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第3話

Author: ゆうしょう
それから数日間、清良のもとには美佐子から挑発的な写真が毎日のように送られてきた。

写真の中では、龍一が娘を優しくあやし、美佐子が彼の肩に寄りかかって甘く微笑んでいる。

清良は指先が白くなるほど強く握りしめ、震える手で一枚一枚写真をスワイプした。

家族三人で抱き合う写真、夜中に病室のベッドで寄り添って眠る二人の写真、彼が彼女に甲斐甲斐しく食事をさせている写真。

清良は一つの動画を開いた。

動画の中では、龍一が足湯の桶を持って、美佐子の足を洗っていた。

彼女の甘ったるい声が聞こえる。

「龍一、ありがとう」

龍一はカメラを見上げ、穏やかな口調で言った。

「お前は子供の母親なんだ。妊娠は大変だろう、これは俺がすべきことだよ」

清良の心は、誰かに引き裂かれたようだった。

涙が瞬時に溢れ、携帯が床に叩きつけられた。

彼女は震える手でそれを拾い、美佐子をブロックしようとしたその時、新しい写真が届いた。

それは、自分が龍一の隣で寝ている、プライベートな写真だった!

【この写真を取り返したかったら今すぐ来なさい。さもなければ明日、これをネットニュースのトップにしてやるわ】

清良は勢いよく立ち上がった。目の前が真っ暗になり、よろめきながら美佐子の病室へと駆け込んだ。

病室では、美佐子が子供を抱いて窓際に立ち、口元に楽しげな笑みを浮かべていた。

清良の姿を見ると、彼女の笑みはさらに深まった。

「私が送った写真と動画、見たかしら?龍一はね、私が心配で毎日病院に泊まり込んでるのよ。それに、私が望むなら毎日でも足を洗ってくれるって」

清良は爪が手のひらに食い込むほど強く握りしめ、言葉を遮った。

「写真を消して」

美佐子は笑みを崩さない。

「その写真がどこから来たか、気にならない?龍一がくれたのよ。彼、あなたがベッドの上では……」

「もうやめて!」

清良は目を血走らせ、鋭く言い放った。

「どうすれば消してくれるの」

美佐子は笑みを消し、残酷に唇を歪めた。

「そうね、ひざまずいて土下座して、自分が卑しい女だと認めなさい。そうしたら消してあげる。どう?」

清良は怒りで全身が震えた。

「いい加減にして!」

「私がいい加減にしたら、どうなるっていうの?」

美佐子は侮蔑に満ちた目で見下した。

「龍一の婚約相手は私なのよ!あなたみたいな恥知らずな女がいなければ、彼はとっくに私と結婚してたわ。あなたはただの愛人。土下座して謝らせるだけでも、ありがたいと思いなさい!

ひざまずきたくないなら、スキャンダルで破滅するのを待つことね!」

清良の目は血が滴るほど赤くなり、胸が激しく上下した。最後に彼女は強く目を閉じ、平静を取り戻した。

「好きにすればいいわ――」

「きゃあ――来ないで――」

清良が目を開けると、美佐子が窓枠に座り、恐怖に満ちた目で彼女に懇願していた。

その背後、部屋の入り口には、龍一と浅井家の両親が恐ろしいほど険しい顔で立っていた。

「清良!何をする気だ!」

恵子が金切り声で問い詰める。

龍一は駆け寄り、美佐子と子供を窓枠から抱き下ろした。まるで失って二度と手に入らない宝物のように、震える腕で二人を強く抱きしめた。

美佐子は清良を見つめ、震えながら彼の胸に顔をうずめた。

「龍一、さっき松永さんが部屋に飛び込んできて、この子を窓から投げ捨てようとしたの。私が赤ちゃんを取り返したら、今度は私まで道連れにしようと……

松永さんが、私たち親子三人を殺そうとしたの……」

「そんなことしてない!」

清良は一言だけ言うと、龍一の殺気立った視線に、それ以上の言葉を凍りつかせた。

彼女が後ずさると、龍一の父・浅井智雄(あさい ともお)が前に進み出て、彼女の顔を平手で打ち据えた。

その一撃で目の前が真っ暗になり、耳鳴りが響き、口の端から血が滲んだ。

「この最悪な女!」

智雄はそれでも気が収まらず、彼女の体を二度、三度と蹴りつけた。

「誰か、家法を持ってこい!」

浅井家の警備員が杖を持って入ってきた。

龍一は思わず一歩前に出た。

「父さん――」

「まだこの女をかばうのか!?」

恵子が鋭く問い詰めた。

「殺しかけたのは、お前の子供なのよ!前回の罰が軽すぎたから、彼女はつけ上がったんだわ。今日ここで懲らしめなければ、次は本当に人殺しをするわよ!」

清良は顔面蒼白になり、全身を震わせながら、ついに龍一に視線を向けた。

彼はまだそこに立っていた。両脇に垂らされた手は、指の関節が青白くなるほど固く握りしめられている。

龍一は清良を見ていた。その目は苦しみと葛藤に揺れていたが……やがて、ゆっくりと平静を取り戻していった。

彼は、静かに顔をそむけた。

清良は、彼が顔をそむけたその横顔を呆然と見つめた。胸の中に誰かの手が差し込まれ、心臓につながる筋肉を無理やり引きちぎり、まだ血の滴る心臓を抉り出したかのようだった。そこには、ただ血まみれの空洞だけが残されていた。

隙間風が吹き抜け、清良は寒さで身震いした。

しかし次の瞬間、低く笑い出した。

自分の愚かさを、浅はかさを、あまりの甘さを笑った。

彼に助けを求めた自分を笑った。龍一が自分を選んでくれると、本気で信じていた自分を笑った!

清良は警備員に杖で床に押さえつけられ、上着を剥ぎ取られた時、龍一がはっと身を翻した。

極度の羞恥心が脳天を貫き、清良は下唇を強く噛みしめ、血がにじんだ。

最初の一撃を受けた時、彼女は龍一のズボンの裾を見つめ、まるで昔の高級マンションの廊下を見ているかのような錯覚に陥った。

服を半分引き裂かれ、必死に走って転んだ彼女の前に、すっと伸びた長い脚が現れた。

彼は手を差し伸べ、悪夢のような場所から連れ出してくれた。

二撃目を受けた時、清良は留学前夜のことを思い出した。龍一は大雨の中、彼女の寮の下で一晩中立ち尽くしていた。翌日、空港へ向かうと、彼は彼女の手を引き、赤い目で言った。

「清良、待ってる。お前以外、誰もいらない」

三撃、四撃……

一撃一撃が、背中の傷よりも痛く、まるで心臓に直接打ち付けられているようだった。

三十撃目が終わる頃には、清良はとっくに意識を失っていた。

引きずられていく時、彼女は力を振り絞って目を開け、また背を向けたまま、全身を硬直させている龍一を一瞥した。その声は、ほとんど聞き取れないほど小さかった。

「……龍一、あの時の三十発の杖、これで返したわ」
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