로그인委員会活動は基本放課後の1時間だ。
しかし千晴の反省文の監督をした結果、私は放課後の2時間丸々それに費やすこととなった。 しかも信じられない話だが、2時間も書いていたのに全く終わらなかったのだ。 そう、全く。反省文を書いていた2時間、千晴は渡された紙にきちんと向き合い、確かに文字を書いていた。もちろん、私と話をしていた時間もあったが。
なので、私も委員会活動をしながらもそれを見ていた。…が、真面目に反省文を書いていると思い込んでいたことが、そもそも大きな間違いだった。
何となく監督ついでに反省文の内容を見てみると、そこには全く関係のないことばかり書かれていたのだ。
『柚子先輩の怒りっぽいけど面倒見のいいところが好き』
『文句を言いながらも、見放せないところが好き』 『笑顔が可愛い』『怒っているところも可愛い』 『こっちを見てまず睨んでくるけど、懐いていない子猫みたいで面白い』このふざけた内容は全部反省文に書かれていたほんの一部である。
「全くあんなことばかり書いていたなんてあり得ない!ちゃんと見ておけばよかった!」
「あんなことって。俺なりに真剣に取り組んでいたつもりなんだけど」
「真剣?あれが?アンタが書いていたあれは反省文じゃなくて私への感想文っていうの!真剣のベクトルが違いすぎるの!」
どこか不満げな千晴にこちらも不満をぶつける。
全く、このクレイジー美人は!
本当に一体何を考えているんだ!?下校時間になったので、反省文は全く終わっていないのだが、仕方なく風紀委員室から千晴と校舎外へと出る。
それから校門まで一緒に歩くと、そこには私の推しが待っていた。「あ、鉄崎さん…と華守くん?」
私たちの姿を見て、沢村くんが不思議そうに首を傾げる。
何故、2人が一緒に?と、とても不思議そうだ。沢村くんと千晴にもちろん面識なんてない。
だが、千晴は本当によく目立つ存在なので、面識はなくとも、沢村くんは千晴を知っているようだった。「お待たせ、沢村くん。帰ろっか」
不思議そうな沢村くんだったが、別に説明は不要だろうと思い、何事もなかったように、笑顔で沢村くんに近づく。
そしてそんな私に千晴は「じゃあまたね、先輩」と笑顔で手を振り、その場から離れた。 千晴の目が一瞬笑っていなかった気がしたが、きっと見間違いだろう。千晴と別れて、改めて、沢村くんと並び、街を歩く。
この時間は部活を終えた生徒も多いので、当然私たちの他にもうちの生徒がたくさん街を歩いていた。「鉄子先輩と王子だ」
「やっぱり付き合ってたんだ!あの2人!」
「噂は本当だったんだなぁ」
と、いろいろなところから様々な生徒たちの声が聞こえてくるが、やはりその中には私たちの関係を疑うものは一つもない。
順調に私が悠里くんの彼女であることを主張できている。「ねぇ、鉄崎さん。さっきの華守くんなんだけど…」
「ん?あー。あれ?あれは反省文の監督してたからそのついでに一緒にいたんだよ」
少々聞きづらそうに口を開いた沢村くんに、私はあっけらかんと答える。
それから「本当にいい迷惑だよね!何言っても言うこと聞かないし、そもそも反省文ちゃんと書かないし!」と、とにかく思いつく限り文句を言っていると、何故か沢村くんは笑った。「ふ、何か楽しそうだね」
「へぇ!?た、楽しくなんかないよ!?」
全くの解釈違いに一瞬、あろうことか推しに怒りそうになるが、くすくす笑う推しがあまりにも尊すぎてそんな気持ちが浄化されてしまう。
推しの自分へ向ける笑顔がこんなにも浄化作用があるとは全く知らなかった。 とんでもない攻撃力だ。「…あの、沢村くん」
デレデレした気持ちを切り替える為に、こほん、と咳払いをして、真剣な声で沢村くんの名前を呼ぶ。
そして私はその場に止まって、今日言いたかったことをゆっくりと話し始めた。「まず責務を全うせず、現状にあぐらをかいて、沢村くんに迷惑をかけたこと、謝罪させて欲しい。本当にごめんなさい」
「え?責務?え?」
真剣な表情で謝罪をする私に沢村くんは戸惑いながらも、私と同じようにその場で足を止める。
そんな沢村くんに私は話を続けた。「私、沢村くんの彼女なのに何もしていなかった。これからは時間さえ合えばぜひ一緒に登下校とかしたいし、あと連絡先も…」
「待って」
私が全てを話し終える前に沢村くんが突然私の言葉を遮る。
それから真剣ながらも申し訳なさそうに私を見た。「俺の方こそごめん。俺がリードすべきだったのに受け身になって、全部鉄崎さんに言わせちゃって。彼氏として責務を全うしていないのは俺の方だよ」
な、な、な。
何て顔がいいんだ!申し訳なさそうにこちらを見る沢村くんの目は少し俯いているせいもあり、上目遣いで。
絶対狙っていないのにどこかあざといその表情に、私はやられてしまった。顔がいい!
