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第5話

Auteur: トフィー
パーティーの日、仁美は質素な服で現れた。

直樹から贈られたアクセサリーは、一つとして身につけていない。

階段を降りたとき、直樹の瞳にかすかな驚嘆が宿る。

「まるで俺たちが初めて会った頃の君みたいだ。宝石を着けていない方が、ずっと綺麗だよ」

彼は背後から彼女の華奢な腰を抱き寄せ、その熱を帯びた大きな手がゆっくりと下へと這っていった。

「やめて......」

仁美は全身を震わせ、慌ててその腕から逃れた。

「早く行きましょう。遅れたら困るわ」

空になった腕の中を見つめながら、直樹の瞳はふっと翳った。

胸の奥に正体不明の不安が忍び込み、まるで何かが自分の掌から零れ落ちていくような感覚に囚われる。

仁美がこれほどまで彼を拒んだのは初めてだった。

会場に足を踏み入れると、仁美の視線はすぐに人々に囲まれて舞の姿を捉えた。

「直樹、やっと来てくれたのね」

彼女は笑顔で歩み寄ってくる。

オーダードレスに身を包んだ姿は優雅そのもの。直樹の隣に立てば、まるで誰もが認める理想のカップルのようだった。

周囲から次々と声が上がる。

「舞、久しぶりだな。綺麗になったよ。さっき誰かが言ってたよ、『二人はカップルか』って」

「昔のことを思い出すと感慨深いね」

舞は目の奥にわずかな得意を隠しながらも、柔らかく微笑んだ。

「宮下奥様もいらっしゃるのに、そんなこと言わないで。仁美、皆の分も含めて、一杯どうですか」

舞が杯を掲げた瞬間、直樹の手がそれを遮った。

「医者から、舞は酒を控えるよう言われている。俺が代わりに飲む」

そう言って、酒を一気に飲み干した。

舞が仁美を見つめ、挑発めいた笑みを浮かべた。

「直樹は友情を何より大事にする人。どうか気にしないでね」

仁美は舞の挑発を帯びた眼差しを真正面から受け止め、淡々と答えた。

「直樹が義理堅いのは誰もが知っている。みんなの興を削ぐようなことは言わないわ。

そもそも、私は二人の関係を気にしていないから」

周囲から賛同の声を上げ、その場の空気は一気に和らいだ。

直樹も微笑み、仁美を抱き寄せて耳元で囁く。

「舞は体が弱いから、俺が気を配らなくては。ありがとう、仁美、よく場を収めてくれた」

仁美は俯き、答えなかった。

場を収めた?

違う。ただ、嘘偽りなく自分の本音を口にしただけ。

酒に弱きを理由に、仁美はひっそりと隅の席に腰を下ろした。

やがて、パーティーは本格的に幕を開けた。

一通りの思い出を語るスピーチが終わると、会場の大きなスクリーンに映像がが映し出される。

最初は懐かしい青春の日々を振り返る場面が続いたが、画面は突然歪み、別の映像へと切り替わった。

そこに映し出されたのは、顔の見えない女が片手にスマホを持ち、その画面にはある動画のスクリーンショットがはっきりと映っていた。

「パーティーが始まったら、この動画を差し込んで」

仁美はわずかに眉をひそめ、胸の奥で警鐘が鳴り響いた。

どうしてだろう、この声まるで自分のものに聞こえる。

考えがまとまるより早く、映像はそのまま再生されてしまった。

次の瞬間、スクリーンに舞の姿がが映し出される。

裸の上半身を薄いシーツで覆い、鎖骨には蛇の形をした刺青が覗いている。

その上に顔の見えない男が覆いかぶさり、低い吐息を漏らしていた。

「いやっ!」

舞が悲鳴を上げ、顔が蒼白になり涙をこぼす。

「早く消せ!」

直樹は険しい表情で彼女を抱き寄せる。

「仁美が私に恨みを抱いていることは分かっているよ。けれど、私と直樹はそういう関係じゃない。どうしてこんな映像で私を貶めようとするの?」

舞は嗚咽を混じらせながら仁美を指差した。

「違う......」

仁美の顔から血の気が引き、蒼白に染まる。唇がかすかに震え、言葉を紡ぐ力さえ失った。

「違うの、これは私じゃない」

直樹の額に青筋が浮かぶ。

「違うだと?じゃああの声は?映像に映る舞の刺青も捏造だと言うのか?仁美、本当のことを言え!」

喉を掴まれたように息が詰まり、仁美の瞳が潤む。

「信じてくれないの?」

「どうやって信じろと言うんだ!」

雲城の目尻は血走り、拳を固く握りしめた。声には揺るぎない威圧が宿る。

「彼女を家に連れ戻せ!地下室で反省させろ!」

仁美は目を見開き、全身が小刻みに震えていた。

「彼女のためにここまでするの?」

「お前が先に俺を挑発してくるからだ!」

その言葉を聞いた瞬間、仁美は抵抗をやめ、ボディーガードに腕を押さえつけられるまま身を委ねた。

涙は切れた糸のように頬を伝い落ちる。これが、彼女は直樹の前で初めて流す涙だった。

結婚式で「君を泣かせない」と誓ったその男の目には、今や他の女しか映していなかった。

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