Masuk女性の人質の体に巻きつけられた爆発物を処理するため、俺、江川誠(えがわ まこと)は、彼女の服をすべて切り裂くしかなかった。 ところが、結婚したばかりの世間知らずな妻の林原美月(はやしばら みづき)は、その一件をネットに晒した。 彼女は泣きながら、どうして下着だけでも残してあげられなかったのかと俺を責めた。 「人命救助だったのは分かってる。でも、女の子の尊厳はどうでもいいの? あれだけ大勢のカメラが向けられていたのに、あの子はこれからどうやって生きていけばいいの?布の一枚でもかけてあげられなかったの?」 騒ぎは瞬く間に広がり、世論を鎮めるため、爆発物処理班は俺に停職処分を下した。 ならばと俺は、徹底して規定どおりに動くことにした。現場での独自判断など、二度としない。 そして、市中心部で最もにぎわうショッピングモールで、彼女の母親が最新型の複合連動型爆発物を巻きつけられたとき、班全体が血相を変えた。
Lihat lebih banyak数日後、特別調査班の調査報告書が正式に公表され、事件の一部始終が詳細に明らかにされた。報告書では、悠斗が自身の能力不足から嫉妬心を抱いていたこと、王田隊長が実績欲しさに職権を私物化していたこと、そして美月本人がネット上に誤解を招く動画を最初に投稿し、事実と異なる発言をしたことが、今回の悪質な世論騒動を引き起こした直接の原因だと明確に指摘されていた。王田隊長と悠斗は懲戒免職となり、重大な職務怠慢の罪で刑事訴追されることになった。一方、美月は法的処分こそ受けなかったものの、社会的には完全に終わった。職場の同僚たちは彼女を陰で指さし、かつて彼女に同調して一緒に俺を罵っていた「親友」たちも、今では裏で「見る目がなさすぎる」「英雄を悪人扱いした女」と嘲笑っていた。道を歩いているだけでも、通行人から向けられる異様な視線を感じるほどだった。美月はあらゆる手を尽くし、ようやく遠い親戚から、俺の新しい勤務先のおおよその場所を聞き出した。そこは、以前よりさらに警備の厳しい場所だった。美月は警備員に追い払われても諦めず、何日も続けて正門の前に立ち続けた。風に吹かれ、日に焼かれながら、ただ俺に一目会うためだけに。そしてついに、美月は俺を待ち伏せた。俺は車から降り、正門へ向かおうとしていた。すると美月は気でも狂ったように駆け寄ってきて、俺の腕を両手でつかみ、泣き崩れた。「誠!お願い、許して……お願いだから、私を許して!あのときは、一時的にどうかしていただけなの……ネットの人たちに惑わされて……わざとじゃなかったの……」俺は足を止め、静かに美月を見た。かつて俺の心を動かしたその顔には、今や憔悴と卑屈さしか残っていなかった。「君はどうかしていたんじゃない。自分勝手だっただけだ。君の世界では、自分の体面や虚栄心のほうが、いつだって真実より大事だった。君は俺の仕事を一度も尊重しなかったし、命の瀬戸際にいる人たちのことも尊重しなかった。俺たちの関係は、君が俺の写真をネットに上げたあの瞬間に、もう終わっていた」そう言い終えると、俺は美月の手を強く振りほどき、正門の中へ歩いていった。重い鉄の門が俺の背後でゆっくりと閉まり、美月の泣き声も懺悔も、完全に外へ遮断された。俺は美月にこれ以上つきまとう隙を与えず、すぐに弁護士へ
救護スタッフが真っ先に駆け寄り、衰弱しきった美月の母を担架に乗せた。美月の母は少しだけ力を取り戻すと、俺の手を握り、年老いた目から涙をぼろぼろこぼした。「誠さん……本当に立派ね……あなたは、うちの命の恩人よ……」美月はそばについて歩きながら、声も出ないほど泣いていた。俺を見る目には、言葉では言い表せないほど複雑な罪悪感が浮かんでいる。俺はただ事務的にうなずき、静かに手を引き抜いた。そして振り返ると、地面に散らばった工具を黙々と片づけ始めた。その間、俺は美月を一度も見なかった。まるで二人が他人でしかないかのように。現場指揮官が足早に俺の前まで来ると、姿勢を正し、深く頭を下げた。それから力強く俺の手を握り、現場に集まった報道カメラの前で、高らかに宣言した。「ここに宣言する。江川誠をただちに原職へ復帰させる!併せて、特別功労賞を授与する!同時に、監察部門はただちに特別調査班を設置し、今回の不当処分について徹底的に調査する。江川誠の潔白は必ず明らかにする!」悠斗がふらつく足取りで近づいてきた。血の気が引き、顔は青ざめていた。彼はしどろもどろになりながら、俺に謝ろうとしているようだった。「江……江川班長……俺は……」俺は相手にせず、工具の詰まった箱を悠斗の目の前に差し出した。「補助員、道具を片づけろ」俺の声には、感情のかけらもなかった。少し離れたところでは、王田隊長が監察部門の職員二人に両脇を押さえられていた。「王田剛さん、上層部の指示により、あなたはただちに停職となります。我々の調査に協力してください」王田隊長は膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。同じ頃、ネット上では一部始終が生中継されたことで、真相がすべて明らかになっていた。かつて俺に浴びせられていた罵声と非難は、瞬く間に尽きることのない謝罪と称賛へと変わった。【ごめんなさい、江川さん!私たちが誤解していました!】【これこそ本物のヒーローだろ!あの状況で、まさに神業だった!】【前に彼を叩いてた奴らはどこだ?出てきて謝れ!】世論は劇的に反転し、俺は「乱暴な処理員」から、誰もが認める国民的ヒーローへと変わった。そのとき、虹マイクロエレクトロニクスの社長が、俺に救われた娘を連れて緊急記者会見を開いた。その少女はカメラの前