そしてとてもとても優しい人! 私が望んでアナタの彼女になったの!私が彼女の責務を全うすべき!沢村くんは何も悪くない!「ちがっ、沢村くんは、わ、悪くない、から!」
あまりの良さに動揺しすぎて上手く喋れないでいると、沢村くんはそんな私にスッとスマホを出してきた。
「連絡先交換しよう、鉄崎さん」
「はい!」
もう誰が悪いとかどうでもよかった。
ちょっとだけ気恥ずかしげにはにかむ沢村くんがもう全てだった。 きっと彼のこのはにかみは世界の全ての悩みを解決するだろう。いや、宇宙、だ。それから私たちは連絡先を交換した後、駅まで一緒に他愛のない話をしながら帰った。
そして駅で別れた。沢村くんと私は帰る方向が反対だったからだ。電車に乗り、1人になった私は、目についた席に座ると早速制服からスマホを取り出した。
こ、このスマホの中に推しの連絡先があるっ!
私はいつでも推しと連絡を取り合える! すごい!すごい!彼女ってすごい!今すぐにこの素晴らしい出来事を雪乃に伝えなくては!
そう思い、連絡用アプリを開くと、スマホの画面に一件の通知が表示された。
『明日は朝練だから一緒に行けれないけど、今日みたいに帰りは一緒に帰らない?』 と、まさかの沢村くんからのもので。「…っ!!!??」
えええええええ!!?
自分の目を疑うとんでもないものに、私は思わずスマホを凝視した。
…あ、いけない!推しの時間を一分一秒も無駄にしてはいけない!
喜ぶことも、自分の目を疑うことも後回しにし、とりあえず気持ちを切り替えて、私は至って冷静に沢村くんに返信を急いで打つ。
『うん!ぜは!』
送った後に、ぜひ!を、ぜは!と送ってしまったことに気づき、電車の中で15分も後悔することになるとは、この時の私はまだ知らない。
放課後。ホームルームが終わり、いつものように荷物をまとめていると、教室内がやけに騒がしいことに気がついた。「なぁ、何でアイツがここにいるんだ?」「だ、誰か、反感を買った命知らずな奴がいるとか?」「怖いけどかっこいいよね…」「話しかけたいけど、無理だよねぇ、普通に怖い」騒つく生徒たちの声に何となく誰が現れて教室内がこうなったのか察する。こんなにも必要以上に恐れられ、だが、かっこいいと騒がれる特殊な生徒なんて、この学校には1人しかいない。荷物をまとめ終え、全員の視線が集まる扉の方へと視線を向けてみると、そこには予想通りの人物が開いている扉の枠に体を預け、こちらをじっと見ていた。その人物、千晴が出入り口を塞いでいるせいで、誰もその扉を使えず、仕方なくもう一つの扉からそそくさと出て行っている。その姿に、私はため息を漏らした。全く、この教室にいる全員の帰る邪魔をするなんて。「ちょっと、千晴…」鞄を急いで持ち、呆れたように千晴の元へ行くと、そんな私を見て、千晴の表情は無表情から柔らかい笑顔へと変わった。「先輩、迎えに来たよ」「はいはい。全く。邪魔になってるよ。そこ」「邪魔?なんで?」私に呆れられながら注意された千晴が不思議そうに私を見る。何故、自分が邪魔になっているのか、全くわからないといった様子だ。…逆に何故、自分が邪魔になっていると思えないのか知りたい。「こんなに大きな奴が出入り口塞いでたら通れないでしょ」「人が来たら避けるけど」「そういう問題じゃない。みんなアンタが怖いの」私にそこまで説明され、千晴はどこか不服そうに急に黙る。それからほんの少しだけ間を置いて、伺うように私を見た。「先輩も俺のこと怖い?」先ほどの柔らかい笑みを消し、私の本心を探るようにこちらをまっすぐと見つめる千晴。私よりも全然大きいのに、まるで小さな子どものようにこちらを見る千晴に、何を言っているんだ、と私は鼻で笑った。「怖いわけないでしょ?私は千晴が邪魔なとこにいたら、ちゃんと邪魔って言うから」私は泣く子も黙る、この学校の風紀委員長なのだ。一生徒のことを怖いだなんて思うわけがない。そもそも千晴は素行が悪く、見た目が派手なだけで、怖いやつではない。私を害そうとしてきたことなんてもちろんないし、もし仮に千晴が私を害そうとしようものなら、あらゆ
