東都市にその名を轟かせる浅井家と松永家は、代々続く宿敵同士だ。浅井家には、決して松永家の人間と縁組をしてはならない、という家訓まである。それなのに、浅井家の跡継ぎである浅井龍一(あさい りゅういち)は、あろうことか松永家に残された一人娘、松永清良(まつなが きよら)に恋をしてしまった。彼女と結ばれるため、彼は相続権を放棄し、家法として三十発もの杖刑を受け、血を吐きながらも三日三晩、祠堂で跪き続けた。それでも龍一は、清良に向かって微笑んだのだ。「心配すんな。誰にも俺たちが一緒になるのを止められないさ」その後、浅井家はついに折れ、二人が駆け落ちすることを認めた。ただし、一つだけ条件を付けた。それは、龍一が、彼らの選んだ嫁候補・水野美佐子(みずの みさこ)との間に跡継ぎをもうけること。松永家の人間には、浅井家の子供を産む資格などない、というわけだ。その日から、龍一が清良に最も多くかけた言葉は、「待ってろ」だった。一度目は、美佐子を妊娠させるまで待ってろ、と。そして彼は三十三回、彼女とベッドを共にした。美佐子が彼の子供を身ごもるまで。二度目は、生まれてきたのが娘だったから、浅井家が息子を欲しがっているから、と。そして彼はまた三十三回、彼女とベッドを共にした。美佐子が再び身ごもるまで。ようやくこの苦しみから解放されると思った矢先、龍一と美佐子の娘の百日祝いの席で、赤ん坊の体中が傷だらけになっているのが見つかった。誰もが、清良の仕業だと決めつけた。美佐子はナイフを掴むと、狂ったように彼女に襲いかかり、その体を切りつけながら、張り裂けんばかりの声で泣き叫んだ。「私のことが憎いなら私を恨んで!なんで子供に手を出すのよ!」龍一の両親は激怒した。「子供に手を出したからには、その落とし前をつける覚悟はできているのだろうな!」清良は人前で服を剥ぎ取られ、警備員がフルーツナイフを手に、赤ん坊の傷をなぞるように、しかしそれ以上に深く、彼女の体を切り刻んでいった。床に血が広がる。清良が顔を上げると、龍一が震える手で子供を抱いているのが見えた。かつては愛に満ちていた彼の瞳は、今や骨の髄まで凍りつくような冷たさだけを宿していた。血の涙を流す彼女の視線を受け止めても、龍一の目は失望に満ちていた。かすれた声で、彼は言った。
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