くんだと教えてくれた。後ろから何故か抱きしめるように、悠里くんが私の目を覆い隠している。わけのわからぬご褒美すぎる状況に、私はどうしたらいいのかわからず、固まった。「…そんなかわいい顔、俺以外に見せないで」悠里くんがそう私の耳元で囁く。懇願するような切なげな声に、私の心臓は小さく跳ねた。か、かわいい…?私の今の顔が…?怒りで震え上がっている般若顔が…?バクバクとうるさい心臓を
千夏ちゃんとバレンタインチョコ作りをした、次の日。バレンタイン当日の放課後。今日もお互いの予定が合ったので、寒空の下、下駄箱前で悠里くんのことを待っていると、とんでもなく大きな袋を二つも下げた悠里くんが現れた。その袋からは溢れんばかりのチョコらしきものが見えている。チョコを大量に抱える悠里くんに、私は思った。私の推し、すごい。さすがバスケ部の王子様だ。人気者すぎる。「す、すごいね、悠里くん…!さすがすぎる…!」みんなから愛されている推しに、私は何だか誇らしい気持ちになった。まるで自分のことのように嬉しいと思える。私以外にも、こんなにもたくさんの人に愛される悠里くんは、やは