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3. 「異世界ほのぼの日記」55

Author: 佐行 院
last update Last Updated: 2025-02-24 10:07:05

-55 レース当日を迎え-

 レース当日を迎え、光達は南側の山にレース用に掘られているトンネルの前に特設された観客席で、ビール片手に選手たちがトンネルから出てくるのを今か今かと待っていた。

 レースコースを挟み向かい側に魔術で作られたと思われる巨大なオーロラビジョンに映るレース模様を観客皆がドキドキしながら注目している。

 ホームストレートに各国から常連として毎回出場しているチームが各国3チーム、新規の参加チームが3チーム、そして各国の王宮で選ばれた選手達が集まる選抜チームが3チームで、毎年通り合計21チームが出場する事になった。

 前日に行われた予選の結果、今年からバルファイ王国代表で新たに出場する事になったブルーボアが1位のポールポジションを獲得し優勝候補として名乗りを上げている。

 規定通り皆と同じ珠洲田のカフェラッテを使用していたがエンジンの開発に余念の無い研究を重ね加速と最高速度に特化した物が完成し、メンバー全員が意気揚々としている。

 予選ではバルファイ王国の王都に設置された18kmものホームストレートを1番速く走り抜けたチームからポジションを取っていくルールなので全力で車を走らせた結果だった。

 色とりどりのカフェラッテにゼッケンのプレートが貼り付けられ各々のポジションに付き準備万端で15分後のスタートを待っていた。

 涼し気な気温、そして眩しい程の晴天によりドライとなった路面により絶好のレース日和となっている。

 各国の各所に観客席が特設され、満員御礼となっていた。レースのスタートが近づく度に観客たちの熱気が高まって行く中、光は1人、ナルリスとゲオルの席を取り待っていた。

光「2人とも遅いな・・・、どこ行っちゃったんだろ・・・、トイレかな?」

 光に席の確保を頼んでから40分程戻って来ないので心配になって来た、一応確保した席は連絡したはずなのだがちゃんと伝わっているのだろうか。

 心配する光の前をビールの売り子が横切ったので、熱気による暑さも手伝い欲しくなってしまい思わず手を挙げた。

光「お姉さん、ビール!!大サイズで!!」

売り子「400円でーす、毎度ー。」

 渡されたビールを一気に煽り息を吐く、まるで1人公園で缶チューハイを呑むおっさんの様だ。ただ、周りにも同じ様にビールを呑む女性達が数人いたのですぐに意気投合していた。乾杯を交わし塩味のポテチ
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    -142 ば、バレた・・・。- 一のギルド登録が無事に終え、シューゴのもとへ戻ることにした2人。一の『瞬間移動』の練習も兼ねてそれで帰還する事にした。 まだ慣れていないみたいで、スキル使用の為前に差し出した右手がまだ震えていた。しかし、冷静になり丁寧に行った為か一発でシューゴのいる弟・レンカルドの経営する飲食店に到着した。シューゴ「あ、お帰りなさい。寄巻さんの登録も大丈夫そうですね。」光「そ・・・、それが・・・。」一「すみません、光さんにも言えてなかったのですが実は転生前に婿養子に入って「一」になったんです。」シューゴ「そうですか、でも大丈夫ですよ。まだ名札も作ってませんから。」 一は事が進みすぎて思考が追いついていない、拉麺屋台の一員として採用された事にいつ気付くのだろうか。光「大丈夫だったでしょ?お手伝いしてた時の一さん、生き生きとしてたじゃないですか。好きだったんでしょ、拉麺屋さんのお仕事。」一「うん・・・。実は子供の頃から拉麺屋さんのお店を出す事が夢だったんだ。」 そう聞いたシューゴは安心した様子で笑みを浮かべていた、とても嬉しそうな顔だ。シューゴ「寄巻さん改め一さん、その夢私と一緒に叶えませんか?」光「という事は・・・、また屋台を増やすんですか?」 シューゴは首を横に振り笑顔で答えた。シューゴ「いえ・・・、実はそろそろ店舗を出しても良いかと思ってたんです。一さんにはその手助けをして頂ければと。」 心配していた仕事が即決まったので一は安心した様子で涙を流した。一「私で宜しければ・・・。」シューゴ「こちらこそ・・・、宜しくお願い致します。」光「あの・・・、感動している時に悪いのですが何か忘れてません?」 咄嗟に口を挟んだ光を2人はぽかんとしながらじっと見ていた。光「お店を経営する事になるから、一さんも一応商人兼商業者ギルドに登録する必要が無いのですか?」 数秒の間、静寂が続いた後シューゴが笑顔で自らの頭を撫でながら照れた様子で言った。シューゴ「ははは・・・、すみません。完璧に忘れてました。今日はもう遅いので明日にしませんか?渚さんと一さんの歓迎会を兼ねて一緒に呑みましょう。実は叉焼を作りすぎちゃいまして、ビールを買って来ますのでお待ちください。」レンカルド「兄さん・・・、ビールならお店にもあるよ。」光「丁度良か