「…かっこいい」お昼休み。私は今日も教室の窓際の席で雪乃と弁当を食べながら、外でバスケをしている私の推しこと、沢村くんのことを見つめ、うっとりとしていた。今日のような沢村くんと一緒に昼食を食べられない時は、決まって沢村くんはいつもあそこでバスケをしている。それが私と付き合う前からの沢村くんのお昼の過ごし方で、私と付き合うようになってから、沢村くんは週に2回ほど私の為に時間を作り、私と一緒に昼食を食べてくれていた。全て彼氏としての責任感から。絶対私と昼食を食べるよりも、気心の知れた友人たちとバスケをしている方が楽しく、有意義なはずだ。それなのに、ただ付き合っているというだけで、私の為にわざわざ時間を作ってくれるとは、なんて私の推しは優しく、完璧で究極の彼氏なのだろうか。「…はぁ、かっこいい」ボールを持つ沢村くんの周りに集まってきた相手チームの男子生徒たちを難なくかわし、遠くから綺麗なフォームでシュートを決めた沢村くんに、思わず感嘆の息が漏れる。沢村くんを見ながら食べる白米が一番美味しい。「…ふ、相変わらず好きだねぇ、王子のこと」「へ?まあ、うん。好きだね」私の視線の先に気づいた雪乃が揶揄うように笑ってきたので、私は当然だと頷いた。雪乃の言っていることに間違いは一つもない。私は沢村くんのことが好きだ。「アツアツね。最近、様になってきたよ、2人とも。ちゃんと付き合っているように見える」「本当?私ちゃんと彼女できてる?」「できてるできてる」私の言葉に気だるげに頷く雪乃に私はホッとする。以前、付き合いたての頃、私たちは本当に付き合っているのか、と疑われるような関係だった。だが、この1ヶ月で、登下校や昼食を共にし、デートまでした私たちは、もう誰もが認めるカップルとして定着しつつある。この学校で沢村くんに興味を持つ者で、私が彼女だという事実を知らない者はおそらくいないだろう。私はしっかりと彼女という名の壁になるという役割を果たせているようだ。「けど、まだ危ういよね、アンタ」「え?私?」窓際からさっさと弁当へと視線を戻し、卵焼きを口に入れた雪乃に私は首を傾げる。危うい?私が?「千晴くん。あれ、どうすんの?」「へ?千晴?」考えてもよくわからないので、じっと雪乃の次の言葉を待っていると、雪乃から何故か千晴の名前が出てきて、私
「おはよ、先輩」私の声を流れるように遮った千晴は、何故かそのまま私を後ろから抱きしめてきた。生徒たちの視線が一斉にこちらに注がれている気がする。…何だ、これ。「…おはよう、千晴。離してくれない?」「俺のお願い聞いてくれたら離す」「…お願いぃ?」気怠げな千晴の声に眉間にシワを寄せる。一体お願いとは何なのか。「うん。俺、今回のテストヤバそうでさ。だから先輩に勉強教えてもらいたいんだよね。ダメ?」「なんだ、そんなこと?」未だに私を自身の腕の中へと閉じ込め続ける千晴に、私は思わず苦笑する。お願いだと言うからもっと難しいことでも言われるのかと、身構えてしまったではないか。「勉強くらいいくらでも教えるよ。はい、わかったら離す」千晴のお願いをさっさと聞き入れ、私は自分を離すようにと、後ろに振り向き、グッと千晴の胸を押す。だが、何故か千晴は私を離そうとせず、「もうちょっとだけ」と、私の頭に自分の頭をぐりぐりと押し付けてきた。千晴のせいで私の綺麗な一つ結びがボサボサだ。「やめろバカ!髪がボサボサになっちゃうじゃん!」「そしたら俺がまた結んであげる」「そういう問題じゃない!」先ほどよりももっと力を入れて千晴の胸を押すのだが、びくともせず、私は千晴にされるがままだ。力では敵わないと思い、私は一度千晴から逃れることを諦め、どうすれば自由になれるのか考えることにした。