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第6話

Auteur: 飛べないライスヌードル
深志はすぐに夏寧のほうへ視線を向けた。その目には、先ほどよりも強い心配が宿っていた。

夏寧は意地っ張りそうに言った。「深志、大丈夫よ。ただ血を見てめまいがしたから、心配しないで。今は私より小林さんのほうが優先でしょ」

「おばちゃん、顔色がこんなに真っ白になって、大丈夫なんてわけないじゃないか!

パパ、何もしないで立ってないで、早くおばちゃんを病院に連れて行ってよ!だって車、もう止まってるのに。ママは演技してるだけで、おばちゃんを妬んだでしょ!」

風初の言葉を聞いて、深志は芽依を見る目に疑いを滲ませた。

彼は眉間に深い皺が寄り、選択に迷った。

夏寧が再び苦しげに唸ると、深志の理性はあっという間に吹き飛んだ。

彼は夏寧を抱き起こし、駐車場にあるセダンへ歩き出した。

芽依の前を通り過ぎるとき、深志は夏寧の目を手で覆い隠した。

振り返り、深志は申し訳なさそうに声を震わせた。「夏寧はずっと体が弱かったんだ。ちょっとしたことでも命に関わる。俺はもう救急車を呼んだよ。すぐに来るから、もう少しだけ待っていて」

遠ざかる足音とともに、芽依は自分が見捨てられた現実を静かに受け入れた。

苦い笑みを浮かべて唇を引き結ぶと、その口元に一筋の血が滲んだ。

救急車が到着したとき、芽依の意識はすでに朦朧としていた。耳に届くのは、医療者の声だった。

「こんな人たち、救急車を呼んで患者をひとり置いていくなんて」

再び目を開けると、芽依は病室のベッドに横たわっていた。医者が彼女に言った。

「これは交通事故ですね。全身に擦り傷があって、軽度の脳震盪もあります」

芽依は淡々と頷いた。運転手が急ブレーキをかけたものの、衝撃は避けられなかったのだろう。

彼女は医者に尋ねた。「いつ退院できますか?」

医者は即座に制止した。「退院ですって?脳震盪は最低でも四日間の入院が必要ですよ」

医者が去ると、芽依は指を折りながら考えた。

契約はあと五日。退院したら、残りはたった一日だけだ。

そう考えると、彼女は息をついた。

もう、あと少しで終わった。

「ねえ、白坂夏寧もこの病院に来てるよ!あの噂の彼氏も駆けつけたらしい」

「マジで?」

「嘘じゃないよ!浅間社長がどれだけ慌ててたかも知らないでしょ?ずっと白坂夏寧を抱きかかえてVIP病棟まで運び込んだんだから!

業界の権威を呼んで、精密検査までやらせたんだって!」

それを聞いて、芽依は苦笑いし、壁に手をついてゆっくり歩いた。

VIP病棟のドアにはわずかな隙間があった。

ベッドには夏寧が横たわり、風初が緊張した顔で彼女の手を握っていた。

深志は優しく夏寧にお粥を運び、その目は芽依がいままで見たことのないほどに柔らかかった。

あの三人は、幸せそうだった。

病室の外に立つ芽依は、まるで幸福を盗み見るだけの覗き魔のようだった。

足元に近づいてきた看護師が薬を夏寧に送ろうとし、芽依をファンだと勘違いしてささやいた。

「あなたも、あの二人が本当に幸せそうだと思うでしょ?浅間社長が白坂さんを運び込んできたとき、自分が彼女の代わりにめまいしたと思うほど心配してたんだって。

あの緊張を見る限り、ネットのニュースは本当みたい」

芽依はかすれた声で答えた。「ええ、確かに幸せそうですね」

看護師が立ち去ると、芽依は静かに自室へ戻った。

入院以来、彼女の携帯は一度も鳴らなかった。夫からも息子からも一通のメッセージも届いていなかった。

夏寧の待遇と比べれば、悲惨というほかなかった。

ただ、赤字でマーキングされた海外出版社からの一通のメールだけあった。

コンテストが間近に迫っているから作品を送ってほしいという連絡だった。

芽依はすぐに美月にパソコンを届けさせ、病室で執筆を始めた。

個室の静けさは、創作に没頭するには最適だった。

外界の邪魔を断つため、彼女は携帯をオフにし、パソコンもオフラインモードに切り替えた。

深志と過ごした五年間、芽依は深志だけを見つめてきた。

ほとんど書くことはなかったけど、久しぶりにキーボードを打っても、まったく不案内を感じなかった。

彼女は全身全霊で執筆に没頭し、時間の流れすら忘れていた。

看護師から退院の許可を告げられたとき、すでに四日が経っていた。

ちょうどそのとき、芽依の散文も完成し、彼女は作品をメールで送信した。

ようやく携帯を手に取ると、画面には深志からの不在着信とメッセージがいっぱい表示されていた。

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