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旅行を52回ドタキャンした夫、もう離婚ね
旅行を52回ドタキャンした夫、もう離婚ね
作者: 風道

第1話

作者: 風道
交際を始めてから夫婦として過ごしたこの7年間で、渡辺賢治(わたなべ けんじ)は私との旅行を52回もキャンセルした。

その度に彼は、仕事が忙しい、急な出張が入った、親族の具合が悪いなどと適当な言い訳を並べ、次は必ず埋め合わせをすると私を丸め込んでいた。

先月、彼の書斎で一冊のスケジュール帳を見つけるまで、私はその言葉を52回信じた。

そこには、同じ街へ向かう52枚の航空券と、彼と幼馴染が寄り添う52枚の写真が挟まれていた。

1枚目の裏にはこう書かれていた。【彼女が海を見たいと言うから、すべての仕事を断って付き添った】

33枚目にはこう書かれていた。【彼女が酔った勢いで、俺と家族になれなかったのが人生最大の心残りだと言った】

そして52枚目。それはまさに、彼が結婚5周年の記念旅行をすっぽかした日のものだった。

写真の裏にはこう書かれていた。

【彼女が妊娠した。俺はパパになるんだ】

私は静かに涙を拭い、離婚届を用意した後、氷河白嶺管理区へ向かう航空券を予約した。

今度の景色は、私一人で楽しむことにする。

深夜零時。賢治が帰宅した時、その体からは強い酒の匂いが漂っていた。

彼はドアを開けるなり、ローテーブルに置かれた写真と離婚届を目にして足を止め、顔面を蒼白になった。

私は離婚届とペンを彼の方へ押しやり、静かな声で言った。

「サインして。

他の女と男を共有する趣味はないの」

彼はサインしようとせず、足早に近づいてくると、私の前に片膝をついて説明を始めた。

「詩音はここ数年うつ病を患っていて、俺に会えないなら死ぬと騒いでいたんだ。小さい頃から一緒に育った妹のような存在が死のうとしているのを、見殺しになんてできるわけないだろう……」

「妹のような存在?」

私は鼻で笑った。

「一緒にベッドへ転がり込んで、おまけに子どもまで産んでくれるなんて、随分とよくできた『妹』ね」

彼は必死に否定した。

「俺の子じゃない!あいつが勝手に書いただけだ。俺とあいつは潔白だ!」

私が何の反応も示さないのを見て、彼は眉を寄せ、恨めしそうな目を向けた。

「俺たち、7年も一緒にいるんだぞ。俺のことが少しも信じられないのか?」

彼の言い訳など聞きたくもなく、私は再びペンを彼の前に突き出した。

彼はふっと笑い声を漏らした。

「いいだろう。今すぐあいつに電話して、お前の目の前ではっきりさせてやる」

賢治がスマホを取り出して電話をかけると、相手はすぐに出た。彼は迷わずスピーカー通話に切り替えた。

「詩音、お前わざと写真にデタラメを書いたな。結衣が怒ってるじゃないか!」

電話の向こうの二宮詩音(にのみや しおん)は一瞬言葉を失い、すぐに可哀想な泣き声を上げ始めた。

「ごめんね……ちょっとした冗談のつもりだったの。まさか結衣さんにバレるなんて思わなくて……」

「今後お前に何があっても、俺は二度と行かない。俺たちを仲違いさせようとするな!」

そう言い捨てると、彼は一方的に電話を切った。

私が視線を落とすと、彼はすがるように私を見上げ、その顔には懇願が浮かんでいた。

「ほら、ただの誤解だっただろ?もうちゃんとはっきりさせた。結衣、俺を殴っても罵ってもいい、だけど離婚なんて言わないでくれ」

以前の私なら、信じていたかもしれない。

でも、問題はそこではないのだ。

問題なのは、その52枚のツーショット写真が撮られた日がすべて、私と賢治が旅行に出かけるはずだった日だということ。

どうやって心を整理しろと言うの?

詩音のお腹の子が賢治の子ではないと、どうして信じられるの?

私が黙っていると、彼は目を伏せ、私を抱きかかえて寝室へ連れて行こうとした。

「最近疲れてるから、余計なことばかり考えちゃうんだよ。

俺たちも、そろそろ子どもを作ろう。子どもができれば、そんなこと考えなくなるさ」

私は顔を背けて彼のキスを避け、その腕の中から抜け出すと、冷ややかに言い放った。

「今夜は、ゲストルームで寝て」

賢治の顔色は一瞬で青ざめ、彼はうつむいて苦笑した。

「分かった。俺の潔白は必ず証明してみせる。明日、あいつに子どもをおろさせるよ」

ゆっくりと立ち上がり、ゲストルームへと向かう彼の背中を、私はただ見つめていた。

その夜は、一睡もできなかった。

再び目を覚ました時には、すでに朝の5時を回っていた。

毎日私のために朝食を作ってくれていた夫が、キッチンに立ち、私に背を向けて電話をしている。その声はとても優しかった。

「心配しないで。次の健診は、絶対に俺も付き添うから。

昨日の夜は怒鳴ってごめんな。お前も知ってるだろう、結衣は頑固だから、ああでもしないと本当に離婚されちゃうんだ。買ってあげたブランドのバッグ、気に入ってくれた?

分かった分かった、俺たちの可愛い赤ちゃんにも買ってあげるからな」

私はその場に縫い付けられたように立ち尽くした。

その瞬間、心は完全に粉々に砕け散った。

足音を殺して部屋に戻った。

今度こそ、絶対に情に流されたりはしない。

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