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」141

    -141 寄巻の真実- 不動産屋で入居の手続きを終えた寄巻の横で、シューゴに1つ確認する事があったので渚を通して連絡先を聞いた。光「もしもし、2号車の赤江 渚の娘の光です。突然すみません、1つ聞いておきたいことがあるのですが。」 突然の連絡に驚きつつも、シューゴは快く通話に応じた。確認事項についても答えは「イエス」だったらしい。首を傾げる寄巻をよそに光は話を進めていった。光「ぶち・・・、寄巻さん。」 相変わらず昔の呼び方が抜けていない光、未だ「寄巻さん」と呼ぶのに少し抵抗があるみたいだ。寄巻「ん?どうしたの?」光「今シューゴさんに確認したのですが、本人に会う前に冒険者ギルドに登録しておいて欲しいとの事なんです。きっと部・・・、寄巻さんにとっていい結果を生むと思いますので行きましょう。」 改めて『瞬間移動』で寄巻を冒険者ギルドに連れて行くと、奥の受付カウンターにいる受付嬢兼ネフェテルサ王国警察刑事のアーク・エルフ、「ドーラ」こと新婚のノーム林田に声を掛けた。ドーラ「いらっしゃい、光ちゃん久しぶりね。」光「お久しぶりです、今日はちょっとお願いがあって。」 そう聞いたドーラは寄巻の方をチラ見したドーラ「そちらの方の事かしら?まさか不倫とか?」光「何言っているんですか、ナルに怒られちゃいますよ。」 一発ジョークをかますドーラを見て少々緊張している様子の寄巻。それもそのはずで、異世界(こっちの世界)に来初めての事なのだが自分の目と鼻の先にエルフがいる、日本(あっちの世界)にいた頃にアニメやマンガでしか見たことが無いエルフが。先程屋台の手伝いをしていた時に客として何人かいたかも知れないのだが、忙しすぎて全く気付かなかった。 寄巻が耳が長い事以外は普通の人間なんだなと思いながら受付カウンターの方をぼぉーっと眺めている間、傍にいたエルフ(ドーラ)がずっと肩を軽く叩いてくれていた事にやっと気付いた。ドーラ「だ・・・、大丈夫ですか?」寄巻「す・・・、すみません。」光「ドーラさんごめんなさい、この人こっちの世界に来たばっかりで。」ドーラ「よくある事よ、多分エルフをまじまじと見るの初めてだったからじゃない?」寄巻「正しく・・・、その通りです・・・。」 緊張しながら言葉を搾り出す寄巻、ドーラに促されるまま登録用紙に記入をし始めた。光の知る名前は「寄

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」140

    -140 部下から先輩へ- 異世界と言っても神によって日本に限りなく近づけられた世界で、同じ様な拉麺屋台なので学生時代にバイト経験があったせいか寄巻部長はお手伝いをそつなくこなしていた。寄巻「拉麺の大盛りと叉焼丼が各々3人前で、ありがとうございます。注文通します!!大3丼3、④番テーブル様です!!」シューゴ「ありがとうございます!!おあと、⑦番テーブルお願いします!!」寄巻「はい、了解です!!」 寄巻の登場により一気に回転率が上がったシューゴの1号車は、今までで1番の売り上げを誇っていた。嬉しい忙しさにシューゴも汗が止まらない、熱くなってきたせいか寄巻はTシャツに着替えている。 数時間後、今いるポイントでの販売を終えシューゴが片付けている横で手伝いのお礼としてもらった冷えたコーラを片手に寄巻が座り込んでいた。シューゴ「寄巻さんだっけ?あんた・・・、初めてでは無さそうだね。」寄巻「数十年も前も話ですが、あっちの世界で拉麵屋のバイトをしていた事があったのでそれでですよ。」 いつも以上に美味く感じる冷えたコーラを一気に煽ると、寄巻はこれからどうしようかと黄昏ながら一息ついた。渚は隣に座り寄巻自身が1番悩んでいる事を聞いた。渚「部長・・・、家とかどうします?」寄巻「吉村・・・、さん・・・。こっちの世界では違うからもう部長と呼ばなくていいんだよ?それに君の方がこの世界での先輩じゃないか、お勉強させて下さい。」 寄巻は久々に再会した部下に深々と頭を下げた、渚は焦った様子で宥めた。渚「よして下さいよ。取り敢えず不動産屋さんに行ってみましょう、即入居可能なアパートか何かがあるかも知れません。」シューゴ「おーい、寄巻さんにまた後で話があるから連れて来て貰えるか?」 シューゴの呼びかけに軽く頷いた渚は寄巻を連れて『瞬間移動』し、ネフェテルサ王国にある不動産屋に到着した。以前渚もお世話になったお店だ。 寄巻は『瞬間移動』に少々驚きながらも目の前のお店に入ろうとした渚を引き止めた。不動産屋で契約出来たとしてもお金が・・・。渚「そうでしょうね、でも安心して下さい。部ちょ・・・、寄巻さんも神様にあったんでしょ?」寄巻「それはどういう事だ?「論より証拠」って言うじゃないか、分かりやすい形で見せて欲しいんだが。」渚「では、場所を移しましょう。」 渚は再び『