やはりここはみぞおちに一発、私の肘を喰らわせるしか…。「嫌がってるだろ、離れろよ」今まさに千晴のみぞおちを狙いかけたところで、沢村くんがどこか面白くなさそうに私たちを見て、千晴の肩を掴む。「は?何、お前?」「鉄崎さんの彼氏だけど」「…」「…」それから2人は、私を挟んで、千晴がにこやかに、沢村くんが怖い顔で、静かに互いを睨んだ。間に挟まれた私はとんでもない空気に1人晒される。…居心地が悪すぎる。「…千晴、私を離しなさい。あと沢村くんを睨むな」もう我慢の限界だと、できるだけ怖い顔で千晴の頬を掴んで横に引っ張る。私の推しを睨むだなんて言語道断。許されるものではない。私に頬を引っ張られた千晴は何故か嬉しそうに「はぁい」と間の抜けた返事をし、やっと私から離れた。千晴から解放された私はそのまま自由になった体で、千晴の方へと振り向き、千晴を見据える。「…それでいつ勉強教
side柚子沢村くんの名誉ある彼女(上辺だけ)になり、もう1ヶ月。10月に入り、暑さも和らいできた今日この頃。私は今日も朝の委員会活動を終え、教室へと移動していた。そしてその道中、下駄箱でなんと朝練後の私の推しと遭遇した。「おはよう、沢村くん」「あ、鉄崎さん。おはよう」私に挨拶を返して、爽やかに笑う沢村くんは今日も相変わらず眩しすぎる。練習後で暑いだろうに、着崩すことなく、きちんと着ている制服。汗を拭くために首にかけられているタオル。少しだけ乱れているが様になっている髪。練習後にしか得られないかっこよさがそこには確かにあった。推しが尊すぎる。かっこよすぎる。今日も沢村くんのかっこよさに密かに目を奪われていると、ふと、沢村くんの肩にかかった大きな黒リュックでゆらゆらと揺れているあるものに目がいった。沢村くんのリュックでゆらゆらと揺れているのは、メルヘンランドのマスコットキャラクターである、メルヘン猫のぬいぐるみキーホルダーだ。あのふわふわで可愛らしすぎるキーホルダーは以前、私が沢村くんにお土産としてあげたものだった。ーーーーそれは遡ること、約2週間前のこと。*****放課後、たまたま時間が合い、沢村くんと一緒に帰っていた私は満を持して、鞄から可愛くラッピングされた袋を取り出した。「沢村くん!これ!」「…?」私にずいっと袋を押し付けられて、沢村くんが不思議そうにそれを受け取る。「どうしたの、これ?」それから伺うように私を見た。「…あ、あのね。この前、メルヘンランドに行ったから、そのお土産で…」迷惑ではないだろうか、と不安に思いながらも、おずおずと沢村くんを見る。すると、そんな私の不安なんてよそに、沢村くんはまじまじと私が渡した袋を見つめて、とても嬉しそうに目を細めた。「俺のためにわざわざお土産を買ってきてくれたの?嬉しい…。ありがとう、鉄崎さん」「…へ、あ、あ、うん」まさかこんなにも喜んでもらえるとは思わず、私まで嬉しくなり、声がうわずる。推しが私なんかのお土産でこんなにも喜んでくれるとは。買った甲斐があったし、今後どこへ行くにも必ず沢村くんへのお土産を買おうと思えてしまう。推しに貢ごう。絶対…!舞い上がっている私の横で、沢村くんは早速袋を開け、中身を確認すると、「メルヘン猫だ。かわいい」と顔を綻ばせてい
side千晴太陽が沈み、パーク内が電飾の海に包まれる。その中で俺の隣を歩く小さな存在に、俺はじんわりと心が暖かくなった。意志の強そうな瞳に、小さな口。綺麗だが、可愛い要素もある、美人な柚子先輩の横顔は、いつまでも見ていられる。先輩を見て俺は改めて、好きだな、と思った。複数の事業を展開する、日本有数のグループ、華守グループの跡取り息子である俺は、生まれた時から特別で、何をしても許される存在だった。周りの大人たちによって勝手に決められたつまらない道に、俺に頭が上がらない全ての人間たち。俺を取り巻く全てがつまらない。そう思って生きてきたが、先輩と出会って全てが変わった。