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第152話

Auteur: 年緒
どうやら光代は、最終的にはなの味方についたようだ。

それでも隼人や他の社員たちは全く納得しておらず、はながシャドウであるはずがないと執拗に食い下がった。

しかし、はなは少しも慌てていない。

そもそもそれは、水掛け論に近い話である。自分がシャドウだと決定的に証明することはできない。だが同時に、向こうにも自分がシャドウではないと断言できるだけの証拠はない。

これは永遠に解明されない謎だと彼女は高をくくっていた。

その時、光代が突然口を開いた。

「実は今日ここに来たのは、元々その問題をはっきりさせるためだったの。

シャドウの先輩である菅田将大(すだ まさひろ)博士が、ここ最近帰国した。今夜、席を設けるから、技術部の人は全員参加すること。もちろん、はなも行きなさい」

その言葉に、はなは一瞬にして凍りついた。光代は冷たい表情を浮かべ、探るような口調で言った。

「はな、まさか菅田さんを知らないわけじゃないわよね?」

知らないはずがない。菅田将大――孝允教授の孫であり、シャドウの先輩でもある。それはシャドウの公開情報の中で唯一確認できる事実だ。

菅田教授には二人の愛弟子がおり、
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  • 断ち切るのは我が意   第373話

    恋に弱い者同士というのも、案外、幸せなのかもしれない。萌花は二か月ほど休んだあと、すぐに研究の現場へ戻った。生体チップの開発に寝食を忘れるほど打ち込み、今度はその技術を人工心臓へ応用することを目指した。時雄に残された時間は、五年。それでも萌花は、必ず間に合わせられると信じている。萌花は研究に追われ、どうしても育児に十分な時間を割くことができない。そのぶん時雄は、佳奈が生後二か月になる頃には、毎日のように会社へ連れていくようになった。二条佳奈(にじょう かな)という名前は、時雄がつけたものだ。実のところ、家には産後ケアのスタッフが二人、ベビーシッターが三人、それに家政を取り仕切る執事までいる。すべて須恵が厳選し、孫娘の世話を任せている人たちだ。それでも時雄は、どうしても安心できず、子どもは自分のそばに置いておくのが一番安心だと、かたくなに言い張った。ところが、会社の人間たちは、時雄の言い分を真に受けてはいなかった。娘を会社に連れてくるのは、どう見ても自慢したいだけにしか見えないとみんなは思った。そのため、社内ではこんな光景がすっかり日常になっている。時雄は佳奈を抱いたまま会議に出る。佳奈のおむつが濡れれば、何食わぬ顔で会議を中断し、会議机の上に娘を寝かせて、慣れた手つきでおむつを替える。取引先との商談中でも同じだ。腕の中の佳奈が目を覚まして声を上げると、時雄はすぐに商談を止めた。「すみません、少し待ってください。娘のミルクを用意してきます」最初のうちは、社員たちも「いいお父さんですね」と微笑ましく見ていた。けれど、それが毎日のように続くと、さすがに呆れる者も増えた。いつの間にか、時雄は陰で「娘自慢社長」と呼ばれるようになった。しかも佳奈が生まれてからというもの、時雄はやたらと晩餐会やメディア向けの発表会に顔を出すようになり、取材にも積極的に応じるようになった。もちろん、そのたびに佳奈は小さな飾りのように必ず時雄の腕の中にいる。ある公的メディアのインタビュー記事では、時雄について最後にこんな一文が添えられた。「時雄さんは奥さんと娘さんを深く愛しており、その姿からは一見、家庭内での立場が弱いようにも見える。しかし実際のところ、それは少し違っている。家庭内での立場が弱いのではない。彼には最初