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」139

    -139 懐かしき再会- その眩しい光は渚にとって少し懐かしさを感じる物だった、ただ花火か何かかなと気にせずすぐに仕事に戻った。今いるポイントで開店してから2時間以上が経過したが客足の波は落ち着く事を知らない。 2台の屋台で2人が忙しくしている中、渚の目の前に『瞬間移動』で娘の光がやって来た。スキルの仕様に慣れたのか着地は完璧だ。光「お母さん、売れてんじゃん。忙しそうだね。」渚「何言ってんだい、そう思うなら少しは手伝ってちょうだい。」光「いいけど、あたしは高いよ。」渚「もう・・・、分かったから早く早く。」 注文が次々とやって来ている為、調理と皿洗いで忙しそうなのでせめて接客をと配膳とレジを中心とした仕事を手伝う事にした。2号車の2人の汗が半端じゃない位に流れている頃、少し離れた場所から女性の叫び声がしていた。先程眩しく光った方向だ。女性①「大変!!人が倒れているわ!!誰か、誰か!!」 大事だと思った屋台の3人も、そこで食事をしていたお客たちも一斉にそちらの方向へと向かった。一応、火は消してある。男性①「この辺りでは見かけない服装だな、外界のやつか?」女性②「頬や肩を叩いても気付かないわよ、死んでるんじゃないの?」男性②「(日本語)ん・・・、んん・・・。何処だここは、俺は今まで何していたっけ。」 どうやら男性が話しているのは日本語らしいのだが、まだ神による翻訳機能が発動していないらしい。男性①「(異世界語)こいつ・・・、何言ってんだ?やっぱり外界の奴らしいな。」男性②「(日本語)ここは・・・?この人たちは何を言っているんだ?」 しかし光の時と同様にその問題はすぐに解決され、光達が現場に到着した時には雰囲気は少し和やかな物になっていた。すぐに対応した神が翻訳機能を発動させ、男性は皆に今自分がいる場所などを聞いていた。ただ、男性の声に覚えがある光はまさかと思いながら群衆を掻き分け中心にいる男性を見て驚愕した。光「や・・・、やっぱり!!」男性②「その声は吉村か?!何故吉村がここにいるんだ?!」渚「あんた・・・、ウチの娘に偉そうじゃないか?」 光は男性に少し喧嘩腰になっている渚を宥める様に話した。光「母さん、この人は向こうの世界にいた私の上司の寄巻さんっていうの。」渚「え・・・、上司の・・・、方・・・、なのかい?」寄巻「そう、今

