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第3話

Author: タヤスイ
茜は諒助を見ず、叩き割られたスマホの残骸を惜しそうに見つめた。幸い、レシートはバッグに残っている。

茜は深く息を吸い、まだ平静を保ちながら諒助を見た。「私はストーキングなんてしてない」

諒助は鼻を鳴らし、信じていない様子だ。

状況がまずいと見た友人たちは、慌てて立ち上がり、雰囲気を和ませようとした。だが、そのやり方は茜を非難することだった。

「茜、ちょっとヒステリックすぎない?諒助さんは出たばかりなんだから、医師も脳内の血腫がまだ消えていないから、興奮させてはいけないって言われてるだろ」

「そうだよ。手塚さんだって、記憶喪失中の彼を気遣ってるのに。本当に諒助さんを死に追いやるつもりか?どうりで諒助さんがお前ではなく、手塚さんを選ぶわけだ。もう少し空気を読んで......」

「正直、友達だから言ってるけど、もう執着はやめた方がいいよ」

「......分かった」

茜の返事に、場がシーンと静まり返った。

諒助も呆然とし、茜を見る目に疑念が満ちた。茜はまたどんな芝居を打つつもりだ?

友人たちは驚いた。「え、何て言った?」

茜は繰り返した。「言ったのよ、分かったって。信じないなら、今すぐ全員私をブロックしてくれて構わないわ」

友人たちは気まずそうに諒助を見た。

諒助は冷笑した。「茜、もう十分騒いだか?こんなやり方で俺の注意を引こうとするのはやめろ。言っただろう、忘れられるものは重要ではないものだ。人だろうと、記憶だろうと」

彼は絵美里の手を握り、一言一句はっきりと言った。「絵美里こそが、俺の本命の彼女だ」

絵美里は甘く微笑み、さりげなく茜を見て、自分の勝利を宣言した。

本命の彼女。それは茜がこの四年間、待ち続けた言葉だ。

残念ながら、今となってはもう惜しくもない。

茜は微笑んで言った。「おめでとう」

諒助は眉をひそめ、不機嫌になった。茜を甘く見ていた。以前よりもずっと落ち着いている。

引き際を装って、また縋りついてくるつもりか?俺がわざわざきつい言葉を言わないと、現実を受け入れられないのか?

諒助は絵美里を腕に抱き、ソファにふんぞり返った。「せっかくお祝いしてくれてるんだ。飲まないわけないだろ?まさか、口先だけじゃないよな?」

茜は諒助がわざと難癖をつけているのが分かっていた。だが、敢えて口にした。「脳の血腫がまだあるのに、お酒はダメでしょう?」

彼は正体がバレるのが怖くないのだろうか?