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    来希もまた、その一部始終を見ていた。長く待たされるうちに、彼の心はほとんど麻痺していた。萌花も時雄も、もう助からない。見つかったとしても、焼け焦げた遺体になっているだけだと思い込んでいた。それなのに、時雄は萌花を抱いて降りてきた。時雄の姿はひどく痛々しい。それでも、彼は萌花を抱いたまま、確かに生きて降りてきた。胸の奥で、嫌でも一つの考えが浮かぶ。もしさっき、自分が命を懸けて中へ飛び込んでいたら、結果は少しでも違うだろうか。しかしその答えは来希自身がいちばんよく分かっている。そんなはずはない。その瞬間、来希は自分の中にある身勝手さと臆病さをはっきりと思い知った。自分にはできない。時雄のように、命を投げ出してまで誰かを救うことなどできない。自分は結局、利己的で、臆病で、卑怯で、そのうえ悪意にまみれた小物でしかない。来希は抜け殻のように背を向け、そのまま警察署へ向かった。翌日、この火災は各メディアで大々的に報じられた。市内でも有数の高級産後ケア施設で起きた火災は、事故ではなく放火だったことが判明した。来希はそのまま警察署へ向かい、犯行を認めた。その後、共犯としてはなも逮捕された。二人には、厳しい処罰が待っている。萌花が病院で目を覚ましたとき、目の中にはまだ恐怖の色が濃く残っていた。夢を見た。夢の中では、炎が空まで燃え上がり、巨大な蛇のようにすべてを呑み込もうとしている。その炎の中に、時雄が立っていて、全身の皮膚は焼けただれ、血と肉がむき出しになり、最後には燃え尽きて、舞い散る灰になってしまった。「いや……!」萌花ははっと目を覚まし、ベッドの上で身を起こした。病室には医師や看護師がいるが、時雄の姿だけが見当たらない。彼女は慌てて、そばにいた看護師の手をつかんだ。「時雄は?時雄はどうなったんですか?」看護師は、言いにくそうに口を開いた。「小林さんは……お怪我がかなり重くて、今も集中治療室で治療を受けています」萌花はそこでようやく、時雄が火災現場から救出されたあとに、心臓発作を起こしたことを知らされた。処置は済んだものの、意識はまだ戻らず、今も集中治療室にいるという。萌花は無菌ガウンに着替え、時雄に会いに行った。時雄は全身を包帯で覆われ、見えるところにもいくつ

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    その人は萌花を背負うと、そのまま部屋を飛び出した。萌花はその背中に身を預けながら、彼の体温と匂いを感じていた。その感覚は、あの年、雪の中で感じたものとまったく同じだ。間違いない。今、自分を背負っている人と、あのとき自分を助けてくれた人は同じだ。来希なのか。違う。来希ではない。萌花は必死に目を開けた。まぶしいほどの火の光の中で、その人の横顔が見えた。時雄だ。萌花は息を呑んだ。ようやく、すべてがつながった。あの年、雪の中で彼女を背負い、十キロもの道を歩いてくれた少年は来希ではなく、時雄だったのだ。これほどはっきり確信したことは、今まで一度もなかった。萌花はずっと、あの雪の日に自分を救ってくれたのは来希だと信じてきた。命を救われた記憶と、絶望の中で差し出された温もりが、その思い込みを十年ものあいだ支えていた。けれど今、はっきり分かった。自分が十年間、命の恩人だと信じ続けてきた相手は、最初から間違っていた。そのせいで、時雄と十年もすれ違ってしまった。その瞬間、萌花は運命とはなんて残酷なのだろうと思った。時雄は萌花を背負って非常階段を下りていった。濃い煙が立ち込め、目の前はほとんど何も見えない。二人とも目を開けていられない。酸素は薄く、空気には有毒な煙と灰が混じっている。萌花は、時雄の足取りが何度も乱れるのを背中越しに感じた。彼ももう限界に近い。自分を支える腕は震えているが、それでも時雄は決して力を緩めなかった。やがて、階下へ向かう通路は激しく燃え上がる炎に塞がれた。炎は噴き出す溶岩のように足元まで迫っている。萌花は朦朧とする意識の中で、そこがまだ十階だと分かった。時雄もすでに限界だった。有毒な煙を吸い込んだせいで足元はおぼつかず、意識も今にも途切れそうになっている。ここまで下りてこられたのは、ほとんど気力だけだ。それでも、まだ道のりは半分残っている。萌花もまた、かろうじて気力だけで意識をつないだ。「時雄、一人で逃げて」時雄一人なら、まだ助かる可能性があるかもしれない。けれど、自分を背負っていては足手まといになるだけだ。ただ、今の萌花は体がまったく言うことを聞かず、立ち上がることすらできなかった。時雄はかすれた声で言った。「馬鹿なことを言うな。君

  • 断ち切るのは我が意   第370話

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  • 断ち切るのは我が意   第368話

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