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第148話

Auteur: フカモリ
意外だった。まさか、信行が迎えに来てくれるなんて。

指折り数えてみれば、十日ほど会っていなかったことになる。

今回の別れは、まるで何年も会っていないかのように長く感じられた。

一日が千年のように重い。

黒いマイバッハの傍らで、真琴の声を聞き、信行が振り返った。

姿を認めるなり、彼は吸いかけのタバコを携帯灰皿に押し込み、慌てて煙を払う。

月明かりが、二人の影を長く伸ばしていた。

両手をポケットに戻し、信行は優しく声をかけた。

「終わったか?」

バッグのストラップを握りしめ、真琴は歩み寄りながら頷く。

「ええ、終わりました」

距離が縮まり、二人の影が重なる。信行は彼女を見下ろし、その頬が以前よりこけていることに気づいた。

真琴が何か言う前に、信行は自然な動作で助手席のドアを開けた。

「帰ろう」

十日ぶりに会う信行もまた、少し痩せたように見えた。その瞳には疲労の色が滲んでいる。

わざわざこんな遠くまで迎えに来てくれたこと、出張から戻ったばかりであろうことを思い、真琴は素直に「はい」と答え、車に乗り込んだ。

車が実験区を出る。波が岩を打つ音が遠くに聞こえた。月明かりと街灯がアスファルトを照らし、郊外の夜景を幻想的に彩っている。

ハンドルを握りながら、信行は横目で真琴を一瞥した。彼女がじっと前を見つめているのを見て、気だるげに毒づく。

「高瀬の野郎、随分と人使いが荒いな」

信行が話しかけてきたので、真琴は少し表情を緩めて答えた。

「社長はいい方ですよ。ただ、ご自分のプロジェクトに責任を持っているだけです」

その笑顔はどこか他人行儀で、言葉の端々に見えない壁がある。

一呼吸置き、彼女は信行の方を向いて言った。

「そうです、高瀬社長が私の特許を買い取ってくれました。『礼なら片桐さんに言うべきだ』と仰っていましたけれど」

信行は鼻で笑った。

「礼には及ばない……きっちり元を取らせてくれれば、それでいい」

あくまでビジネスだと言う彼に、真琴は小さく笑って前を向いた。

車内は静まり返り、風を切る音だけが響く。

一日中張り詰めて仕事をしていた反動か、助手席の心地よい揺れに身を任せていると、いつの間にか強烈な睡魔が襲ってきた。

頭がこっくりこっくりと揺れ、やがてシートにもたれて深い眠りに落ちていく。

傍らで、信行は寝息を立て始めた
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