先輩は時に強く、時に優しい人だ。それは誰に対しても同じで、俺に対してもそうだった。そんな先輩が俺は好きだ。今日の先輩も本当によかった。強いところも優しいところも見れたし、何よりも私服の先輩はいつも見る制服の先輩とはまた雰囲気が違い、カジュアルでとても可愛いかった。だが、そんな大好きな先輩に〝彼氏〟ができてしまった。その枠はいずれ俺のものになるはずだったのに。最初、先輩に彼氏ができたと知った時、はらわたが煮えくり返った。心が、体が、不快と怒りに支配され、どうしようもない不快感が俺を襲った。しかし、今はもう落ち着いている。何故なら先輩が彼氏に選んだ相手が、ただの先輩の推しだったからだ。先輩は別にアイツのことを異性として好きではない。ただの推しとして推しているだけだ。先輩からアイツの話を聞くたびに、そこに俺と同じ熱を一切感じなかったので、すぐにそうだとわかった。まあ、だからといって、先輩の口から他の男の話なんて聞きたくないが。だから一刻も早く俺を好きになってもらわなければならない。そうでなければ、この不快な状況がずっと続いてしまう。「うわぁ…」俺の隣にいた先輩がある場所を見て感嘆の声をあげる。先輩の視線の先には、このパークのシンボル、大きな西洋式のお城があった。先ほど先輩と共に軽食を食べた場所だ。ライトアップされているそれは昼間のものとはまた違うものに見えた。一般的な感想を述べるなら、あれは綺麗なのだろう。俺にはただ光っているな、という感想しかないが。けれど、そんなただ光っているだけの建物でも、先輩越しに見れば、何故かとても輝いて見えた。先輩と
「…」疲れた。お化け屋敷からやっと出た私は、もう満身創痍で、千晴に寄りかかっていた。あんなもの入らなければよかった。何も楽しくなかった。「先輩、大丈夫?」ぐったりとしている私の様子を伺う千晴は、私とは違い余裕があり、どこか満足げだ。お化け屋敷が苦手だと言っていたわりには、ずっと平気そうで、私を抱き寄せたまま、腰を抜かす私を何度も何度も庇ってくれた。どうなっているんだ。本当は苦手ではないのか…?千晴に疑念の視線を向け始めた、その時。 「きゃー!」突然、女性の甲高い叫び声がこの場に響いた。 ただ事ではなさそうなその声に、周囲の人々はざわつき始める。声の方へと視線を向ければ、そこには倒れている女性と、女性ものの鞄を抱えて走る、全身黒ジャージの30代くらいの男がこちらに向かって走ってくる姿があった。状況から見ておそらくアイツが女性から鞄を奪ったのだろう。…全く。せっかくのメルヘンランドなのに。全員の楽しい気持ちに水を差す行為、許せない。「…はぁ」ひったくり犯を捕まえる為に、大きなため息を吐き、千晴から離れる。それからひったくり犯を睨みつけて、腕をあげようとした。「先輩、下がって」しかし、そんな私の前に千晴が現れ、左手で私を制止した。あのひったくり犯から私を守ろうとしての行為なのだろう。だが、私にはそんなもの必要ない。お化け屋敷ではぜひ私を守ってもらいたいが。「千晴、大丈夫」私を庇うように立った千晴を避け、こちらに迫ってくるひったくり犯をもう一度睨む。ひったくり犯は目の前に現れた私を見て、「退けや!」とすごい形相で叫んできたが、私は構わず右腕を肩の高さまで上げ、少し曲げて構えた。先ほどまで満身創痍だったはずなのに、体の奥底から力がみなぎる。私の中の正義感がそうさせる。「止まりなさい!」そして私の叫びと共に振り抜かれた右腕は、見事にひったくり犯の首へと当たり、ひったくり犯はその勢いのまま、地面へと仰向きに叩きつけられた。ラリアット成功だ。「…ゔっ」私からラリアットを喰らったひったくり犯は、うめき声を漏らしながらも、表情を歪めていた。とても苦しそうだが、犯罪に手を染めたやつに慈悲など必要ないだろう。「返しなさい、それ」「…あ、は、はい」私に凄まれたひったくり犯は、半泣きで何度も頷き、鞄をこちらに差し出