俺の口から次々と出る専門用語は、マイクを通じて指揮本部へ届いていた。そのどれもが、悠斗がタブレットで必死に資料を調べても、最後まで理解しきれなかったものばかりだった。当の悠斗は、俺の工具箱を抱えて戻ってきたところだった。汗だくで、息も絶え絶えになっている。俺は振り返らず、公共チャンネルを通じて、指揮本部と、配信を見ているすべての視聴者に向けて、冷静に説明を始めた。「この連環錠の設計思想は、いくつもの無関係に見える起爆点を作り、実際にはそれぞれを相互に制御させることにある。単一の回路から突破しようとすれば、システムは強引な侵入と判断し、カウントダウンを加速させる」俺の視線は、画面を突き抜けて、指揮本部にいる悠斗の顔へ届いているかのようだった。「先ほど田崎副班長が信号妨害を試みた愚かな行動が、まさにそれだ。何の役にも立たなかったばかりか、罠を作動させ、タイマーを三分も早めた。典型的な素人のやり方だ」それは、容赦のない公開処刑だった。悠斗の顔が赤く染まり、今にも穴があったら入りたそうになるのが見えた。「補助員。遮断板A3とA5を渡せ」俺が命じると、悠斗は慌てて工具箱をかき回し、手間取りながらそれを差し出した。「次に、絶縁ニッパーで左側三本目の赤いダミー回路を切断し、その部分の熱感知器を冷却しろ。これは最も基本的な作業だが、いちばん時間がかかる。お前がやれ」俺は悠斗に指示し、まるで見習いのように、技術も何もいらない単純作業をやらせた。少し離れた規制線の外で、美月はスポットライトの下にいる俺を呆然と見つめていた。集中していて、冷静で、圧倒的だった。一つひとつの動きに、すべてを掌握している者だけが持つ自信がにじんでいた。それは、美月の記憶にある、口数が少なく、自分が好き勝手に責めていた夫とは、まるで別人だった。途方もない後悔が、波のように美月を呑み込んだ。主爆発物の中枢回路を分解しようとした、そのときだった。俺の動きがふいに止まった。超小型内視鏡を通じて、美月の母の左脇の下に、極めて小さな圧力式信管が隠されているのを発見したのだ。その信管は彼女の動脈に接するように仕掛けられており、緊張や疲労で腕の筋肉が緩み、圧力値が変化した瞬間、即座に起爆する仕組みになっていた。「くそ、どこまで悪趣味なんだ」
結局、俺は立ち上がり、釣り竿を片づけた。行動班の隊員たちの顔に、安堵の色が広がる。俺は衛星電話を取り上げ、その場で現地指揮本部へ折り返した。「本部長、戻ることはできます。ただし、条件が三つあります」電話の向こうは、迷わず答えた。「言ってくれ」「一つ目。最短時間で現場に着く必要があります。ヘリを回してください」「分かった」「二つ目。臨時の補助員が必要です。作業中、俺に工具を渡す係です。田崎悠斗を指名します」電話の向こうで、一秒だけ沈黙があった。だがすぐに、さらに力のこもった声が返ってきた。「分かった!」「三つ目。俺が現場に到着してから処理が終わるまで、全工程でボディカメラを起動し、ネットで生中継してください。この爆発物をどう処理するのか、全員に見せます」「いいだろう!条件はすべてのむ!」指揮本部で通信機から流れてきた命令を聞いた瞬間、王田隊長と悠斗の顔から、そろって血の気が引いた。三十分後、一機のヘリがダム湖の上空を旋回し、ゆっくりと降下した。王田隊長は自ら機体のドアの前まで俺を迎えに来て、泣き笑いのような引きつった表情を浮かべた。「江川……」俺は王田隊長を無視し、そのままヘリに乗り込んだ。通信ヘッドセットを装着すると、すぐに指揮センターの技術スタッフとやり取りを始めた。「現場の高解像度監視映像と爆発物の構造図を、すべて俺のタブレットに送ってください。ただちにA班、C班、F班の工具箱を用意。それから、俺の個人ロッカーにあるものを一つ残らず、すべて現場へ運んでください」俺の声は冷静で明瞭だった。指示は一つずつ、淀みなく発せられていく。王田隊長は気まずそうに横に立っているだけで、一言も口を挟めなかった。完全に存在を無視されていた。ヘリは市中心部のショッピングセンター屋上にあるヘリポートへ着陸した。機体を降りるとすぐ、美月が泣きながら俺に駆け寄ってきた。「誠!やっと戻ってきてくれたのね!」美月は俺の腕をつかもうとした。顔は涙と後悔でぐしゃぐしゃだった。だが俺は一瞥すらくれず、わずかに体をずらして、そのまま美月の横を通り過ぎた。まるで、そこにいるのが空気でしかないかのように。美月の手は宙に止まったまま固まり、顔には信じられないという表情が浮かんだ。俺は、すっかり怯えきった悠