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」138

    -138 事件後の屋台では- 事件が発覚してから1週間後、人事部長がバルファイ王国警察に逮捕され、お詫びとして受け取った温泉旅行から帰って来て笑顔を見せるヒドゥラの姿が渚の屋台の席にあった。渚「良かったですね、これで安心して働けるんじゃないですか?」ヒドゥラ「あれもこれも店主さんのお陰です。」渚「何を言っているんですか、私は何もしていませんよ。」ヒドゥラ「いえいえ、ここで拉麺を食べてなかったら社長に会う事は無かったんですから。」 その時、渚が屋台を設営している駐車場の前を1組の男女が歩いていた、貝塚夫妻だ。結愛「良い匂いだな、折角の昼休みだ。俺らも食っていくか?」光明「いいな、俺も腹が減っちったもん。」結愛「よいしょっと・・・、ヒドゥラさん、ここ良いですか?」 夫妻は前回と同じ席に着き、拉麺と叉焼丼を注文した。その時渚は既視感と違和感を半々で感じていた。渚「あれ?この前来たおばあちゃんと同じセリフな様な・・・。」結愛「き・・・、気のせいですよ、店主さん。やだなぁ・・・、嗚呼お腹空いた。」 結愛は光と渚が親子だという事を知らない、それと同様に渚は結愛と光が友人だという事を知らない。まぁ、この事に関してはまたいずれ・・・。 貝塚夫妻は以前とは逆に麺を硬めにとお願いした、前回は老夫婦に変身していたので仕方なく柔らかめにしていたが好みと言う意味では我慢出来なかったのだ。次こそは絶対硬めで食べると堅く決意していた、別に駄洒落ではない。 結愛達が注文した拉麺がテーブルに並び、3人共幸せそうに食べていた。やはり同様に転生した日本人が作ったが故に結愛と光明は何処か懐かしさを感じている。ヒドゥラ「おば・・・、理事長も拉麺とか召し上がるんですね。毎日高級料理ばかり食べているのかと思っていました。」結愛「何を仰っているのですか、私はドレスコードのある様な堅苦しい高級料理よりむしろ拉麺の方が好きでしてね。それと貴女、先程私の事・・・。」ヒドゥラ「て、店主さーん、白ご飯お代わりー。」渚「上手く胡麻化しちゃって、あいよ。」 数時間後、渚は屋台の片づけをして次の現場へと向かう事にした。実はシューゴに新たな地図を渡されていたのだが、2か所目のポイントを変更したというのだ。そこでは屋台を2台並べて販売する予定だと言っていた。 指定されたポイントはダンラルタ

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   3. 「異世界ほのぼの日記」137

    -137 人事部長の悪事- 夫婦は重い頭を上げヒドゥラにソファを勧めた、先程の入り口前にいた女性にお茶を頼むとゆっくりと話し始めた。夫人「初めまして、普段は学園にいるからお会いするのは初めてですね。私は貝塚結愛、この貝塚財閥の代表取締役社長です。隣は主人で副社長の光明です。」光明「初めまして、これからよろしく。」ヒドゥラ「しゃ・・・、社長・・・。そうとはつい知らずペラペラと、申し訳ありません。」結愛「何を仰いますやら、貴重なお話を頂きありがとうございます。」 実は最近の異動で人事部長が変わってから、やたらと人件費が削減されているので怪しいと思っていたのだ。削減された人件費の割には利益が昨年に比べて悪すぎると思っていた折、ヒドゥラの話を聞いた結愛は人事部長が怪しいと踏み、部の社員数人にスパイを頼み込んで調べていた。光明の作った超小型監視カメラを数台仕掛けて証拠を押さえてある。 調べによると金に困った人事部長が独断でありとあらゆる部署から人員を削り、余分に出た利益を書類を書き換えた上で自らの口座へと横流ししていたのだ。結愛「今回発覚した事件により貴女を含め大多数の社員に迷惑を掛けてしまった事は決して許されない事実です。人事部長は私の権限で以前の者に戻し、迷惑を掛けた皆さんには賠償金を支払った上で私達夫婦からお詫びの温泉旅行をプレゼントさせて頂きます。」光明「そしてヒドゥラさん、貴重なお話を聞かせて下さった事により我々にご協力下さいました。我々からの感謝の気持ちもそうなのですが、業務に対する責任感を感じる態度へと敬意を表し今の部署での管理職の職位を与え、勿論貴女にもお詫びの温泉旅行をプレゼント致します。」 ヒドゥラは今までの苦労が報われたと涙を流すと、全身を震わせ崩れ落ちた。2人に感謝の気持ちを伝えると自らの部署に戻り暫くの間泣いていたという。 問題の人事部長についての調査なのだが、以前から魔学校の入学センター長を兼任しているアーク・ワイズマンのリンガルス警部に結愛が直々にお願いしていた。そしてこういう事もあろうかと様々な魔術をリンガルスから学んでもいたのだ、屋台で使用した『変身』もその1つである。そのお陰でネクロマンサーとなり、多くの魔術が使える様になった結愛は魔法使い特有の念話も使える様になっていた(光は『作成』スキルで作ったが)。結愛(念話

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