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第3話

Penulis: 年緒
小春は彼女の事情をよく理解していた。離婚協議書の中でも、彼女のために利益を最大限に確保した。

ただ一点だけ。

萌花が口を開いた。「ここ、修正して。彼の会社の株はいらない」

小春は目を丸くして驚いた。「バカなこと言わないでよ!もう離婚するんだから、そんな気取ってどうするの?幸林テクノロジーは引く手あまたの企業よ。上場したら、その株式は数百倍にだってなる。

あなたがお金に執着しないのは知ってるけど、幸林テクノロジーだってあなたが人生を捧げた会社でしょ?なんであんな愚か者にタダで譲る気なの?」

萌花は冷たい表情で言った。「幸林は上場できない。株は紙くず同然になり、負債の山になるわ」

彼女は顔を上げ、澄んだ瞳で言った。「それに、私が株式を要求してもどうせ来希は株式をくれないわ。そうなると離婚訴訟になるのがオチで、面倒なだけよ」

小春は少し考えてから頷いた。この点は彼女も同意見だった。来希が絶対に株式を半分分け与える訳などない。株を要求するなら長い時間をかけての戦いになる。

彼女は萌花が後悔するのではないかと怖かった。

小春は手際よく離婚協議書の内容を修正した。

萌花は離婚協議書を受け取って、車に戻ったその時。

来希から電話がかかってきた。

数秒ためらってから通話ボタンを押した。

つながった瞬間、電話の向こうから怒鳴り声が聞こえた。

「萌花、母さんに何て言ったんだ!おまえ、いったいどうなってるんだ?令嬢とは思えないあの口の利き方はなんだ?」

萌花は言い返した。「そうね、あなたに会う前、私は名家の令嬢だったわ。結婚してから私は気が強くなったのよ。いったい誰のせいだと思う?」

来希は言葉を詰まらせながら怒りを爆発させた。

「萌花、まだ言い返す気か!母さんはお前のせいで心臓発作を起こしかけたんだ!これは命令だ。今すぐ家に戻ってちゃんと謝罪しろ!そうすれば、今回は大目に見てやる」

相変わらず彼は上から目線だった。

萌花は気づいた。来希はいつも、上から目線の口調で彼女に話しかけていた。以前はそれが彼の性格だと思い、とやかく言ったことはなかった。しかし今は言葉一つ一つが耳障りだった。

萌花が黙っているのを見て、来希は彼女が折れたと思った。

彼の声が少し優しくなった。「母さんもひどいことを言ったのはわかっている。でも彼女は田舎者だ。おまえがそんなつまらないことにこだわる必要はない。

年長者は敬うべきだ。今すぐ買い物に行って、昼食に母さんの好きな海老料理を作ってから全身のマッサージをしてやってくれ。そうすれば、彼女もすぐに機嫌を直すよ。

そうだ、一緒に鶏のスープも作ってくれ。はなが昼にスープを飲みたいそうだ。

よし、もう怒るな。今夜は残業しないから、夕飯を一緒に食べよう」

来希の声はとても優しくなっていた。

以前なら、来希がこんなふうに少しでも優しくしてくれれば、萌花はとても嬉しく、どんな理不尽な要求でも聞き入れた。不快に感じることは無意識にスルーしていた。

しかし萌花はやっと来希の本心を知った。

彼の不誠実さや自己中心さに吐き気を催すほどだった。

だが、彼女は来希が突然優しくなったのは、はなに鶏のスープを作らせるためだと気づいてしまった。

あまりにも皮肉な結末だった。

萌花は完全に目が覚めた。

彼女は手に離婚協議書を握りしめ、感情を抑えながら口を開いた。「今、どこにいるの?」

時刻はもう11時、昼食時間が近い。彼がどこにいるか彼女にはわかっていた。

来希は数秒ためらってから言った。「産後ケアセンターにいるから、飯ができたら届けてくれ。多めに作ってくれよ、俺もまだ食べていないから」

「わかった、すぐに向かう」萌花は冷静だった。

来希は満足げだった。

これまでも、萌花が全く怒らない訳ではなかった。しかし彼女が怒る度に、彼はあの手この手でコントロールしてきた。

萌花にはなの産後ケアをさせるのが度を越していることを、彼も分かっていない訳ではなかった。

ただ萌花が自分の事をどこまで愛しているのかを確かめたかった。

もしそこまで彼女が受け入れられるなら、安心できる。今後、自分が何をしようと、どんな要求をしようと、彼女は一切逆らわないだろう。

萌花は車で直接向かった。

10分後、彼女は産後ケアセンターに着いた。

ここは海城ノ浦で一番豪華で高級な産後ケアセンターだ。

一月に千六百万円もする。

この費用は来希が出しているのだろう。

これまで来希は萌花には金を使いたがらなかった。

萌花の頭に、突然ある光景が浮かんだ。

来希と付き合い始めたばかりの頃、彼にお金がないことを知っていた彼女は、デート代を自ら全額出していた。

たった一度だけ、萌花が彼にお願いした事がある。

萌花と来希が街を歩いている時、彼女の大好きなパン屋の前を通りかかった。

彼女はショーケースの中のパンを指さして言った。「来希、ここのチーズパンを買って」

来希は冷ややかに言った。「さっき飯を食ったばかりじゃないか」

この何気ない一言で、萌花が二度と何かをねだることはなかった。

彼女は求めなかったし、彼も与えなかった。

萌花は裕福な家庭に育ち、お金が大事なものだと思ったことはなかった。

彼女はお金に困った事がなかったので、当時は来希がお金を出さない事を問題視していなかった。

しかし今になって思えば、彼が貧乏だったのではない。

ただ自分を愛していなかった。彼にはたった一つのパンを買う気持ちさえなかった。

萌花はまた、心臓が強く締めつけられるような痛みを感じた。

だが、すぐに萌花は産後ケアセンターの中に入った。

いくつも角を曲がりながら廊下を進み、ようやくVIPルームに到着した。

萌花がドアの前に立つとドアは少し開いていた。

中から、甘ったるい声が聞こえてきた。

「あっ、痛い……」

ドアの隙間から覗くと、萌花はベッドの上にロングヘアで顔の整った女性が見えた。

その女性の胸元には、小さな赤ちゃんが寝ていた。

授乳を終えたばかりで、まだ服も整えていなかった。

雪のように白い胸元が波打ち、谷間がのぞいて、肌が大きくあらわになっている。

窓際でベッドに背を向け、外の景色を見ていた来希が女性の痛そうな声を聞いて慌てて振り返った。

その視線の先に、女の胸元のあらわな光景が、真っ正面から飛び込んできた。。

女性は顔を赤らめ、慌てて胸元の服を引き寄せた。

来希もまた、何も見ていなかったかのように外を見た。

しばらくして、女性が説明した。「来希さん、赤ちゃんがまた私を噛んだの」

来希はまた振り返った。

何げない様子でベッドのそばに歩み寄り、腰を下ろした。小さな赤ちゃんを抱き上げて、お尻をポンポンと叩いた。「本当に悪い子だね、ママを噛むなんて」

来希が赤ちゃんを抱く様子は、我が子を溺愛する父親そのものだった。

しかし、彼が何気なくドアの方に目をやると、萌花の冷たい瞳と目が合った。

彼の優しい微笑みは、一瞬にして消え去った。
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