諒助は心の中で冷笑した。

やはりな。茜は口では強気だが、心の中ではまだ俺に付きまとうことを諦めていない。

絵美里は諒助にもたれかかり、悲しげに言った。「諒助さん、茜さんは辛いのでしょう。嫌なら無理強いしなくてもいいわ。無理強いはしたくないもの」

「茜、恋人になれなくても、友達にはなれる。付きまとってもあなたに何の得もない」

「諒助さんと手塚さんは交際を宣言したんだ。しつこい真似はもうやめよう」

「茜、友達だから忠告してるけど、もう諦めろ」

友達?ハッ。茜の目は冷たくなった。

友人たちは一瞬ひるみ、存在感がなぜか弱まった。彼らは、茜がいつもと違うことに気づいた。普通なら、こんなことを言われたら、茜はすぐに頭を下げて謝るはずだ。

諒助が怒るのを、世界で一番恐れていた彼女なのに。

茜はゆっくりとテーブルに近づき、グラスを一つ取った。「飲まないなんて言ってないわ。皆さんの忠告、感謝するわ。そして、諒助さんと手塚さん、末永いお幸せ」

茜はそう言って、酒を一気に飲み干した。

茜はとても美しい。特に笑った時の、繊細な顔立ちには、言葉では言い表せないほどの美しさがあった。絵美里のようなお嬢様でさえ及ばない。

だが、茜は真面目すぎて、結婚前は決して諒助に触れさせなかった。本当に面白みのない女だ。

しかし、その笑顔は、諒助の顔色を曇らせた。

やりすぎたか。

俺が「記憶が戻った」時、彼女が泣きついてくることになるだろう。

諒助は軽く笑い、ソファに深く座り直した。「茜、この言葉、覚えておけよ。出て行け」

茜は頷いた。

振り返る瞬間、絵美里の勝ち誇った笑みと目が合った。

絵美里は口を動かした。声にはならなかったが、読めた。「あなた、本当に使えないわね」

茜はピタリと足を止めた。

後ろの友人たちは、茜の様子を見て、思わず吹き出した。

茜はやりすぎたことに気づき、今になって未練を感じ始めたのだろう。

諒助も額を押さえ、うんざりした顔だ。「茜、もう一度言うぞ、お前は......」

茜はスマホのレシートを差し出し、彼の言葉を遮った。「諒助さん、私のスマホ代、弁償してください。さっき買ったばかりなんで。レシートに時間と金額が書いてあるわ。どうやって支払うつもり?」

「おーほほほ!」友人たちが囃し立てる。茜の小芝居が下手すぎると笑っている。

諒助は冷笑し、困ったふりをした。

茜は彼らを無視し、絵美里と、同じ機種のスマホを使っている友人に視線を向けた。「弁償したくないなら、それでも構わない。私は今、顧客とやり取りの最中だった。あなたのスマホを借りて、ちょっとだけログインさせてください。同期すれば、LINEのメッセージが表示されるわ」

その言葉を聞いた瞬間、さっきまで嘲笑していた絵美里がパニックになった。もしメッセージが同期されれば、彼女が茜を挑発したメッセージも発見されてしまう。茜がでたらめを言うのは怖くないが、諒助にだけは絶対に見られてはならない。

絵美里は慌ててスマホを取り出した。「茜さん、どうして皆が困るような真似をするの?そのお金、私が倍額払いましょう」

茜は頷き、自分の口座番号を伝えた。「手塚さん、返金用として、ちゃんとメモしておいてくださいね。不必要なトラブルを避けるために」

絵美里は歯を食いしばりながら、茜のPayPayに30万円を振り込んだ。金が惜しいのではなく、茜にやり返されたと感じたことに腹を立てていた。

茜は入金を確認すると、礼儀正しく「ありがとう」と言って、そのまま立ち去った。

笑い話を見物していた友人たちは、一瞬にして口を閉ざした。

その中の一人は立ち上がり、入り口を三分間見つめたが、茜が戻ってくる気配はない。

「あれ......本当に帰った?」

「帰ったなら帰ったで、別に構わないよ。どうせ3時間以内には、また口実を見つけて戻ってくるさ」

「俺は2時間で賭けるね」

彼らは次々に賭け始めた。

諒助は酒を一口飲み、戯れに言った。「俺は30分で賭ける」

絵美里はそれを聞いて少し不機嫌になった。「そんなに彼女に戻ってきてほしいの?」

諒助は絵美里を抱き寄せ、無頓着に笑った。「暇つぶしだよ」

絵美里はそれでようやく笑った。

しかし、30分が過ぎ、1時間が過ぎても、茜は現れなかった。

諒助の顔色が徐々に悪くなった。

友人はすぐに雰囲気を和ませた。

「あの、スマホがないから、スマホを買いに行ってたのかも」

「向かいのビルにショッピングモールがあったはずだ。そんなに時間はかからないだろう」

「電話して聞いてみようか。まさか、どこかに隠れて思い詰めているんじゃないだろうな?」

「それは急いで確認しないと」

彼らは、茜が諒助のために死に物狂いになるのは当然だと思っている。

誰かが電話をかけるが、圏外のアナウンス。

「え、ブロックされた?」

「まさか、俺たちは彼女の友達だぞ。LINEで試してみろ」

他の者たちも一斉にメッセージを送るが、未読のままだけだ。

全員がブロックされている。

ドン、と音がした。諒助は重くグラスを置き、絵美里の手を引いて立ち上がった。「もういい。あの女が騒いでいるだけだ。お前たちまで本気にするな。今日の奢りは俺が持つ。行くぞ」

皆、複雑な表情で諒助を見送った後、ようやく口を開いた。「茜、あんなことする子じゃなかったのに、まさか本気で......?」

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